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第四話 ファインダーから覗く君



 男時代のパーカーをブカブカに着て、男時代に似合わないとボロクソ貶されてタンスに眠っていたショートパンツを履く。するとまぁまぁ見れる格好になった。ボーイッシュ系ブカブカファッションだ、あざとい。


 そのままサンダルを履いて俺は家を出ようとした。すると、テレビの前で頬杖をついて横になっていた天使長が俺の方を向いて声を掛けてきた。


「どこへ行くのじゃ?」

「コンビニ。行きますか? オヤツでも買いに行こうかなって」


 すると天使長は立ち上がる。ちなみに彼女も俺の服を似たように着こなしている。天使長は立ち上がって一歩、しかしそこでまたすぐにゴロリと寝転んだ。


「やっぱいいや、アイス買ってきて」


 なんだこの人……俺は天使長を冷ややかに見た。俺の家に住み着いたこの居候だが、家事の一つもできやしない。このままでは嫁に出すのも恥ずかしい、いずれ矯正していかねばならない。俺はそう誓って家を出た。


 少し歩くと実感する。歩幅が小さくなったことをだ。近所のコンビニに行くという、日常に近い行動を取るとより実感するようになった。


 だが別に大きな不具合があるわけでもなかった。身長は20センチ以上縮んだが、まぁ逆にそれくらいなもんだ。今までは無かった男からの視線も感じるには感じるが、俺は今の自分の可愛さを十分に分かっているのでむしろ誇らしいまである。


 ショートカットの緑髪は、日本人離れというか現実離れした髪色だが……そこはキューピッドパワー、何も違和感はない。むしろとてもよく似合っていて美しいまであるだろう。

 そして、くりくりと大きいが男であった頃の精悍さをどこか彷彿とさせる強気な目……M男が目の前にいたとすれば、すぐに腹を見せて服従することだろう。


 そして、バランスの取れた肉体。ロリ系の天使長とは違い、細めではあるが女性的な丸みを見せている。胸はまぁ、大きくはないが……天使長と違いぺったんこではない、寄せれば谷間くらい……できないかもしれないが、先に述べた通り大事なのはバランスなのだ。長くすらりとした脚はもう、男時代の俺なら踏まれてもいいとすら思うだろう。


 フフフ、と自画自賛してほくそ笑みながら歩いているとコンビニが見えてくる。ふと、小気味のいい規則的な……単気筒のエンジン音が聞こえてきた。ややこしい言い回しをしたが、ただのバイクだ。

 そのバイクはコンビニの前に止まり、乗っていた男は慣れた仕草で降りる。すぐにスマホを取り出して操作し始めた。


 すると、少しして俺のスマホが震える。ポケットから取り出して見ると、メッセージが入っていた。友人の藤代フジシロだった。


『今からお前ん家行くけど、コンビニでなんかいる?』


 届いたのはそんなメッセージだ。中々気の利くやつだ。しかし、俺はもう既にお前の目の前にいるんだがな。そう、バイクから降りてきた男こそ、俺の友人である藤代だ。


「せっかくの申し出だけど、俺ももうコンビニ来ちゃってんだよね、でもコーヒーくらい奢ってくれてもいいぜ藤代」


 トコトコとバイクに近付いて俺がニコニコしながら言うと、俺に気付いた藤代は目を点にした。親しげに名前を呼んでくる、知らない女だという目をしていた。



 *



「…………なるほど。そんなファンタジーな事あるんだなぁ」


 その後、少し話すと藤代は俺のことを理解してくれた。

 因果改変的な事を天使長は言っていたが、普通に俺の姿が女の子になった事を一から説明しなければいけなかったのはどういうことだろう? 俺はてっきりこういう説明をしなくても、昔から女の子だった事になってる的な感じかと思ってた。


