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 ルードリア王国を中心として、周辺国を回るエルフのキャラバンは、当然ながら時事には詳しい。

 僕はここ数年程は外への興味を断って内に籠っていたから、彼らから聞かされる話は驚きばかりだった。

 例えば、そう、ルードリア王国の南に在る国、パウロギアが滅んだり、東の国、ザインツとジデェールが統合されて一つの国になりそうだとか。

 いや本当に、割と洒落にならない大事である。


 パウロギアは海を欲し、南の商業国家、ヴィレストリカ共和国への侵攻を幾度となく行っていたが成功せず、それどころか最近になって逆に攻め滅ぼされてしまったのだ。

 何でもヴィレストリカ共和国は、強力な傭兵団を複数雇い入れ、パウロギアを一気に押し潰したらしい。

 その動きがあまりに早過ぎたのと、ルードリア王国がパウロギアへの食糧輸出以上の支援を、具体的には兵の派遣を躊躇った事もあって、パウロギアは滅亡した。


 しかしヴィレストリカ共和国もルードリア王国と国境を接するのは嫌だったのか、パウロギアの国土を一部接収したのみで全土の占領はせず、生き残った貴族達に新しい国を興させたらしい。

 元々ヴィレストリカ共和国は商業の国だから、領土的野心は薄いのだろう。

 大して欲しくもない土地を手に入れて統治に苦労するよりは、大国であるルードリア王国との緩衝地帯としたい。

 そんな思惑から新しく興ったギアティカ国は、ヴィレストリカ共和国の属国として支援を受けながら復興中だ。


 パウロギアはヴィレストリカ共和国との交流を持たなかったが、ギアティカになった事でそれが大きく変わった。

 多くの物や新しい考え方、文化が流れ込み、もしかすると属国ではあっても、以前よりもずっと豊かになるかもしれないと期待されている。


 ザインツとジデェールでは元々関係が深い国ではあったけれど、今回は完全に統合してズィーデンという名の一つの大国となる事を目指す動きが出ているそうだ。

 その名目は北東の侵略……、というよりは略奪国家、ダロッテの脅威に対抗する為。

 だが元々ザインツやジデェールは、ルードリア王国や小国家群とも幾度となく争った歴史があり、その二つが纏まって大きな国となる事に周辺国は危機感を示しているという。

 故にルードリア王国では東部に新たな砦の建設が始まったし、小国家群でもザインツやジデェールと国土を接する国では、兵の増員が急がれてるらしい。


 こうして見ると、ルードリア王国を取り巻く状況は危機的ではないにしろ、緊張感を孕んだ物になっていた。

 元々ルードリア王国は西をプルハ大樹海に、北を山脈地帯に囲まれている為、仮にヴィレストリカ共和国とズィーデンが協力すれば、封鎖が完成してしまう。

 南東のカーコイム公国は中立の立場だが、封鎖が行われるなら当然圧力は掛かる筈。


 ルードリア王国は強い国で、生産される食料も豊富だからそれがすぐに致命傷となる訳ではないけれど、それでも真綿で首を締められたくらいにはゆっくりと弱っていく。

 すると状況を打破する為に行われるのは、大規模な戦争だ。


 まぁこれは僕の勝手な想像だし、実際に封鎖が行われるとは限らない。

 パウロギアが滅びた事でヴィレストリカ共和国との取引が盛んになり、両国がより豊かになる場合もあるというか、多分そっちの可能性の方が高い。

 ただ、そう、近い時期に変化が二つ重なっているから、どうにも不安が掻き立てられる。



 だけど幾ら心配をした所で、これから大陸の東部に向かう僕にできる事はない。

 そしてこの際ついでだから、東へ向かうルートの話もしておこう。


 この大陸で中央部と東部を分けるのは、人喰いの大沼と呼ばれる大湿地帯だ。

 人喰いの大沼はプルハ大樹海に並ぶ危険地帯とされる場所で、特有の魔物が多く出現する。

 大湿地帯には小国家群から流れて来た川の水や、南の海から冠水する海水が入り混じり、独自の生態系が築かれているという。

 また大昔に滅びたとされる人族、蜥蜴人を見たって噂もある場所だけれど、真偽のほどが定かではない。


 中央部から東部へと向かうルートは、人喰いの大沼を避けて陸路で北を回るか、海路を船で行くか、人喰いの大沼を突っ切るかの三つとなる。

 しかし北を回るルートは氷原、砂漠にぶつかるので険しく、人喰いの大沼を突っ切るルートは論外な為、船を使って南を海路で行くのが一般的だった。


 ちなみに人喰いの大沼を東に抜ければ果てしなく広い大草原が広がり、ハーフリングや定住しない遊牧民族達が暮らすらしい。

 尤も海沿いにまで草原が広がる訳では決してなく、南部の海に近い地域には人の国が並ぶ。

 逆に大草原の北側は砂漠になっていて、更に北には氷原が広がる。

 砂漠にも人が住む地域はあるそうだけれど、行き来はあまり盛んではないそうだ。


 さて僕が東部へ向かうルートだが、敢えて人喰いの大沼を突っ切ろうと、思ってる。

 だって船を使うなら、そのまま東端まで乗って行かない理由がないし、氷原や砂漠の厳しさに比べれば、僕にとっては魔物の出現する湿地帯の方がずっとマシだから。

 より具体的に言うならば、氷原や砂漠に比べれば、湿地帯の方が精霊の力を借り易い事が最も大きな理由だった。


 後はそう、蜥蜴人も、本当にいるなら一目くらいは見てみたいし。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] ・ザインツとジデェールが統合されて一つの国になりそうだとか。 ・ザインツとジデェールでは元々関係が深い国ではあったけれど、今回は完全に統合してズィーデンという名の一つの大国となる事を…
[気になる点] 後はそう、蜥蜴人にも、本当にいるなら一目くらいは見てみたいし。 蜥蜴人も、見てみたい もしくは 蜥蜴人にも、会ってみたい [一言] 湿地帯?大変そうだな、普通なら、って思った。
[気になる点] またエイサーが蜥蜴人から喧嘩を買いそうな予感。 その後仲良く酒を飲むまでがデフォ。
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