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異能学園の生徒達が異世界転移しましたが、彼らは現実の世界の方がよっぽど危ないことを思い出しました

今日は参加自由の訓練のはずだが、ぼくら以外の全ての学生は既に集まっていた。

的に向かってスキルを撃ったり、魔術の練習をしたりしている少年少女。



「な~んか、嫌なかんじだにゃ~」


果無否引は呟いた。


少年少女は二つのグループに分けられている。


片方は不良学生たちがトップのグループ。どうやらSランクスキル、「焔竜の右腕」を得た茶髪の少年率いる不良学園の生徒は皆がAランク以上のスキルを保持しているらしく、他の学園のグループのうち、強いスキル、AランクからBランクのスキルを持った勇者候補の多い学校グループは不良学園の傘下に入っていた。容姿の整った女子が何人か不良学園の生徒に「媚びを売る」以上の接触をしていた。



もう片方のグループは名門校のグループ。EXランクスキルのイケメンくん率いる名門校の生徒達は全員がSランクスキルを持っているらしく、あぶれた弱者が庇護を求め傘下に入っていた。


「おーい君たち、こっちこっち」

「なんですか?えーっと」

「優斗だよ。亮太くん──あのガラの悪い人たちのそばには行かない方がいい。強いグループを昨日のうちにつくって、今日は朝から可愛い女の子を手下にしようと脅しまくってるんだ。君は可愛いから」

「え?」

「間違えた。君の学校の女子は容姿がいいから、早く僕等のところに来た方がいいよ、君だって綺麗な髪だし綺麗な瞳だから危ない」


すごい。猿山の戦略だ。


「ところで君名前は?」

「現白御伽」

「可愛——綺麗な名前だね。」

「はあ」


僕は不良学園の生徒達のスキルから便利そうなものを観察している。


「こっちに練習スペース確保してるから、とりあえず早く――」

「おい、いい加減にしろやおりこうちゃん。そこのザコ学校の女子は俺らの本命なんだよ」

「いい加減にするのはそっちのほうだ!君たち、こいつらは挑発して「決闘」を持ちかけ強いスキルで半殺しにして引き抜いてくる。何を言われても聞いちゃだめだよ」


爆音と金属音が響く。

亮太が焔竜の右腕を優人に振るったのを、英雄王の聖剣で防いだのだ。

衝撃で優斗が吹っ飛ぶ。


「てめえ、一番才能あるからって調子乗ってんな。このザコ学校の女子共だけは渡さねえぞ。おまえのお友達はすっかりビビっちまってるし、成長する前にここでトラウマになるまでフクロにしてやろうか」


よく見ると優斗くんの服は血と土塗れだし、名門校グループ傘下の中にもかわいい子はちゃんと残っている。

恐らく「決闘」とやらをなんども受けたのはこの優しい男の子だけの様だった。


勇者様だねえ。


不良学園の生徒は前髪から青い火花を散らしたり、紫の宝石を周りに漂わせたり、不定形の光を伸ばしたり広げたりしながら優人くんを取り囲む。


「ぼくらは君らとつるまないよ」

「あ?」

「優斗くんがボコられようがどうだろうが、君たちと友達になりたくないから、まず僕を袋叩きにして、それからうちの可愛い神崎高校の女の子を口説けばいい。君らみたいにダサい奴等が堕とせるとは思えないけどさ」

「……リョウタくーん。こいつムカつかねえ?」

「いやーないわーまじ、きっついんだけどこいつー」

「……」


殺気がこちらに向く。


(分かってるでしょうね)

(わかってるよ)