 なってなかった。なので俺は藤代に自己紹介から始める事になり……しかし、意外と早く彼は納得してくれた。


「いや、これが不思議なんだが、お前から説明を受けるとこう……なんか、それが事実だって気付いたら受け入れてるみたいな……」


 でもちゃんと説明できない怖い謎の力が働いていた。


「え? ほんとに『汐見シオミ』? シオミだと思い込んでる女の子ってパターンない? 実は怖いSFでよくある感じの」

「そうだとしたら今ここにいる俺が可哀想だからやめて……え? そんな事ないよね? え? え?」


 ちなみに、汐見シオミとは俺の名前である。

 とまぁ、もしかして俺は自分をシオミだと思い込んでる謎のキューピッド疑惑が浮上したが、とりあえずコンビニで買い物をして俺の家に向かう事にした。


「あ、せっかくだし乗ってく? ちょうどヘルメットもう一個あるし」


 藤代からそのような提案があったので、俺は有り難く甘える事にした。後ろに乗って、腰に手を回してふと思う。

 背中デケェなぁ。俺はゾッとした。なんかまるで漫画のヒロインみたいな心中の独白だったからだ。いやでもお父さんに対して似たような事思うシーンとか、よくあるか。じゃあいいや。


 藤代は、男でも背が高い方だ。180くらいの身長にそれなりに鍛えられた身体、そして短い清潔な黒髪に、なんか印象薄めの顔。

 俺の男時代は平均的サイズだったが……背中から抱きついている今、妙にこいつがデカく感じた。


「いや、ほんとに小さくなったなぁ。可愛い顔だし、かなり良い感じじゃんシオミー」


 家に着いて早々、けらけらと藤代はそう言った。褒められるのは嬉しいが、それが昔からの友人相手からだと思うとどこか複雑な気持ちであった。


「今度服とか買いに行こうぜ。お前ブラとかした方がいいよ」

「そういうのは女の友人とかに言われたいんだけど!?」


 しかし、今日藤代に説明したように大学行ったら会う人皆に説明しないといけないのか……めんどくせぇ。俺はグループメッセージで自撮りでも送りつけようかと真剣に悩んだ。てかそもそも大学で俺だって証明できんのかな?

 ふと、思いついて自分の免許証を財布から取り出した。実は車の免許を持っているのだ。


 写真部分が、見事に今の女の姿になっていた。


「え? これ自分で撮り直したの?」


 覗き込んできた藤代にそう聞かれるが、俺は無言で首を振る。なるほど、これが因果どうちゃらってわけね……なんとなく、戸籍関係とかややこしいのは気にしなくても良いってことだろう……ご都合主義……。



 アパートの階段を上がっているときに先を行く藤代が振り返った。何か大変な事に気付いてしまったと言いたげな顔だった。


「今気付いたんだけど、今のお前……女じゃん? その、女の一人暮らしに男が行くのはどうなんだ!?」


 割と真剣な顔でそんなことを言われるので、俺は親しき仲とはいえ一理あるのかもなと頭を掻くが、そもそもの前提が間違っている。


「今、住んでるのもう一人いるし」




 一応家の中に天使長が残っているとはいえ、防犯の為に鍵をかけていたのでそれを開けようとガチャガチャしていたら、扉の向こうから人が動く気配がした。

 ドアを開けると、ニコニコ笑顔の天使長が待ってましたと手を伸ばしてくる。だが、そこで俺の後ろに立つ男の存在に気付いた。


「おかえ……だれ?」


 一瞬で顔色を変え、訝しむような表情で藤代を天使長は睨む。さて、どう説明しようかと考えた時、俺のアホ毛が何かに引っ張られる。


「て、天使……」


 アホ毛の先には藤代がいて、普段あんまり開いていない目をギンギンに見開いて彼は天使長に犯罪者かと見紛う視線を送っていた。

 天使長だし、まぁ天使なんだけど……俺がアホ毛ことキューピッドアンテナの反応に戸惑っていると、藤代がその場の誰よりも早く行動を起こした。

 凄まじいスピードで天使長の手を握るセクハラをかまし、目を細めて真顔で言う。


「こんにちは、藤代です。ところでこれからお茶でもしませんか? 良い店を知っているんです。とてもおしゃれで……貴方のような天使……失礼、美しい女性には少々不釣り合いかもしれませんが、味は格別ですよ。おすすめはジャスミンティーです」

「藤代、天使長が引いてるからちょっと黙れ」


 暴走する藤代に、天使長は女性というより女児では? というツッコミをしたいところを抑えて頭にチョップした。天使長がいきなり知らない男に絡まれて顔を青褪めさせてドン引きしているからだ。

