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転生してハイエルフになりましたが、スローライフは120年で飽きました  作者: らる鳥
六章 ハイ&ハーフと麦の町

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 アイレナとの話し合いを終えた僕は、ハーフエルフの幼子の目覚めを待ってから、その子が待つ部屋へと向かった。

 残念ながらアイレナとは、話し合いの後も微妙な空気が残ったままになってしまったが、……多分そのうち、時間が解決してくれるだろう。

 実に勝手な話ではあるけれど、彼女は僕がどんな風に思い、行動していたとしても、それを理解して受け入れようとしてくれると思ってるから。

 あまり心配はしていない。


 ギィと宿の部屋の扉を開けると、ベッドの上で人間ならば三歳位の幼子が一人、ぼんやりと寝ぼけ眼でこちらを見ている。

 恐らくその瞬間の僕は、随分と不審者だっただろう。

 でもしょうがないじゃないか。

 あんなふわっふわの可愛らしい幼児に、ぽやぽやとした視線を向けられたら、そりゃあ僕の胸も何かに突き刺された様な衝撃を受けるって物だ。


 あまりの攻撃力にクッ、と呻いて胸を押さえ、しかし気合と共に蹲りそうになる足を動かして、僕はベッドに近付く。

 ハーフエルフの幼子のプロフィールは、既にアイレナから聞いていた。

 彼、……そう、この幼児はこんなに綺麗で可愛らしいけれど、男の子らしい。

 幼児って凄いなって、そう思う。


 あぁ、えっと、そうではなく、そして彼にはまだ名前がなかった。

 元々エルフもハイエルフを見習ってあまり名前には頓着しないが、それでも普通はこの位の頃にもなれば、集落での呼び名は決定している。

 だけどそれがないと言う事は、彼は集落の一員としては認められて居なかったのだ。

 それは生まれが故か、それとも僕がいずれ引き取るだなんて言ってたからか。


 ……僕は色々と旅をしてた身だから、移動に耐えられなそうな本当に幼い間位は、集落で過ごした方が良いかと考えていたのだけれど、どうやらそれは間違いだったのかも知れない。

 いっそ僕がその集落に赴き、そこで数年間を過ごして、この子を見てるべきだった。

 けれども、そう、僕が今すべき事は、後悔でも反省でもない。

 いやまあ、反省は後でするけれど、少なくとも幼子の前ですべきじゃない。


 ベッドの横に屈みこみ、僕は幼子と視線の高さを合わせる。

 しっかしそれにしても本当に、綺麗で可愛らしい子だった。

 あぁ、もう、大丈夫かな。

 僕は絶対に、心配症で過保護になりそうだ。


 顔を近づけると、彼もまた僕の顔をマジマジと見て、

「わぁ、ひかってる……。きれぇー」

 そんな言葉を口にした。


 光ってないよ。普通だよ!

 思わずそんな突っ込みが出そうになるけれど、僕は彼を驚かせない為に、その言葉をゴクリと飲み込む。

 でもどうやら、この子は随分と良い目を持って生まれたらしい。

 彼が光ってると称したのは、ハイエルフの魂が持つ不滅性を目にしたからだ。

 多くのエルフ達が僕の顔を見るだけでハイエルフだと見抜き、一々跪く理由である。


 つまりこの子は、普通の人間だったら見られない物を見る目を、要するに精霊の存在を感じる事の出来る目を、持っていた。

 これはまぁ、とても幸いな事だろう。

 別に精霊を感じられなかったとしても、僕がこの子に注ぐ愛情の量は一切変わらないと断言するが、……だって既にメロメロだからね。

 それはそれとして、精霊の力を借りられる事は、人の世界に混じって生きて行く上で、この子の大きな力になる。

 後はこれが一番大きいけれども、精霊と言う、ずっと傍に居てくれる友が増えると言うのは、結構幸せな話だと僕は思う。


 おずおずと伸びる彼の手が僕の顔を好きにするから、僕も指で幼子の顔を弄繰り回す。

 傍から見れば何をしてるんだこいつ等って光景だろうけれど、僕は楽しかったし、彼もなんだか楽しそうだ。

 これぞWin-Winの関係と言う奴である。

 ……あ、そうだ。


「君、確か冬生まれだったね?」

 僕の突然の言葉に彼は驚き、手の動きが止まる。

 あぁ、うん。

 そりゃあそんな事を聞かれても、わからないよね。

 だけど確か聞いたプロフィールでは、冬の季節に彼は生まれた。


「だったら、君の名前は、今日からウィンだ。僕はエイサー。楓の子とも呼ばれたよ。僕は今日から、君の保護者で友達だ。良いかな?」

 僕はドキドキしながら、彼に名付け、名乗り、問い掛ける。

 尤もその返答がどうあれ、僕が彼を引き取る事は決定済みだが、ほら、やっぱり受け入れて欲しいって欲求は僕にだってあるから。


 きっと彼には、その言葉の意味はわからなかっただろうけれど、でも僕が何を欲しているのかは察したのだろう。

 彼は小さく頷いて、僕の頬をやっぱり小さな手が撫でた。


 あぁっ、もう、嬉しいなぁ。

 会いに来て良かった。

 引き取ると決めて良かった。

 何よりも、生まれて来てくれて良かった。


 誰がそう言わずとも、僕がそう断言しよう。

 少し開いてた窓から、風が吹き込んで来て部屋の中を舞う。

 祝う様に、祝福する様にと言うよりは、風の精霊が僕の心を察して、一緒になってはしゃいでる。


 彼、ウィンは目を大きく開いて、その光景にポカンと口を開いてた。

 どうやらまだ見る力の弱いウィンの為に、或いは単に我慢が出来なくなって、風の精霊は自分から姿を見せに来たらしい。

 優しく穏やかに、そんな幸せな時間が過ぎていく。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 漫画の連載を見て、ウィン君にメロメロになって読み直しに。 うん、やっぱり可愛い〜。読んでると自然と目尻が下がっちゃいます。
[良い点] 浮世離れしたハイエルフが世間に相対する距離感が絶妙です。良い意味ででっちあげている虚構のつじつまの合わせ方とかプロですねえ [一言] 200年後の別れを想像してすでに泣きそうです
[一言] 恋愛も無いしホモ?
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