コイバナ
「高校生になって結構経つけど、二人とも好きな人できた?」
教室で三人で話していると、唐突にヨシダが私、鈴木鈴とレイコに質問してきた。オシャレ好きなヨシダは女の子らしく恋愛話が好きだ。
彼女の名前は吉田美姫。どうも自分の美姫という名前が好きでないらしい。私は女の子らしく可愛いと思うのだけど。だから彼女は自分の事を苗字で読んで欲しいと頼んだ。だから私は彼女を苗字で呼ぶ。できるだけ可愛く聞こえるように。
そして彼女自身も他の女の子を苗字で呼ぶ。
「田代はぁ……」
「いない」ヨシダはレイコこと田代玲子に話を振ろうとするもレイコは即座に答えた。
しかしヨシダはそんなレイコをニヤニヤとした顔で見つめている。何か気付いている事でもあるのだろうか?
レイコは涼しげな顔を保ったまま私に話しかける。
「スズは……進展した?」
なんだかいきなり話が飛んだような気がする。
「何の事?」
「田口君」
疑問を投げかけるとニヤニヤしたままのヨシダがそう答えた。何やら誤解があるようだ。
「いつも見ているよね」
「でもまだ話している所みたことないなぁ」
「まだ片思いのままかね」
なんだか二人で盛り上がっている。
「いや、好きでないんだけど」
そう好きなわけではない。
ただ変わった子なのでつい気になってしまうのだ。
というか、あの変わりようを気にならないこの子達がすごいとすら思える。
「でもスズはもっと上狙えるんじゃない?」
「私も田口君よりイイ男いると思うけど本人が好きなんだから仕方がなくね?」
私の否定の言葉を聞かず、話は終わる気配をみせない。
「私より岡崎さんだって」ついそう口に出してしまった。
そう、田口君を好きなのは岡崎さんだと思う。
以前大人しい岡崎さんが田口君に一生懸命話しかけているのを、目撃しているのである。
「え?」ふいに声が聞こえた。
当の岡崎さんが傍を通りかかり、話が聞こえてしまったようだ。
「岡崎って田口君の事が好きなの?」ごまかそうとする私を余所にヨシダが聞く。
本当にこの子のこういった所には困る。
「え?違うよ」岡崎さんは慌てて否定をする。その慌て方は二人を誤解させるぞ。
「違うって」「良かったね。スズ」二人はすんなり受けいれたようだ。なんだか納得がいかない。
「え?鈴木さんって。え?え?そうなの?」
「そうなの」
三人の話は続き、私が誤解を解くべき人間が一人増えてしまった。
そんな中、岡崎さんと目が合う。そして彼女は一瞬悩んだかの様に見えた後、口を開いた。
「鈴木さんは田口君の何が気になっているの?」
どうやら岡崎さんも恋愛話が好きらしい。大人しい女の子だと思っていたけど案外積極的なのかもしれない。
「そ」「ん」「な」「ん」「じゃ」「あ」「り」「ま」「せ」「ん」
私は強く否定するように一言ずつはっきり言った。
彼女は考えているかのように動きを止めた。しまった。強く言い過ぎたかもしれない。そう思った矢先の彼女の声。
「でも田口君にはもったいないよね」
どうやら私の考えすぎだったらしい。そしてまた三人は話し始めた。話の主題であるはずの私を置いてけぼりにして。
しかし田口君の評価は相変わらずだ。確かに少しは変わっているとは思うが、恋愛対象から外れる程なのだろうか?
私はふと田口君の席を見た。彼は椅子に座ったままボーっとした感じで、教室の隅を見つめている。私はしばらく彼を見ていたが、その間ずっと教室の隅を見続けたままだった。
やっぱり変わった子だな。岡崎さんは本当に田口君の事が好きではないのかな?私は彼女に目を向ける。
いつの間にか三人は話をやめて私の方をみていた。しまった。そう思うより先にヨシダが動く。
「ずっと見てたね」それに二人も続く。
「しかもこっちに全然気づかないし」「本当なんだ」
「田口君みたいなタイプには鈴木が合っているのかも」
「でもつりあいはとれていないよ」
「田口君はどう思っているのかな?」
私はもう否定をせずにただ三人の話が終わるのを待っていた。