 とりあえず一度股間を蹴り上げ、玄関の外へ追い出して天使長に事情を説明する。


「悪いね天使長、あれでも一応俺の友人なんだ……幼馴染なんだけど、まさかロリコンとはね。ちょいと去勢しとくから許してやってくれない?」

「いや、それよりあれ大丈夫なのか?」


 そう言って俺は性犯罪者一歩手前のロリコン野郎を親指で差す。股間を押さえて悶える男にドン引きしたまま、しかし優しい天使長は自分の手を突然握ってきた変態を哀れんで心配している。

 その様子にキュンと胸をときめかせているのが藤代とかいう俺の友人だった。


「天使長……? なるほど、やはり天使だというわけか」

「天使長、この男の頭がややこしいので一旦家に入って話をまとめましょうか」



 そんなこんなで、俺と天使長は藤代を家に招き入れ(仕方なく)、キューピッド関連の事情をかくかくしかじかと説明した。


 流石に落ち着いたのか、普段通りになった藤代が顎に手を置きながら首をかしげた。


「つまり、天使長さんは本当の天使?」

「お前は幼馴染である俺の話には一切興味を持たずに天使長のところしか聞いてなかったのか?」


 熱っぽい視線を送ってくる藤代に気まずそうな顔をしながら天使長は目を逸らした。


「そ、それでじゃな、コイツのせいでワシは人間にされてしもうて……それで、それで、多分じゃけど、戻るにはコイツに《念願成就》を集めてもらわないと……」

「へ〜、天使長さん、今人間なんだぁ。なるほどね、へぇ、へぇ〜〜……」


 天使長が喋る度にニヤニヤとする藤代の後頭部にキューピッドパンチをくらわせてやりたいのをなんとか我慢し、彼の肩を強く掴んで笑顔で言った。


「というわけで変態野郎、どこかで恋をしているやつを探してこい」

「どういうわけ!?」


 どういうも何も俺が元の姿に戻る為にテメェも働けってことだよぉ!

 とは言わず、俺は藤代の耳元でこう囁いた。


「俺のカップル作りには天使長も同行する。つまり、わかるな?」

「お前要らねーじゃん」

「しばくぞ」


 と、そこで藤代くんは手をポンと叩いて何かを思い出した。


「そういえばだけど、心当たりがあるぜ」



 *



 次の日、普通に大学があるので俺は支度していた。その様子をジッと猫みたいに見つめていた天使長は、俺がさぁ行くぞと靴を履いているあたりでようやく話しかけてくる。


「どこへ行くのじゃ」

「学校ですよ……今日、月曜だし」


 何を今更と俺は呆れた声を出す。


「あ、あとなんか藤代曰く、昨日言ってた心当たりは学校にいるらしいんだよね。てか今日普通に授業朝からあるし、いってきます」

「……いってらっしゃい」


 ガチャリと扉を閉めて、俺は首を傾げる。なんであの人ちょっと不機嫌なの……もしかして寂しいのか? まぁいっか。俺はほっとく事にした。


 アパートの階段を降りたところで、バイクの音が聞こえてきた。音のした方へ顔を向けると、バイクに跨った藤代が俺に向けて手を上げていた。


「よぉ。昨日の事だけど詳しい話は大学についてからするわ。ところで天使長は?」


 ヘルメットを掲げながらそう言う藤代に、近づいた俺がヘルメットを受け取ろうとするとヒョイっと高いところにあげられて手が届かない。


「来ないよ」


 俺の言葉を聞いて、藤代は走り去っていった。あいつ殺してやろうか。遠ざかっていく彼の背中を見つめながら、俺は殺意を胸に学校へ向かった。

 着いたところで藤代が居たので詰め寄ると、奴はこう言い訳をした。


「いや、だってお前が天使長も一緒に行動するから手伝えって言ったのに、嘘つくから」


 確かに言った。でもあの人はウチの大学に通っているわけではないし外見も目立つので邪魔なんだ。そう説明すると、しかし藤代は不満そうだ。

 それはさておき、心当たりの人物を教えてもらう事になった。


 まず、キャンパスへ向かう途中の草むらに突っ込む。そして姿勢を低くし、気配を消す。俺は藤代をつついた。


「まぁまて、奴が現れるのを」


 仕方なく待った。続々と通学してくる大学の生徒達。俺達もうかうかしていると遅刻だが、藤代の真剣な顔を見る限りまだ目標の人物は来ていないらしい。


「きたぞ……!」


 満を持してそう言った藤代の視線の先には、一人の女学生がいた。綺麗に整えた黒のボブカットに、落ち着いた色合いの清楚なワンピース。服に良く似合った可愛らしいパンプスを履きこなした彼女は、しかしどこか仕草とファッションに初々しさを感じさせる。

