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第5話

 本に夢中になってついつい夜更かしをしてしまった。さすがにそろそろ寝ないと夜が終わってしまうくらいの時間帯に、部屋をそっと抜け出した。リリアーヌ様に見つからないように。目的はただのお手洗いだけれども。

 と、前方に人影があった。丸まっている。リリアーヌ様ではなさそうだ。


「……リュカ様?」

「ああ……マナか」


 何とも珍しい両足をついたリュカ様の姿がそこにあった。今なら私でも勝てるかもしれない。


「どうしたんですか? お腹空きました?」

「……お腹は空いてないんだけどね」


 とりあえず、何になるかは分からないが背中をさすってみる。話を聞くと、なんでも、ギルベアト様とクリス様とお酒を飲んでいた際に、強いお酒を盛られたとか。確か、リュカ様はあまり得意ではなかったはずだ。


「クリスが共謀しているなんて思いもしなかったからなぁ……。結構飲まされてからギルベアトをいなすのにはさすがに疲れたよ」

「その体で戦ったんですか!?」

「できないことはないものだね」


 魔力を毒素分解に集中させつつ、短期で決着をつけたらしい。というか、そこまでして負けるギルベアト様が格好悪すぎる。ひょっとすると、今はデイジー様よりも弱いんじゃないだろうか。


「今なら勝てると思われたんだろうね」

「そんなことを思う卑怯者はギルベアト様くらいですよ、ええ」


 自分もさっきちょっと思ったことは黙っておく。と、リュカ様が背をさする私の手を止めた。


「……ようやく終わった。ああ、きつかった」


 アルコールの分解が終わったらしく、リュカ様の顔色も戻っていた。


「ありがとうマナ。助かったよ」

「いえ、私は何も」


 お酒で気分が悪い人の対処法として正しかったのかは分からないままだが、一先ずお礼を言われた。後で、クリス様にでもきちんとした対処法を確認しておこう。


「まだ飲めないだろうけど、マナはお酒好きそうだね」

「そうですね。甘いものもあると聞きますし、色々な風味の飲み物は嫌いではないです」


 ただ。



「私の村では二十歳からしか飲めないので、ご縁はなさそうですが」



 その言葉に、何か言いかけて。気づいて。リュカ様は別の言葉を紡いだ。


「……ここでは制限はないけれど」

「嬉しいですが遠慮させていただきます。村はなくなっても、守るものは守りたいので」


 掟を破ることは簡単で、破ったとしても怒る人ももういないけれど。私にとっては、それが大切なことのように思える。ただ、それだけだ。


「代わりに、美味しいものを用意するよ」

「ぜひお願いいたします」


 そうして、部屋に戻り、お手洗いへ行くのを忘れていたことを思い出してもう一度部屋から出て、リリアーヌ様と鉢合わせた。


「そんなことより、リリアーヌ様」


 怒られそうなことから一刻も早く話題を逸らすべく、


「ギルベアト様とクリス様が何やらよからぬ企みをしていたそうですよ」


 お二人を生贄にした。致し方ない。悪はどこかで裁かれるのだ。


「私は困難に打ち勝つリュカ様の姿が見たかっただけなんですけどね」

「俺はただ勝ちたかっただけだ」

「私は逃げたかっただけです」


 そうして、結局夜更かしをしていたことがバレた上に、人を犠牲にしてまで逃げようとした私も一緒に、罰として三人で城外の草むしりをさせられる羽目となった。




 悪はどこかで、裁かれるのだ。はぁ。


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