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明日があるならば  作者: 渚
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エピローグ

初めての創作です。

よろしくお願いします。

朝の5時に、誰もいない田舎の町を自転車で進む。

初夏、陽の出ていないこの時間はまだ涼しくて、向かい風は僕のちょっと重ための前髪をかきあげた。

この時間の田舎は、早朝からランニングをするような意識の高い若者と、梅雨は終わったのにまだまだ元気に大合唱してるカエル、朝日を待って息を潜めるセミしかいない。あとは早起きな年寄り。

僕はと言うと、あまりに眠りにつきにくい夜を過ごして、しっかりと寝れないままで4時になったので、このまま寝転がり続けるのに嫌気が差して仕方なく起き上がり、シャワーで汗を流して、スポーツメーカーのジャージを身にまとい気分転換に自転車に乗って走って風を全身に浴びている。

初夏は、エアコンを付ける程暑くないけれど、付けなかったら少し汗ばむ。

陽が昇る準備を始めて、深い紺色だったのが徐々に青みを増してくる東の空。

寝れてないから「早起き」じゃあないけど、朝に活動するのは気分がいい。

結構急な坂道を立ち漕ぎで登ると、海沿いの堤防の道に出る。この道を、この時間に、自転車で疾走するのがとても良い。

僕にまとわりついていた夜を、朝日と風が吹き払ってくれていると思う。僕の気分が晴れるのはそういうことだと思う。

しばらく海を眺めながら漕いでいた。いつもは海とその向こうを見ているから、砂浜を注目して見ることは無いんだけど、この日は砂浜に目をやった。目をやるのも仕方がなかった。

それを見た僕は、そこから目が離せなかったんだ。


紺色に白色のラインが入った、セーラー服の襟が見えた。僕の高校の制服だ。この辺りの高校は大抵ブレザーだから、きっと同じ高校だろう。

半袖のセーラー服を来た女の子が砂浜を歩いていた。

僕は何をしているのかと考えながら見入っていた。

その女の子が、ゆっくりだけど遠目に見ても分かるほど着実に、海に入って、さらに沖の方に進んでいくので、その行動が何を意味しているのか理解した僕は、自転車が倒れる勢いで降りて、倒れた自転車を立て直しもせずに走って、堤防を駆け下り、砂浜から海に向かって全力で走っていた。完全に意識外の行動だった。

ジャージが濡れるとか、ここは遊泳禁止の海だから入るのは危ないとか、そんなことは気にならなかったし、頭に無かった。

その女の子は、太ももの付け根くらいまで海に入って、そこからは直立して動かなかった。ずっと沖の方を眺めていて、僕が近づいて行くのに気づいているのかいないのか、振り向くことはなかった。

女の子の方に、一目散に走った。風が、その子の短い黒い髪と、セーラー服の襟を靡かせていた。

息が上がったままの僕が真後ろに来たのに、振り向かないから、僕はその子の細い手首を掴んで、


「何してるの?死にたいの?」


と尋ねた。直球すぎたかもしれないけど、これ以外の言葉が出なかったし、これ以外の言葉を考える余裕もなかった。

何十秒か何分か経ってたのか分からないけど、しばらく沈黙が続いた。僕は彼女の風に揺れる黒い髪を見ていた。

相変わらず沖を眺めて動かなかった彼女は、ついにゆっくり下を向いて、


「死にたかったんだけど、

ここまで来て怖くなって進めなくなっただけ」


と返事をした。

セリフとは裏腹に、凛とした、澄んだ声だった。

抱き抱えて砂浜まで連れて行ければよかったけど、僕にそんな筋力は残念ながら無いので、手首を引っ張って、

「戻ろうよ」

と声をかけた。

それでようやく彼女はゆっくり振り向いた。

吸い込まれそうな大きい猫目の女の子だった。下まつ毛が涙で濡れていた。白い頬には、涙が伝っていた。

眉一つ動かさず、目を見開いて無表情のまま、涙をぽたぽた落とす彼女を見た。

僕は、息を飲んだ。

真っ黒の、黒瑪瑙のような瞳には、僕が朝日のついたてになって光が入っていなかった。

彼女は確かに僕の方を見ていて、目は合っているはずなのに、何故か視線はあっていないような気がした。

朝日を待ち構えていたセミが、今日もうるさく鳴き始めている。



頑張って続き書きます。

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