ダロサン1話ハッピーデイズ
ー1話ハッピーデイズ
「芳村ぁ~」
日南子がトイレから出てきた。
芳村真綾は、ドーム型の筐体を見ていて振り向かない。
「なに~?イケメンでもいるの?」
待場屋日南子は、真綾の視線の先を見た。
「あれ?バイクの人?同じリュックだ」
高校三年生の二人は、毎朝信号待ちで彼と遭遇する。
彼が二人に気付いた。
ニコッと笑って、右手でサムアップした。
気付かれた!
「す。すいません」
あわてて頭を下げて、恥ずかしさに日南子を引っ張って走って逃げた。
40才以上に見えた。父親ぐらいなのに、真綾は恋した事に気付いた。あり得ない。しかし、胸が締め付けられる。
駐輪場で日南子に言った。
「日南子。ヤバイよ」
「なになになになになに?」
「あのオジサン好きになったみたい!」
「気のせいだよ。年下が好みでしょ?」
「きっとファザコンになったよ」
「落ち着いて。ファミマでコーヒー飲んで冷静になろ」
しかし、恋した事を確認できただけだった。
翌朝から、バイクの彼は信号待ちでサムアップしてくる。日南子とサムアップを返す。
その内、指に二人を模した指人形がついた。
こちらも、バイクと彼の指人形で返す。
夏休みに友達の家に自転車で行った帰り道、印刷会社の駐輪場に彼のバイクを見付けた。
近付いて、ナンバープレートを確認する。
「彼のだ……バックシート」
触ってみる。
「乗ってみる?」
後ろから不意を突かれた。
目を見開いて、口が開いた。手で押さえるのも忘れた。
振り返ると彼が笑っていた。
「ジャージ似合うね。芳村さんか?芳村なにさん?」
ジャージに芳村真までプリントされている。
「真綾です」
彼はキーを差して、ハンドルロック外し、バイクを引き出した。
「マアヤさん。どうぞ」
理性も恥ずかしさも吹き飛んだ。
バックシートに跨がった。
「そのスポーツバイク用ヘルメットなら大丈夫かな?公道はまずいから、駐車場を1周だな」
彼が乗ってくる。迷わずしがみついた。
「シートのベルトでも良いよ?」
「これで」
「マアヤは凄いね。いくよ」
「はい」
彼の背中で幸せ過ぎて気絶した。