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 ……なんて風に、ヒイロは語ってくれた。

 成る程、やっぱり情報が多過ぎて消化し切れない。

 知っていた事、予想していた事、思いもしなかった事。

 終焉の是非も、今は判断もしたくないから、考えるのはよそう。

 僕がここで何をどう思っても、そのシステムが変わる訳じゃない。


 とりあえず霧の山脈が、辺りの魔力を集めて霧を出し続けてるから、一緒に歪みの力を消費するのに都合がいいって事は理解した。

 中は消費の為に吸い寄せられた魔力で、魔物がいっぱいだったけれど、あのくらいは古の種族にとっては脅威にならないとの判断か。

 後は扶桑の国の今の状況は、もしかしなくても巨人の実験の一つだろう。


 あぁ、本当に、いや、うぅん。

 よすと決めたのだから、よそう。

 巨人の考え方はもしかすると僕と近いのかもしれないけれど……、だからこそ納得がいかない事も多い。

 僕も魔物は、話を聞いた今でも命の一つだという考えに変わりはなかった。

 たとえば大草原で普通の馬と共に、或いは守るように暮らす角のある馬の魔物や、人喰いの大沼で出会った、とても大きくはあったけれども、わざわざ他者を傷付けずとも生きていけるのであろうのんびりとした亀の魔物。

 もちろん多くの魔物は周囲を傷付ける存在で、増え過ぎれば困る事も確かだけれども、例外は確かにある。


 だが人の魔族化は、明らかに何かが違う。

 それも実験だなんて。

 今の話だけで物事を考え過ぎると、会う前から僕は巨人の在り方を思い込んでしまいそうだ。


 長い話を聞き、それを噛み締めてる間に、飛ぶヒイロは霧の山脈の上を抜け、西中央部へと入ってる。

 僕は西中央部の地形にはあまり詳しくないけれど、自分が生み出した川、それから川に囲まれたシヨウの国の位置だけは、上空からでもハッキリわかった。

 見知った物、自分が作った物の、全く違う視点からの姿を見て、少し心は軽くなる。


 だからもう一つだけ、聞きたくはないけれど、聞かねばならない事を思い付く。

「ねぇ、ヒイロ。次の終焉って、どのくらい先になるの?」

 これだけは聞いておかなければ、今後の僕の動き方にも大きく関わるから。

 もしも終焉が近いなら、僕が生きる残りの時間は、それを少しでも遅らせる為に使うだろう。


『その心配は不要です。何らかのイレギュラーが起きない限りは、ずっと先になるでしょう。本来なら、私だってまだまだ卵のままだった筈なのです。貴方が孵してくれたからこそ、こうして動けてるだけですから』

 ヒイロの言葉、頭に響く声に僕は少し安堵する。

 いずれは世界が焼かれるとしても、ウィンやアズヴァルド、アイレナ達といった長命の知人が生きる間は、僕がカエハの子孫達を追える間は、世界には今のままであって欲しい。

 我ながら、自分勝手だとは思うけれども。


 ただ、そう、イレギュラーが起きない限りって言葉は、少しだけ気になった。

 恐らく前回の終焉、魔族を滅ぼす為に竜が世界を焼いたのは、そのイレギュラーだったのだと思う。

 つまり巨人の行動次第では、再びイレギュラーが起きる可能性は、皆無じゃない。


 ……まぁ、どうせ雲の上にはアイレナを連れて行く心算だったのだ。

 そのついでに、巨人がどういった存在なのかを確かめよう。

 自分の目で見れば、好きか嫌いかもハッキリする。

 その結果、どうしても巨人が気に食わなければ盛大に喧嘩をすればいい。

 うん、それが一番わかり易くて確実で、何よりも僕らしいだろう。

 アイレナを巻き込むのが嫌なら、彼女を地上に帰した後にでも。


 僕は乗ってるヒイロの背を撫でて、教えてくれた事への感謝を伝えた。

 するとヒイロは機嫌よく鳴いて、バサリと翼をはためかせ、空を行く速度を上げる。



 さて、行きに掛かった時間を考えると、空を移動する事で信じられないくらいに早く東中央部に戻れてしまう僕だけれど、当たり前だがヒイロに乗ったままルードリア王国に降りたり、アイレナの居るキャラバンを探す訳にはいかない。

