我、村長也
現在、午後1時
農業を終えた「山中うみ」は部屋の掃除をしている。
「それにしてもこの家、きったないなぁ。
掃除してもキリがない。」
「あー、ここも汚いなぁ〜、よー、あ、」
「ガターン!」
またしても床が落ちた。2畳分。
この家、二日で4畳失う
「まじかー、またかー。しかも昨日と同じ部屋だし」
8畳ある部屋のうちの4畳。半分を失った。
この家、あとどれだけ保つのか。
「ピーンポーン」
「はーい!」
「ガチャ」
「あれ、いないな」
「ピーンポーン」
「じゃあこっちかな」
「ガチャ」
「あれ?ここでもないのか」
「ピーンポーン、ピーンポーン」
そう、この家は玄関が4つあるのだ。
故にインターホンも4つ。
「えー、どこを開けたらいいんだろ」
「はーい!」
「ガチャ」
「あ、当たりだ!あ、科研るるみだ!」
科研るるみ、50m先の隣人。科学者
うみの弟子である
「ご無沙汰です!師匠。師匠もしかして、玄関がどれか迷いました?」
ご明察
「そうなんだー、どの玄関に科研るるみがいるかわからなかったんだよぉ」
「ですよね、私も初めはそうでした!」
周辺の家、ほとんど造りは同じだ。
造ったやつは馬鹿なのでは
「そうだ師匠!提案があります!」
「なんだい弟子よ」
この男、馬鹿のくせに師匠ぶってやがる
「もしよかったらインターホン改造しましょうか?」
「改造?」
「4つの玄関全て同じ音だとどれかわからないですよね。だから1つ1つの玄関の音を変えたらわかりやすいかなと」
「あ、あれか。科研るるみの音でなってた変なインターホンの音か」
「変は置いといて、それです。」
科学者、科研るるみ。もしかしたら彼女が英雄なのでは。こんな馬鹿より
「おー、便利で面白そうだね〜。じゃあ任せようかな。」
「師匠のためならば喜んで!音の希望とかありますか?」
「ないなー、おまかせで!!」
「でまかせで?」
「いや、おまかせだよ」
草、草が生えるようなボケとツッコミだ。
「では、師匠、家に改造の道具取ってきますね」
「わかったー」
この女、結局何しにきたのだ。
「あーー!」
「どうした?走って戻ってきて」
「肝心なことを言うの忘れてたー」
「あ、確かに。何しにきたんだと今思った」
揃いも揃って馬鹿である
「えーっと、本題はー、村長が師匠と会いたいとのことです。」
31人の村であるが、村長くらいはいる
「村長。だれ?」
この男、村長も知らないのか
「行けばわかります。村長の家は私の家の隣の隣の隣の隣です。」
「えーっと、どう言うことだ?」
この男に今の説明でわかるはずがない。
「えーっと、あ、確か表札があったはずです。名前は中村長って名前かな。」
表札でフルネーム、珍しいものだ
中村長、「中」を抜けば村長。
なんともややこしい
「オッケー。行ってみるよ。」
「じゃあ、私はその間インターホンの改造しときますね」
「わかった、ありがとう。」
「行ってきます。」
「師匠、行ってらっしゃいです。頑張ってください。」
頑張れとは、さてはこの女、男が家にたどり着けないかもと思ってるのでは。
確かにありえる。
「あれ、どれだ、ちゃんと隣の隣の隣の隣って数えながらきたけど」
案の定、この男、迷った。やはり期待は裏切らない。
「あれー?表札が見つからないなー」
「ん?これか?これが表札?」
これは表札ではない。看板である。
しかしその看板には「中村長」と書かれていた。
「まぁ、名前は合ってるからこれでいっか。インターホンを鳴らそう」
「ぶいんぶいんぶいんぶー」
趣味の悪いインターホンの音だ
「これも改造したのか」
科研るるみ、村長の家まで手を加えたらしい。
「入れ」
「あ、中から声聞こえてきた。入っていいってことかな」
「おじゃましまーす」
「おおお、レッドカーペット!?」
