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暗黙の夜、救世主の肥満

「そこの君!デブは嫌いかい?」

男は真夜中の雨の中叫んだ。私ははっと振り返った。男はもう一度叫んだ。

「君もデブにならないかね?」

そう、これはあの人と私の一夏の物語だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私は二宮綾。西宮市に住む中学二年生だ。私の家はかなり豊かに見える。実際、私の家柄はかなり良く、大企業の令嬢で、赤子の頃は大金持ちだったらしい。しかし経営が極めて厳しくなり、貧しくなった。必要以上に灯りをつけることも許されなくなった。その癖、母のプライドが高いので無駄に大きい豪邸を手放すどころか衣服で散財するので余計貧しくなった。父も若い頃は美青年だったが、次第に酒に溺れ、私に暴力を振るうようになっていった。兄弟もいなかったので、家に居場所がなかった。学校では母のはったりのせいで令嬢だと思われた。しかしそれが一層私を惨めにさせた。おまけに自分で言うべきことではないが無駄に顔が良かった。それ故にしばしば学校の男子生徒に付き纏われた。押し倒されかけたことさえある。女子生徒からは、嫉妬のせいかいじめられた。そして二年生になるといじめがさらに激化した。死にたい。死にたい。死にたい。七月初めの雨の日の夜、私は家を抜け出し橋の上に立った。もうこれで楽になれる。ーーーーーーーーーーーーーその時だ。

「そこの君!デブは嫌いかい?」

私ははっと振り返った。傘を刺した大男が立っていた。男はもう一度叫んだ。

「君もデブにならないかね?」

「な、何を言ってんの?」

私は掠れた声で返した。何を言ってるのだろうか。訳が分からない。自殺を止めようとしていたのだろうか。それともそのままの意味で言ったのだろうか。いずれにしても分からない。全くもって意味が分からない。男は近づいて腕を掴んできた。

「君は細すぎだよ。もっと食べなきゃ。」

「な、、、何をしてるの・・・?は・・・離して‼︎」

その時、私は一瞬フラッとなった。

「ほーら、そんな細いからすぐにそうなる。美味しいものを食べなきゃ。」

「あんたには関係ないでしょ。離して‼︎」

「ふふーん、自殺しようとしていたのかいもしかして?」

マジかこいつ・・・今になって私が死のうとしていた事に気づいたのかよ。

「まあいいや、僕もお腹空いてきたし。君もお腹空いたろう?だって細すぎるもん。」

「・・・」

私はもう何も言う気が無くなりそのまま彼の家に連れ込まれた。

 いつの間に寝ていたのだろう。彼の「ご飯だよー」で目が覚めた。目の前には一メートルくらいありそうなピザ、大皿に乗ったポテト、五〇個はあるであろうハンバーガー、一・五ℓのコーラのペットボトルが数本並んでいた。大家族なのだろうか。でも家族の姿が見当たらない。

「家族の人はどこにおるん?」

「家族?僕は一人暮らしだよ?」

嫌な予感がした。

「・・・もしかしてこれ二人で食べるん・・・?」

「当たり前だよ。違うと思った?」

いや無理無理無理、ぼうのパスタでさえ食べ残したような私が食べ切れるわけが無い。

「食べ切れるとでも思ってんの・・・?」

「え、食べきれないのぉ⁉︎」

男はそのまん丸に貼った顔で目を大きく見開いた。その顔が面白くて、不覚にも笑ってしまいそうになった。

「まあいいや、もう食べるよ。」

男はそう言いフライドポテトから食べ始めた。瞬く間に大皿のポテトが無くなっていった。

「・・・なんでそんな食べるの早いの?飲み物ちゃうんやぞ?」

頭おかしいのかこいつ。にしてもこの男の食いっぷりはすごい。こっちまでお腹が空いてきた。なので私はハンバーガーから食べ出すことにした。うまい。どんどん食べられる。高いバーガー屋でも数あるファストフード店のバーガーでもない、食べたことのない味。

「いい食いっぷりだねぇ。」

私ははっと我に帰った。

「これ全部一人で作ったの?」

「そうさぁ、一人暮らしだから自分で作らないとね。高くついて敵わないしな。それに父さんの味を作り出したいしね。」

「父さんの味?」

「あぁ、父さんの味。結構実力のあるシェフだったのさ。けど三年前だったかなぁ交通事故で亡くなっちゃって。ちょうどその頃母さんは不倫してたみたいで僕をほって出ていってしまって。でも申し訳ない気持ちもあったのか遺産は全部置いていってくれたみたいで。児相に保護してもらってもいいんだけどこんなたくさん食べれなくなっちゃうからねぇ。」

「・・・待って児相ってことはあなた中学生⁉︎」

信じられなかった。てっきり三〇くらいの太ったおっさんに捕まったと思っていた。

「うぅん、そんな驚かないでよぉ。僕はまだ中学三年生だよぉ。」

よりによって一歳年上かよ。ん?もしかして・・・

「もしかしてそこの中学に・・・?」

「ん、そうだよーもしかして同中?」

マジかぁ・・・同じ中学の先輩だったのか・・・

「そういえばまだ自己紹介していなかったね。僕の名前は野田光輝。よろしくね。」

「私の名前は二宮綾です・・・よろしくお願いします・・・」

「わぁもうこんな時間。学校に遅れるから寝なきゃ!あ・・・二宮さんはどうする?」

「私は・・・私も帰ろうと思います。」

「それならお元気で〜‼︎あ、帰り道わかる?」

「はい‼︎なんとか・・・なんとか帰ります‼︎」

私は野田さんの部屋を後にした。なんだったんだろう・・・あの人。何がしたかったのだろう・・・不気味だった。でも何故か嬉しかった。一人では無い気がした。

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