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第二章 第三話:楽しい楽しい実学と雑学

 さあ次の魔法理論は僕が一番楽しみにしている授業だ。魔法を実際に使うにあたり必要となる予備知識と基礎訓練を行う。


 この三か月で教わったことをしごく大雑把に説明すると、この世界には魔素(マナ)魔力(マギカ)という目には見えない力が存在し、魔素(マナ)魔力(マギカ)の根源となり、その魔力(マギカ)は魔法を使う際に必須となる。


 簡単にいうと、魔素(マナ)はそこら中に遍在する酸素のような物で、それを生命が取り込み、体内にて魔力(マギカ)に変換し、魔法のエネルギー源とするのだそうだ。


 そして魔法発動の際に消費された魔力(マギカ)魔素(マナ)へと還り、再び自然界に巡ってゆく。


 また、魔法には一般魔法や定型魔法と呼ばれる通常の魔法と、精霊魔法と呼ばれる物の二種類の魔法がある。前者は自らの魔力(マギカ)を使って直接魔法を発動させ、後者は自らの魔力(マギカ)を対価として精霊に魔法の行使をお願いするという違いがある。


 ちなみに生物が魔素(マナ)を直接魔法の力の根源として使うことは出来ない。必ず一度魔力(マギカ)に変換する必要があるのだ。さらにその変換スピードは遅い上に、体内に貯留しておける魔力(マギカ)量も、一般的にはそれほど多くはないそうだ。


 ただし精霊はその限りではなく、魔素(マナ)から直接魔法を組立てることが出来、そのため彼らの魔法の威力も速さも通常の魔法の数倍に至ることもあるという。


 ではなぜ精霊達は魔力(マギカ)を対価に魔法を行使してくれるのか?それは精霊達が、生物がその体内で変換、特に精製した純度の高い魔力(マギカ)を嗜好するからなのだそうだ。


 そんな話を聞くと、逆に襲われて魔力(マギカ)を吸いとられそうなものだが、そんなことは起きないらしい。精霊達には精霊達のルールや生態というものがあるのだろう。


 このように非常に複雑かつ怪奇な、新しい現象を僕は学んでいる。いままで聞いたことも見たこともないような、新しい理法だ。楽しくないわけがない。


 子供の頃、僕は学校の勉強を楽しいと思ったことは一度たりともなかったけれども、それは今後僕の生き死にに直結するような知識というものを学んだことがなかったせいかもしれない。


 もしくは、今は大人の頭だから自分の未来を容易に想像でき、強くなってゆく自分を楽しむことが出来ている、というだけのことなのかもしれない。


 簡単に魔法理論の概要(シラバス)を挙げるだけでも、


・自然界における魔素(マナ)循環の仕組み

・その効率的な吸収法

・実践的な魔力(マギカ)変換術

・基本的な魔法発現の仕組み

魔力(マギカ)操作法

・魔法体系論

・精霊と魔法の関係

・etc、etc.


 この分野では学ばなければならない煩雑すぎる知識が山ほどある。座学で精霊言語の次に時間をかけているのがこの魔法理論だった。


 それでも僕はこの授業を毎回楽しみにしていたし、実際僕の知識は日を追って深くなり、また磨かれてもいった。


「ロタット、僕ってもう魔法が使えるかな?」


「なんて?」


「だから魔法が使えるかな?って」


「おまえは何を言っているんだ」


「え?魔素(マナ)吸収と魔力(マギカ)変換にもだいぶ慣れたし、魔法の発現課程も理解したよ?基礎はもう出来てると思うんだよね」


「はいクソ雑魚乙ゥー。魔法なめすぎでしょ」


「クソ雑魚……。じゃあ何が足りないんだよ!」


「今の四作の精霊呪文でどれだけの魔法が発動する思てるんや。しょーぼいしょーぼい火とか水がちょろっと出るだけなのが確定的に明らかやで?」


「」


 意味がわかるだけに、辛い。でも次の日からごく初歩的ではあるが、より実践的な魔法の練習が始まった。わかりやすすぎるぞロタット先生。口は悪いけどやさしいロタット先生が僕は大好きだ。



