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荷車
「それじゃあ、僕はここまでです」
屋敷の門の前、引いてきた荷車を静かに停める。
荷車の少女は腰を上げ、脚を地面へ下ろそうとする。
「そこ、金具でてるから」
「はい」
気の弱そうな顔をしたその少女は、静かな声で答える。簡素な白い布の裾を上げ、古錆びた金具を器用にまたぎ車を降りた。
大柄な男が門から出てくる。ゴロツキのような顔立ちだが、半袖のシャツの生地は上質なものである。
「おい」
男が太い声で少女を呼ぶ。
少女は一度だけ僕の方をみて、落ち着いた様子で言った。
「ありがとうございました。ふるさと、帰れたらいいですね」
返事をしようとして、ほとんど声にならなかった。
男は不機嫌そうな顔のまま少女の背中に手をあて、門の中へ押しやる。
彼はポケットから紙封筒を取り出し僕の荷車に投げ込むと、中から門を閉めた。
象牙の塔が並ぶ帝都、その都心の邸宅街。
軽い荷車を引いて僕はその街を出た。