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発表がございますので、後書きを見て行って貰えると嬉しいです
どこまでも続く大草原。
……といっても、全く地形に変化がない訳じゃない。
例えばなだらかに起伏する丘陵地があったり、幅は然程にないが底は意外と深い川が流れてたりと、変化はあった。
すると当然ながら、その変化のある地形では、ずっと続く草地を行くのとは、また違った対処が必要だ。
丘陵地はハーフリングの縄張りである事が多いから、近付く場合は彼らがそれを主張する印を見逃さない。
ハーフリングは背丈の小さな種族であるからか、馬上から見下ろされる事を嫌う為、彼らと遭遇した場合は速やかに馬を降りる。
川を渡るには流れが緩やか、かつ川底の浅い部分を正しく見極めてから渡る……、等といった風に。
まぁハーフリングは、彼らの独自の価値観を尊重しさえすれば、親切で気の良い連中らしい。
草原で人間が迷った時、ハーフリングに助けられたって話も多いという。
でもそんなハーフリングと違い、出会えばどんなに気を付けていても、人に害を及ぼす種族も、この草原には住んでいた。
丘陵地なんかよりも遥かに、この草原で近付いてはいけない場所は、草木が不自然な程に綺麗な円形に倒れた場所。
或いは驚く程に巨大なキノコが、やはり円形に等間隔に並ぶ場所だ。
それらはフェアリーサークル、妖精の輪と呼ばれる、……近くに妖精が暮らす証である。
尤も実際の所、草原の民も妖精がどんな風に暮らしているのか、知ってる者はいないらしい。
ただこのフェアリーサークルに下手に近付けば、そのまま帰って来れなくなる事を、彼らはよく知っていた。
また気を付けなければならないのは、馬を含む家畜は、このフェアリーサークルにフラフラと引き寄せられるように近付いてしまうという。
或いは朝靄、朝霧が出ている時に草原を移動すると、これもいつの間にかフェアリーサークルに引き込まれるのだ。
『一つは妖精、個を捨て全となる事で、彼らの死は意味を持たなくなった』
群れ全体が、或いは種族の全てが一つの生き物として、集合意識によって動いているらしい妖精。
彼らは臆病かつ慎重だが、同時に残酷で悪意が強い。
妖精は自分の有利な場所に引き込んだ相手を、嬲って殺す悪戯を行う。
かと思えば気に入った相手には親切にし、共に暮らす事もある。
しかしその場合でもその相手を無事に帰す訳じゃなく、閉じ込めて大切に大切に遊ぶのだ。
子供が宝物を玩具箱に仕舞い込むように。
小さな肉体しか持たない妖精は、自分達が弱い事を知ってるから、時に他の種族の子を攫って集合意識に組み込み、育てて戦士として群れを護らせる。
並べてみると本当に、性質の悪い害虫だった。
まぁさっきも述べたように妖精は臆病で慎重だから、僕にちょっかいを出して来る事はないだろうけれども。
そういえば、これは真偽の定かではない話なのだが、人が魔術の才の有無を測る際に用いる金属である妖精銀は、妖精が嫌う金属らしい。
仮にそれが真実だとすれば、少しばかり興味深い。
妖精銀の魔力を引き出す性質が、身体の小さな妖精にとっては致命的なのか、それとも彼らの集合意識を形成する能力に悪影響を及ぼすのか。
馬は東へ、東へ進んでく。
時に道草を食いながら、ゆっくりと何ヵ月、半年以上もの時間を掛けて。
バルム族から譲り受けたこの馬は、穏やかな気性の賢い馬である。
名前はサイアー。
僕がバルム族と一緒に暮らす間に生まれた子で、世話にも参加してたから、僕にも良く懐いてくれてた。
何時までも共にいられる訳じゃない。
馬の寿命は人間と比べても尚も短いし、僕が移動する道によっては、例えば小さな船に乗る時は、場合によっては手放さなきゃならないだろう。
でもその時が来るまでは、頼りにするし、精一杯に可愛がろうとも思ってる。
草原の空は蒼い、地は草に覆われていて、碧い。
馬の背に揺られる旅は、太陽の光は暖かく、風は涼しく心地良くて、とても眠たくなってくる。
尤も僕の馬術の腕だと寝ると落っこちるから寝れないんだけど、ぼんやりとしながら前に進む。
このまま東に進み続ければ、やがて草原を抜けて、黄古帝国の領土内に入るだろう。
色々と情報を集めて見たところ、黄古帝国は大きく五つの州にわかれてるそうだ。
まず黄古帝国の東に位置するのが、その東側を海に接する青海州。
次に南側に位置するのが、同じく南側を海に接するが、州内の多くが険しい山地に覆われていて港が造れないらしい、赤山州。
西側に位置するのが、幾つかの大河とその支流が州内を血脈のように走る、白河州。
北側に位置するのが、火山灰の混じった雨風が吹き、冬には黒い雪が降るとされる、黒雪州。
それぞれの州にはそれを統治する州王が存在し、四人の州王を中央にある黄古州にいる皇帝が従えて、黄古帝国は成り立っている。
またそれぞれの州は暮らす人々にも特徴があって……、例えば赤山州には下半身が蛇の姿をしてる蛇人族が暮らしていて、赤山州近くに存在するドワーフの国と交流があるとか。
蛇人族とドワーフは共に酒好きであり、とても相性が良いらしい。
大草原を抜ければ、僕が最初に辿り着くのは白河州だ。
領土内を縦横に川が走る地と聞けば、僕は中央部の小国家群を思い出すけれど、白河州は一体どんな所だろうか。
話を聞くのと、実際に自分の目で見るのとでは、全く違う印象を受ける事だって多い。
東に進むにつれ、水の気配が少しずつ強くなるのを感じる。
僕はこの先に待ち受ける事に思いを馳せながら、サイアーの首を軽く叩く。
十四章スタートです
少し短めですが、頭空っぽにしてみれる空気の章かなと思います
本日六月十日より、
「転生してハイエルフになりましたが、スローライフは120年で飽きました」
のコミカライズがコミックアース・スター様で開始されます
是非ご覧になって頂けると嬉しいです
と、言っても公開は多分午後の六時くらいだと思うので、まだもう少しだけ後になりますけれども
なので明日の更新で、もう一度告知させてください
どうぞよろしくお願いします