 なるほどな、俺は呟いた。


「一年生か?」


 俺の言葉を肯定するように、藤代が頷いた。俺の通う大学は無駄に多い学部と無駄に多い生徒数のせいで同じ学年だろうと知らない顔が居る。だが、俺にかかれば大体何年生かは雰囲気で分かるのだ。

 それに、視線の先の彼女は中々容姿が整っている。あれほどの容姿ならば、もし俺と同じ二年生……それより上だとすれば記憶に残っている筈だ。

 だが、俺の記憶に無いということはつまり、つい最近に入学してきた一年生である可能性が高い……というわけだ。


 年度が変わりイメチェンをしたという可能性もなきにしもあらずだが、今回はそうではないらしい。


「だがな、問題の奴はそっちじゃない」


 なんだと? 藤代と同じく女を見つめていると、どこからか一瞬チカッと光が見えた。俺と藤代はそれに凄まじい反応速度で気付き、光の見えた方向を見る。


「ちっ、逆だったか。もう分かるな? あれはカメラのレンズが反射した光だ。甘い奴だ、俺ならばそんなヘマをしないのだが」


 俺達の隠れた草むらとは道を挟んだ逆の草むらに、カメラを構えた何者かがいる……? そういうことか。俺はようやく藤代の意図を理解した。


「つまり藤代、お前のいう心当たりとは……あの盗撮野郎ってわけだ」

「ふっ……その推理力……やはりお前はシオミのようだな」


 ふふふ、と不敵に笑い合った俺達は俊敏な動きでカメラ小僧の居る場所を目指す。奴の後方に回り込み、木の影に隠れて様子を伺った。

 男と決めつけては居たが、男だった。垢抜けない服装で、少し低身長気味の男だ、顔はやや童顔……メガネをかけていて、立ち振る舞いはどこか自信がなさげである。

 そんな彼は、カメラのデータを確認しているようだ。ススス、と近付き覗き込む。


 やはりというべきか、そこには先程俺と藤代が見ていた一年生の女が写っていた。しかもかなりの量だ。何枚もの写真を見返す盗撮野郎を、通報すべきか悩みつつもキューピッドアンテナで一応確認する。

 言うまでもなく、あの一年生の女に惚れている。隣に立つ藤代に視線を合わせ、俺は頷いた。


「やぁ」


 突然俺は盗撮野郎の肩を掴み軽快に挨拶をした。するとビクッと身体を震わせた盗撮野郎は、まるでロボットのような動きで冷や汗をダラダラ流しながら振り向く。俺はニコリと天使のような笑顔を浮かべた。

 すると、盗撮野郎は少し呆けた顔で俺に見惚れてしまう。どうやら盗撮なんてするヘタレ非モテ野郎にとって、今の俺の顔面は刺激が強かったらしい。鏡で見ても俺可愛いなって思ってたけど、やはりそれは万人にとってそうらしいな……やれやれ。俺は肩をすくめた。


「キューピッド裸絞め!」

「きゅっ!?」


 それはさておき、一瞬で背後を取った俺はキューピッド裸絞めによって盗撮野郎の意識を刈り取った。その後に、無言で出てきた藤代に手で指示をして俺達は機敏な動きで気絶した盗撮野郎を運んでいった……。