「駄目だ!頼む、その子を傷つけないでくれ!」


無表情で右腕に纏わせた火が膨れ上がり、竜の姿を帯びる

ばごんと、恐らくは──亮太の予想から外れた音が響いた。

不定形の揺らめく光が盾となって炎の竜を防いでいた。


「お、俺のスキル!」

「はあ!?なんで「揺らめく光の支配」が俺の「焔竜の右腕」で壊れねえんだよ!」


あ、スペック的におかしいのか。このスキルの持ち主がイジラレキャラなのかやたら攻撃されて防いでたから出来るのかと思った。


「焔竜の右腕」


僕は右腕に亮太のスキルが生まれる所を「空想」して現実を塗り替える。

事態が呑み込めず、思考がフリーズしている亮太をぶん殴った。

本来のスペックを超えた爆発が起きる。

イメージは文字通り「死なない程度」だ。

レベル1の肉体が絶対に行動不能になる程度のダメージを空想する。

穿たれた大きな穴の中で、ボロボロの亮太くんが転がっている。


比較的冷静なのは紫の宝石を生み出して操っていた奴だ。


「紫の弾丸は撃ち抜ける」


散弾銃の様に紫の宝石が飛んでくる。

揺らめく光を大きく広げて防ぐと、どうやらこの宝石は着弾と共に紫色の光の爆発を起こすらしい。


百個ほどの宝石の散弾をイメージ。着弾すると爆発する事をイメージ。あいつらに向かって飛んでいくイメージ。


四人の取り巻きは一瞬で訓練場の端まで吹っ飛び、弾が尽きるまで炸裂弾の宝石で壁に張り付けられた。

「コピー能力とか、チートだろ……」

ちがうよん。チートとはよく言われるけどね。


「く、そ、が・・・・・ぜってぇ、ころ、す」


一番ダメージが大きいはずの、亮太が足を痙攣させて立ち上がる。

ふらふらした膝を殴って、顔を叩いてから再生魔法を使いながら僕を睨みつけた。


(すっげ)


全知万能(スタディ・マニアック)」の知識。

召喚された際レベル0からレベル1への上昇が起き、身体が頑丈になっているという知識は知っていたが、目を見れば脳震盪を起こしていることはすぐわかる。これは彼自身の根性だろう。

あるいは彼の生きてきた道が彼に負けることを許さないのだ。

再生魔法を習得している強さへの執念からもそれが分かる。


生物学のオスの生存戦略として「ハト派」、「タカ派」という分類がある。

この分類は不良文化でよく説明が出来る。

ハト派は威嚇、ハッタリを使って相手が引くまで威嚇を続ける。戦いからは逃げて本当に喧嘩はしない。

一方タカ派は本当に殴る。ハト派が威嚇したら本当に戦うからタカ派は強い生存戦略だ。

ではなぜ全員タカ派にならないのか?

タカ派同士が喧嘩になった場合、それはほとんど殺し合いに近い戦いになる。タカ派の雄はもうこれ以上()り続けたら死ぬというところまで絶対に引こうとしない。

そうして負けたタカ派はハト派になるのだ。

負けたタカはハトになる。

亮太は完全なタカ派なのだ。半端な負け方では自分の負けを認めない。そうやって生きてきたから今でも彼はタカなのだ。



右腕に炎を纏おうとするが、すぐに霧散する。意識がもうろうとしているとスキルはうまく発動しないのか、魔力切れか。

ここでもう一発夢遊権現(スキゾイド・オーダー)で吹き飛ばしても、ステータスを上げてまた僕の前に立ちはだかるだろう。


(ステゴロで完全に叩き潰す)


果無先輩が、格闘技に凝っていたことがある。


「オラァ!」


 「神世許可ディラック・スイミング」という、距離無制限・対象無制限のワープ・人の心の中へのワープ・立ち入り禁止区域に無断で入っても周りが異変に気づかない・異次元へのワープなど、ワープ能力の究極版(ハイエンド)といえる異能を持っていた生徒会役員が居た。


「ガハッ」


彼女は果無否引という女に心酔し、なんでも言う事を聞いていた。

そんな破格の能力を否引先輩の為の自衛隊基地への無断侵入に使用して、彼方の「全知万能(スタディ・マニアック)」によりCQCの技能をコピー、僕等に配布して果無否引は「全校生徒異能無し天下一武道会」を学園で開催したことがあった。

まあヒビキ先輩は2メートルある空手部の三年生男子に本当に異能抜きで圧勝という、全校生徒が「でしょうね」以上の感想を持たない、全く盛り上がらない大会だったのだが。

それで僕もCQCの技能がインストールされている。

殴る。パコーン。とマヌケな音が響いた。


ぴき。


彼方にCQCのデータを僕の脳に送信してもらった後、「現実版割れ厨」と呟いたら「痛覚」の情報を送信され拷問にかけられたものだ。


「クソ、くそくそくそ」


神製許可ディラック・スイミング」、久遠透子。召喚された日に休みだったけど、今は元気かな。




パァン。パン。ドン。パンパン。ぼこ。どか。ばき。ごき。ぱあん。ドン。ボコボカバコドカグチャ。




そういえば、今の生徒会の仕事、あの透子が全部やってるとかないよな。もしそうなら異能学園はおしまいだけど。

「割れ」で得たCQCで亮太が立ち上がらなくなるまでボコボコにしていたら、大変なことに気づいてしまった。



「助かったよ。君、強いんだね。綺麗な顔が無事で良かった。よかったら今度、その」

「ヴぉまえ、ぐええな、すでごろでまげたのはじめてだぜ、みためりやるじゃえか」

(お前、強いな。ステゴロで負けたのははじめてだぜ、見た目よりやるじゃねえか)

「先輩!生徒会の仕事、久遠一人にやらせてたら学園が、いや世界があぶない!」

「「「あああああああああああああああ!!!」」」



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