 まだ成長の最中であるとはいえ、既にかなりの巨鳥であるヒイロは非常に目立つ。

 それに纏う雰囲気から魔物と一線を画した存在である事は、勘の鋭い人なら簡単に気付くだろうから、大っぴらにその姿を晒すのは避けたかった。


 故に僕は少し悩んだけれど、プルハ大樹海の上空でヒイロの進路を北に変えて貰う。

 何が起きるかわからない雲の上に行く前に、一人だけ、どうしても会っておきたい人がそちらに居るから。


 そこでなら、ヒイロの姿を見られたところで、人間の国にその話が大っぴらに広まったりはしない。

 何故なら僕が今から向かうのは、北の山脈に隠されたドワーフ達の国。

 鍛冶と酒にはうるさい彼らだけれども、それ以外の細かい事は、あまり気にしないのがドワーフである。

 そう、僕が会いたい人とは、鍛冶の師であり友であり、今はドワーフの国の王をしている、アズヴァルドだ。


 そしてヒイロがドワーフの国の上空に着いたのは、月が中天を過ぎた後。

 北を見れば、遠目に薄っすら火山地帯の影が見えた。


「ヒイロ。今回はここで降りるよ。ヒイロ、色々とありがとう」

 睡眠や食事の為に何度か地上に降りたけれど、それ以外は丸二日間、殆どヒイロの背の上で動いてないから、少し体が鈍りそうだ。

 大きく伸びをして、僕はヒイロに運んで貰った礼を言う。

 あぁ、いや、運んで貰っただけじゃなく、貴重な話も聞かせて貰った。


 聞きたかったかといえば、全く以てそうではなかった気もするけれど、しかし聞かねばならぬ話であった事は間違いない。

 未だに全ての内容を整理し切れてはいないが、雲の上を目指す上での覚悟も決まったから。


「次は雲の上に行く時に、僕とあとエルフをもう一人乗せて欲しいんだけど、お願いできる?」

 改めてヒイロに、雲の上への僕とアイレナの輸送を、お願いする。

 するとヒイロは、機嫌良さげにひと声鳴いて、

『えぇ、もちろんです。貴方も、もう一人の方も、安全に雲の上まで運びましょう』

 肯定の意思を伝えてくれた。


 僕一人ならまず断られないとは思っていたが、ヒイロがアイレナをどう思うかはわからなかったから、快く運んでくれるとの返事に、内心で安堵の息を吐く。

 だったら僕はドワーフの国に滞在しながら、エルフのキャラバン宛に手紙を出して、アイレナに来て貰って合流するのがいいだろう。

 エルフのキャラバンを探してあちらこちらに移動するよりは、ドワーフの国で待ってた方が、行き違いが起きない。

 

「じゃあ次はその時に呼ばせて貰うよ。ヒイロ、またね」

 僕はヒイロにそう告げて、その背中から飛び降りる。

 ヒイロの背中を離れれば、吹き荒ぶ夜風は、やっぱり身を切るように冷たかった。

 どうやら冷気を遮ってくれてたのは、やっぱりヒイロだったらしい。


 全身で風を受け、僕は暫し自由落下を楽しむ。

 多分前世でも経験はなかったと思うのだけれど、スカイダイビングはきっとこんな感じだったのだろう。

 尤も今の僕にはパラシュートなんてないから、着地は自力で何とかしないとならないのだけれど。

 僕には精霊も付いてるし、浮遊の魔術だって扱えるから。


 グングンと小さかった地表が近付くにつれて大きくなっていく。

 その様子が、何とも奇妙で面白かった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「ここで降りる」ってそういうことかあ! ヒイロが地上に降り立ってもドワーフならあまり驚かないとかそういうことかと思ったら。 そういえば扶桑樹からそうやって降りてたんでした。
[一言] エイサー「喧嘩しようぜ!」 巨人「!????」
[一言] むぅ、巨人さんは観客席にじっとしてられなくて 演者さんに手や口を出しちゃう方だったのか… やはり、直接会ったときには YES○○、ノータッチ の精神をステゴロで『オハナシ』しないとですね。…
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