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長い旅の始まり

四方から飛んできた鎖は、シャルの獅子に絡まり、自由を奪われていた。もはや、視界は遮られ、何も見えない。五感だけが研ぎ澄まされ、全身の血が沸騰した。

「止めて!」

誰かが、叫んだ。自分を助けて欲しいと、懇願したのかと思った。そうではない。逆流した血は、体の中で、弾けとび、四肢の鎖は、まるで、糸の様に簡単に引きちぎれた。頭から被された袋は、視界を遮っていたが、それは、意味がなかった。袋があっても、なくても、シャルの視界は、変わらなかった。怒りが止まらない。

「シャルを止めて!」

周りの兵士達を止めてと言っているのではない。シャルの暴走を止めろと言っているのだ。

「呪われた魔女が目を覚ますのよ!」

ああ、そうだ。もはや、その叫びは、言葉にならないだろう。私は、じっと、この中にいたのだ。息を潜めて。大人しく、大人しく。シャルの動きは、早かった。手にした剣で、次から次へと首を刎ね、おそれ隠れるハワードの腕をとり、剣先をハワードの首先に押し付けていた。

「君は?一体?」

「私も、よくわからないわ」

剣先から滴る鮮血が、血を染めていく。

「誰にも、見つからないように、静かに生きていこうと思っていた。それなのに、それなのに・・・お前は、つまらない嫉妬で」

シャルは、頭を覆っていた袋を剥ぎ取る。

「私も、自分が何者かは、わからない。ただ、誰よりも、残酷だって事は、わかる」

剣をハワードの首に掛けようとしたその時、ナチャが駆け込んできた。

「許して、シャル。兄は、僕のせいで、こんな事をした。本当は、そんな人ではないんだ」

シャルの足に、追い縋る。

「兄を殺すなら、僕を殺してくれ」

「やめろ!ナチャ!この女は、普通の女ではない。魔女だ。本当の魔女なんだ」

魔女と聞いて、シャルの目の色が変わった。

「今度は、魔女というのか?」

金色の目が、周りの者を恐怖に陥れる。

「笑わすな。私が魔女なら、お前達に、呪いを与えよう。ハワード。お前は、姿もなく、生涯、自分の姿を求め続けるだろう。そして、ナチャ。お前は、地這いの王族らしく、地を這う蜘蛛になるだろう」

シャルは声高らかに笑う。

「呪われてしまえ。この地も。全て、私を受け入れる事の出来なかった者全て!」

シャルは、血の涙を流していた。その涙は、そっと後ろから近寄る聖女によって、止められる事になる。

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