ワクワク、ウキウキ農業
「ふああー、疲れたぁ〜」
山中うみ、移住二日目
「昨日は疲れた〜。あ、村長にも挨拶まだしてなかった。めんどくさ、また明日にでもいこ」
昨日落ちた床はそのままである。この男、治す気はさらさらない。
「よし、今日は農業でもしようかなー」
湖林村、この村は都会からかけ離れたところである。近くのコンビニでさえ、車で2時間以上かかる。故に、自給自足が鉄則である。
「さすがに、持ってきた食べ物も少ないから自分で作らないとな。」
この男、コンビニまでの距離など自給自足が鉄則、全てを知った上で持ってきた
食材は約三日分、足りるはずもない。
「まぁ、なんとかなるか!畑で何作ろうかなー、せっかくなら俺の好きなものかいいなー」
なんと、この家には農具が置かれているのだ。かなり昔のものであるが。
「お、この道具つかえるな。これも、お、これもいいじゃん」
種と道具を持って男は家付属の畑に向かう。この家、元々畑が付いているのだ。
幅3m、長さ50m、なんとも細長い。
「にしても、長いなー。隣の家まで続いてるじゃん」
「ま、いっか。作業に取り掛かるとするか。」
ただいまの時刻、朝5時。まだ日も登っていない時間からこの男は作業をはじめていた。
「まずはー、よし、耕せばいいのかな。」
家にあった鍬を取り出して大きく振りかぶる。
「よーいしょ、よーいしょ、よーいしょ
気持ちいいなぁ、よーいしょ」
勢いよく、思い切り振りかぶる。
「よーいし、え、うわ」
この男、思い切り振りすぎて鍬を前に飛ばしてします。
「どん、パリン!」
「え、まじ、やっちゃったあ」
この男、止めてあった自分の車のフロントガラスを鍬で盛大に破壊した。なんと愚かなことか。調子の乗りすぎである
「うわぁ、フロントガラスほぼ無くなったじゃん。運転できるかな」
この男、二日目にして、フロントガラスのないオープンカーわ作り上げてします。
「うーん、まぁ、ガラスだけだし、運転できるか。案外涼しいかも」
立ち直った。この男、メンタルだけは化け物だ。
「よーし、耕すの続けるぞー。」
その後も何度も鍬を投げ飛ばすことがあるも、1時間後、なんとかやり遂げた」
「疲れた〜、ふう。ちょっと休憩」
ただいま、午前6時、ようやく日がでてきた。
「ふぅー、明るくなってきたことだし、作業再開だな!」
「種を植えようか。どれを植えようかな。どれにしようかな…これだ!」
この男が選んだのは桃と胡瓜。
なんとも一貫性のない。
「50mのうち、30mは桃で、20mは胡瓜にしようかな」
「早速、撒くとするか。えーっと、こっちが桃の種で、こっちが胡瓜の種だな。
あわっ、おっとっと」
「バタン」
置いていた鍬に自分の足が引っかかり、
朝日の前で1人ずっこける。音だけがここ一帯に広がる。なんと恥ずかしいことか
「いったー。あれ、種は。うわぁー、桃と胡瓜の種混ざっちゃったよ」
桃の袋、胡瓜の袋、どちらの袋もぶちまけて、どちらがどちらの種かわからなくなったのだ。
「うーん、どっちがどっちだ。見分けつかないなぁ〜。うーん、うーん、まぁいっか。どっちも撒いたら、どっちもできるだろ」
この男、農業を舐めている。
全国の農家さん。この男の暴走を止めてくれ。
「るんるんるん、まいてーまいてー、いっぱいそだてー、まいてーまいてー、いっぱいそだてー。」
気味の悪い歌を歌いながら撒いている。
なんの工夫もない。ただテキトーに撒いているだけである。
全国の農家さん。何回も言う。
この男の暴走を止めてくれ。
「よっしゃー、おわったー」
5分ほどでまき終わった。なんと早いことか
「最後に水やって終わりだなー。早くできればいいなー」
この男、まだ気づいていない。
桃栗三年柿八年と言うように桃は収穫まで3年ほどかかるのだ。その間、畑の5分の3は桃に占領されたままである。
「桃ってどれくらいでできるんだろう。
半年くらいかな」
本当に馬鹿だ
「よし、最後に水をやろう」
水、持ってきたペットボトルのミネラルウォーターをビシャがけだ。
何度でも言おう。全国の農家さん、
この男の暴走を止めてくれ。
「おわったー、つかれたぁー。
早くなってね」
ただ今、朝6時半。
この男、今日の目的を達成する。
「ふぅー、思ったより早く終わったし
暇だなぁ〜」
早く始めすぎ、早く終わりすぎ。
この男、何もかもテキトーなのである。
しかし、この男の植えた桃の種は胡瓜の種と混ざったことやさまざまな奇跡により、
3年後未だ人類が見たこともないような桃を生み出すことになる。それが「奇跡の桃」
と言われ、この村に取材や全国の農家さんが駆けつけてくるのはまだ誰も知らない話である。 続く