 盗撮野郎を運び入れたのは、空き教室の一つだ。俺や藤代の所属しているサークルが持ついくつかある尋問部屋の一つで、俺達二人に管理が任されている一室でもある。

 その部屋にポツンと置かれた机と対面に並べられた椅子。俺とは机を挟んで向こうに盗撮野郎を座らせ、藤代が横に立って彼の顔を引っ叩いた。


「はっ!? こ、ここは?」

「おはよう、盗撮変態ボーイ」


 正面に座り不敵に笑う俺を呆けた目で見てから、横の背がでかい顔の薄い男を見上げて盗撮野郎は首を傾げる。

 自分が何故、見慣れぬ教室にいるのか分からないといった顔だ。俺は仕方なく説明してあげた。

 俺は足元に置かれた鞄の中からカメラを取り出した。一眼レフカメラだ、俺の小さくなった手では少し余るし重い。それを優しく机の上に置く。それを見て、盗撮野郎は唇を噛んで目を逸らした。


「君ね、盗撮は……いけないよ。良いカメラだよねこれ、自分の? それともどこかの部活かサークルにでも所属しているのか?」


 ゆっくりと、優しく俺は語りかける。威圧感を与えないよう藤代も俺の隣に座り、ニコニコと機嫌良さそうに無害アピールをした。

 盗撮野郎は、気まずそうに目を逸らしながら小さな声を出す。


「いえ……まだ、どこのサークルにも入っていません……個人のものです……」


 その答えに満足そうに俺は微笑んだ。例えば鉄道撮影サークルや野鳥撮影サークルの様にメンバーが好きにやっているところならばどうでも良いが、もし大学から認可されている写真部の様な所の備品だったなら……それを犯罪行為に使ったとしていたら、中々面倒な話になってくる。


「なるほどね、君は一年生だろ? ウチはサークル多いけど、流石に美少女盗撮サークルなんてないからねぇ」


 ハハハッ、と俺は和ませる為に冗談を言う。しかし盗撮野郎は更に萎縮した。


「美少女撮影サークルならあるよ」


 藤代が真面目なトーンで言うが、それは無視して俺は本題に入った。ちなみに藤代の言うサークルはミスコン関係を取り仕切る割と大きな団体で、正式名称も勿論違うが今は関係がないので割愛。



「お前、盗撮してた女が好きなんだろ?」


 単刀直入に聞くと、当然ではあるが男は頷……くことはなく、何やら言い訳をし始めた。


「いや、違うんです。彼女を撮ってはいました。ですが、それは彼女の美しさを保存する為であって、好きとか、そういう俗っぽい事は、ないです、はい。そ、それに僕なんか彼女の視界に入った事すらあるかどうか分からない存在が好きだなん……」

「オラァァ!」


 長々とウザくなってきたので盗撮野郎の頬に俺のキューピッドストレートが突き刺さった。椅子ごと吹っ飛んでいった盗撮野郎は背中で壁まで滑り、頭を壁にぶつけて仰向けで放心する。

 俺は寝転ぶ盗撮野郎の腹を踏みつけ、見下ろしながら吠えた。


「ええい! 鬱陶しい! 素直に好きだと言ェッ!!」

「好きです! 一目惚れでした!」


 俺の勢いに負けた盗撮野郎は素直に白状した。その頃、横でしれっとカメラのデータを確認していた藤代が感心した様に言う。


「へぇ、綺麗に撮れてる。被写体への愛が感じられるぞ……その気持ちを、適当な理由で隠すもんじゃないぜ」


 なんだこいつ。俺は意味不明なフォローを入れる藤代に冷たい視線を送った。ぐりぐりと腹を踏みながら、俺は盗撮野郎にニヒルな笑みを見せる。


「それで、どうする? お前はあの女と仲良くなりたくないのか?」

「ど、どうするとは?」


 俺の問いに戸惑う盗撮野郎。俺はため息を吐く。


「付き合いたいかって聞いてんだ。付き合いたいだろ? だったら俺の言うことを聞け……あの女と、付き合える様にこの俺様が努力してやる」


 捲し立てる俺に対して呆気に取られた盗撮野郎の腹から足を退け、俺はまた椅子に座った。しばらく、無言で寝転んでいた盗撮野郎が立ち上がり、真剣な顔で俺に聞く。


「こんな僕でも……あの人の、側に立てるって事ですか?」


 中々ロマンチストな言い回しだ。俺はニヤリと口角を上げ、胸を張って答えた。


「無論、造作もなき事よ」





TIPS

キューピッド○○攻撃は描写的に派手ですが優しさに溢れています

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