部屋にはレッドカーペット。
ハリウッドかよ。この家の村長も、もしかして馬鹿なのでは
「レッドカーペットだ!すげえ!俺、
ハリウッド俳優なったみたい!」
安心しろ、お前にハリウッド俳優は100回生まれ変わっても無理だ。
「きたか、座れ」
中村長、村長、年齢30くらい
「あ、はい。失礼します。」
「お前が山中うみだな」
「そうです。挨拶が遅れてすみません」
「ほお、ちゃんとしてるではないか」
この男、こう見えて最近まで都会でサラリーマンだ。接待はお手のものである。
「本日は何用で?」
「特に用はない。山名うみという男を見てみたかっただけだ」
「はあ」
「いい体だ。それに男らしい顔つきだ」
「え、」
中村長、目つきがいやらしい。
中村長、性別男、恋愛対象女
「ちょ、触らないでください」
「なんだ、俺は村長だぞ」
こいつ、自分の権力をかざしてくるやつだ
山中うみの会社の部長にそっくりである。
「で、でも、流石にダメですよ」
「ぷっ、ぷっはっはっはっ!」
「え、え、なんですか」
「うそだよ、嘘。俺はちゃんと中身も男だよ。ちょっとからかってみただけ」
「本当ですか」
「ほんとだよ、てか、お前ヒョロイし、死んだ魚の目してるしからいい体でも男らしい顔でもないじゃないか」
ごもっともだ
「え、えー、それはそれでひどいですよ。」
言われて当然だ。
「まぁ、いい。とりあえず落ち着け。
ちゃんと話がある。」
さっきはないって言ってたのに
「は、はあ、なんでしょう」
「よし、手を出せ」
「え、え?手?」
「早くしろ」
「は、はい。手です。」
「よし、じゃあやるか。」
こ、この組み方は
指相撲ではないか。初対面で指相撲。
やはりこの村長、馬鹿だ
「え、指相撲?」
「そうだ。準備はできたな、よーいスタート」
「おらおらおら、うぉっ。やるではないか山中うみよ」
えー、大変お恥ずかしい姿です。大の大人が2人真剣に指相撲。僭越ながら私も解説させていただきます。
村長が攻めていく。親指をうまく回して押さえつけようとする。一方、山中うみはそれをことごとく回避していく。
何という、高度な闘いなのだー!
「くっ、くそ、逃げてばかり」
逃げの山中、攻めの村長。
この闘いはどうなってしまうんだー。
1分後
「はー、はー、はー、逃げるなー。はー、はー、」
おーっと、村長の指力が削られてくる。
ここで、なんと山中うみが攻めてきたー
「くっ、なに?!ここでか」
村長、いきなりの攻めに困惑する。
反応が遅れ、押さえつけられたー
「くっ、なんとか、なんとか逃げ出さねば」
10秒のカウントが始まるー。
村長、懸命にもがくも、山中の猛烈な指力から逃げ出せなーい
「うっ、うぉぉぉぉぉ」
タイムアップ
勝者、山中うみ!
「ふう。流石に疲れましたね。」
「山中うみよ、誇れ。お前は強い。」
この白熱した、しょうもない闘いにお付き合いいただきありがとうございました。
「で、村長、なんでいきなり指相撲なんですか?」
そんなのどうせ馬鹿な理由であろう。
「え、そんなの決まってるだろ?
村長を決めるんだよ。」
ほらみた、馬鹿な理由だ
「は?」
「ってことで、今日からお前が村長な」
山中うみ、入村二日目にして、村長となる
「は、え、え、無理ですって!」
「え、こっちも無理なんですけど。」
この村、実は村長な指相撲の強い人がなるというしきたりがあるそうだ。
とことん馬鹿らしいしきたりだ。
「え、えーーー!」
しかしこの指相撲は後に
「湖林村史上、最大の決戦」として後世に
語り継がれることになるとはまだ誰も知らない。そして、村長、山中うみ。この新たな村長はこの村史上最強、最高の村長として語り継がれるのはまだまだ先の話だ。
ここから、この男、山中うみの英雄譚が
加速していく。本人は全く知らないが。