お兄ちゃん...
「・・・どうすればいいんですかこれ。」
私は光輝さんに訊いた。光輝さんに訊いても分かるはずがないのだが。
「千代の揚げ物、麺の蒼樹。白米食えば幻の息。」
低く渋い声で何処からか夜叉と思われる聞こえてきた。そしてその声と同時にどっどっどと重い足音が走ってきてることが分かった。
「まずいよぬえええええ‼︎」
私たちは咄嗟に走りだした。幸い夜叉の足は速くないようで、すぐに捕まることはなかった。しかし私たちのスタミナを考えると捕まるのは時間の問題であった。
「どう・・・するんですか・・・捕まりますよ・・・?」
息も絶え絶えであったが、私は光輝さんにそう言った。
「んーこっち‼︎」
光輝さんはそう言うと私の腕を掴んで通路にずらっと並ぶ扉の一つを押し開けた
。部屋は狭く、ダブルベッドが一つだけあった。
「・・・どうするんですかこれ?」
私は言った。光輝さんの巨体だと私が収まるスペースは無いだろう。今更外に出るわけにもいかない。幸い、扉の外の夜叉は私たちを見失ったようで、ウロウロしているようだった。ただし、時折扉をガチャっと開けている音も聞こえるので、私たちに時間がないのは明白だった。
「僕は床で寝るよおお。」
光輝さんがそう言った。しかし私は賛成しなかった。なんせそれは申し訳ないし、なんといっても床に光輝さんの巨体が収まるスペースなど無かった。何かいい案は無いか・・・と思考を巡らすと、私は一つの案を閃いた。
「私が光輝さんの上で寝ればええんや無いですか‼︎」
私がそう叫ぶと光輝さんは驚いた。そういえば私はいつから叫んでいなかったの
だろうか。幼稚園の頃か?小学生の頃か?ともかく私が声を張り上げているところなどそりゃ光輝さんは驚くだろう。しかし光輝さんはその後も困惑した表情をしていた。どうやら理由は声を張り上げたことじゃ無いようだ。
「・・・ほんまにええんか?」
光輝さんは言った。光輝さんがこの案に対して疑問を持つとは思ってもいなかった。でも冷静になって考えたらとんでも無いことを言っていることに気づいた。それでもやっぱり光輝さんにそのような常識が備わっていることには違和感を覚えた。
「・・・はい。」
ベッドの上に光輝さんが乗り、その上に私が乗った。当然であるが、初めて人の上で寝た。光輝さんのお腹は数多の脂肪を蓄えている為、案外心地よく、疲れ切ったのも相まってすぐに寝た。
どのくらい寝ただろうか。光輝さんが起き上がった衝撃で私も起きた。夜叉の足音はもう聞こえず、扉を開けると相変わらず暗くはあったが夜ほど暗くはなかった。私達はベッドの下にあった箱の中にあった賞味期限切れ五日前のインスタント麺の大袋を五袋程頬張ってから出掛けることにした。
一時間くらい歩いただろうか。それなりに歩いた頃に「妹のパンツって、ええよな。」という聞き馴染みのない声が聞こえてきた。誰と会話をしているのだろうか。
「・・・誰ですか?」
私は光輝さんに訊いた。光輝さんも分からないようで大袈裟に肩をすくめた。
「え、じゃあこれあげるわ。」
これは橋本の声だ。何を交渉してるんだろう。嫌な予感がした。
「いやロリちゃうねんええわじゃあな。」
誰も分からない声の主は去っていったようだった。私達は、二人が会話していた方向に向かった。そこには橋本とみつきちゃんがいた。
「え、お前ら何しとん。」
橋本が言った。それはこっちのセリフだ。
「みつきちゃん売り飛ばそうとしました・・・?」
私は訊いた。すると橋本はこう答えた。
「え、何が。」
ダメだ会話が噛み合わない。ちゃんと言ってもとぼけられるだけだろう。
「ん、ああ、さっきの話か。あれは冗談やで。」
橋本が言った。本当だろうか?信用ならない。
「あいつらどこおるん?」
橋本は続けた。あいつらとは他のメンバーのことだろう。
「知らないよおおお。いまさがしてるよぉぉおお‼︎」
光輝さんが言った。
「お兄ちゃん、もやもや、少ない。」
突然みつきちゃんが光輝さんを指差して言った。
「んんんん?」
光輝さんは言った。しかしみつきちゃんはそれを言ったっきり、何も言わなかった。どういうことだろう。
「なんかここ臭いからはよ出たい。」
橋本が言った。臭くはないがこんな空間に二日もいたら流石にげんなりする。早く帰りたいのは同感だったので次へ進むことにした。




