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土這いの裏切り

体の中に溜まっていた怒りが爆発した。もうそうなると、自分で、どうなったのかは、覚えていない。自分の体は、塔の屋上から、外におり、自分を可愛がってくれていたシスターの側にあった。怒りが尽きる事はなく、狂気に駆られた民衆が震え上がるほど、恐ろしい形相だったに違いない。

「魔女だ。あんな高い塔から、飛び降りたのだ」

「見ろよ。あの顔、恐ろしい」

「今まで、見た魔女の中で1番、恐ろしい」

「やっぱり、あの地這うの仲間なんだ」

逃げ出す訳でも、襲ってくる訳でもなく、民衆や武装した兵士達は、遠巻きにシャルを見つめていた。どの顔にも、シャルへの恐怖が見てとれた。

「シャル・・・」

虫の息ながら、シスターが声を絞り出している。

「逃げなさい。東へ行くの。あなたの居た場所が守ってくれる」

震える右手を挙げると、シャルの掌に何かを載せた。

「あなたを保護した時に、持っていた守護石よ。渡してしまうと何処かに行ってしまいそうで」

小さな袋に入った守護石は、首からかけられる様に、紐が通してある。

「東に行きなさい。この地の果てに、あなたの故郷がある」

シスターは、シャルの掌に、守護石を置くと、笑みだけを残して、力尽きてしまった。

「シスター?」

どんな時も優しく、支えてくれた。敵国の兵であろうと、治療をし、食事を与えた。どうして、こんな目に合わなければならないのか?

「どうして?」

シャルは、周りの民衆を見た。もう、怒りが止まらない。

「どうして、私達は、何もしていないのに。誰も、傷つけていないのに・・・こんな」

この怒りは、止まらない。見境なく魔女と騒ぎ立て、処刑していく。狂った民に対し、怒りが収まらない。戦のために。魔女説を吹聴し、悪戯に民の恐怖を煽る。シャルの両腕が、赤く燃えてくる。

「結局、お前達の狂気が招いた」

シャルは、両腕を目の前で、交差し、両掌を前に押し出すと、そこから、赤く燃える剣が、飛び出してくる。

「やっぱり、魔女だ!」

叫んだ最初の民を、容赦なく、切り裂く。

「ひ!」

シャルの怒りと悲しみが止まらなかった。心の中には、憎しみしかなく、手当たり構わず、剣を振り回した。冷静さや慈悲もない。あたりは、悲鳴と血の匂いが充満していった。

「誰か、止めてくれ!」

誰かが、叫んだ。

「彼女は、こんな人ではない。僕が、悪い。僕のせいなんだ」

声の主が、どこにいるのかわからなかった。怒りで、目がよく見えなかった。シャルが目を凝らし、声の方を見ると、いつも、穏やかなハワードが、シスターの骸を手に叫んでいた。

「こんなつもりで言った訳ではないんだ。シャルを塔から出したくて。だって・・・」

「ハワード?」

シャルは、地に染まった顔で、ハワードを見下ろした。

「だって・・・あの塔にいると、あいつが、シャルに逢いに行くだろう?」

「何を言ってるんだ?」

シャルは、剣先をハワードに突き出した。

「逢わせたくなかったんだ。シャル。ごめん・・・」

ハワードは、覚悟したかの様に、頭を垂れた。

「ハワード!」

シャルがハワードに、剣を振り下ろそうとした蘇の瞬間、四方から鎖が飛んできた。注意を削がれ、剣は、鎖で、飛び、体は、四方から飛んで来る鎖で、何十にも巻かれてしまった。

「何を」

シャルは、ハワードの口元が、微かに微笑むのを目にした。

「ごめん。シャル。本当に君の事は好きだった。けど・・・僕らは、国を再興したいんだ。君との交換条件を飲んだんだ」

驚愕するシャルの視界が、塞がれた。袋を被され、まるで、物の様に、地面に転がされたのだ。

「弟には、何も、言わないで、おくよ。弟も、君の事が好きだったんだから」

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