 座学の最後は一般常識等の広範にわたる社会知識について学ぶ。アイクナッフ語と同じく、人類社会に関する基本的な知識と、この世界の大まかな自然環境や、いくつかの人種、文化、地理等のごくごく簡単な知識はすでに頭に入っているのだが、復習することでしっかりと自分の物にすることが大切なのだそうだ。


 特に最も人口の多い人類種、この世界では“普人族(コムニス)”と呼ばれている人々の社会について現在は勉強している。


 普人族(コムニス)の他には僕の種族である森精族(エルフィン)、僕らの近縁である闇精族(デールフィン)、鍛冶が得意な鉱精族(ドワーヴェン)、外見から迫害され険しい山岳地帯に隠れ住む豚人族(オーケン)、平和を愛する農耕民族である草精族(キュビッツ)等の人類がいる。


 他にも亜人と呼ばれる、人類とは別の進化の道筋を辿った知的生命体もいる。例えば獣人族(シカイム)と呼ばれる人々がそれだ。彼らもまた外見から迫害された歴史を持ち、人里離れた深山に部族単位で細々と暮らしているということだ。


 これら数々の種族については、今は紙面や字面から想像することしか出来ないが、今日僕らがファンタジーと言われて頭に思い浮かべるような、そんな一般的な種族の外見がイメージ出来た。


 ではエジルプラスに頼んでおいた時間軸はどうなのだろう。学んだことから察するに、この世界は文化や技術の発展度合いからすると、一概にはいえないが大体中世前期あたりの年代らしい。


 ただし、人類集団ごとにかなり文明の発展に差異があり、上で挙げた種族の中には、石器時代に近い生活をしている集団もあれば、近世文明に匹敵するほどの魔法文化と技術を誇る人々もいるようだ。


 ちなみに以前エジルプラスが口にした“アッティバの導き”というのはこちらの世界で広く信仰されている神、“聖善神アッティバ”のことらしい。どんな世界でも人がいるかぎり、宗教も存在して然るべき物なのであろう。他にもいくつかの宗教があるようだが、他の一般常識と同様、ざっくりとした概要にしか触れられていない。エジルプラス的にはネタバレはNGなのだろう。


 他にも「フーン」とか「ほぉーん、で?」としか言いようのない知識を色々と学んだが、それはこの場では割愛しておこう。広く浅くすぎて、高校の世界史レベルでテスト以外に役に立たなそうな知識だったからだ。


 大して深くも踏み込んでいない一般常識の授業だが、僕は文化的にも技術的にも、こちらの世界に比べれば非常に発展していた国でもともと暮らしていた上に、エジルプラスのおかげで基本はすでに頭に入っている。であれば何も難しいことはない。この一般教養に関しては、三か月でほとんどの課程は終えてしまった。


「まるで天才になったみたいにすらすらと頭に入って来るよ」


「元から頭に入ってるんやから当たり前や!エジルプラス様が天才なんやで?何でもござれや!」


「うーん、何でも出来るんだったら、アイクナッフ語とかみたいに、武術も基本的なことは最初から頭に入れてくれればよかったんじゃないの?」


「バカかな?いくら技が知識として頭に入っていても、それをいつ、どう使うのか身体に覚え込ませなければ意味ないんやで?特に“機”を学ばんうちは戦闘は無理やしな」


「え、だからそれも体に覚え込ませておいてくれれば……」


「アホすぎて草。慣れてもいない体でそんなことしたら、体壊すのがオチや。それにもうチュートリアルってレベルじゃねぇぞ、それ。チートや!」


「」


 意味がわかるだけに、なお辛い。でも次の日から、座学が終わって空いた時間には武術の補習が入っていた。基礎体力の向上と、“機”を意識して学ぶための特別な訓練だ。でもこれってチュートリアルのレベル越えてんじゃないのかな?それでいいのかロタット先生。

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