第一話
生まれた時から自分の人生は最底辺のどん底であることが決定づけられていた。
あぁ……やはり世界は生きづらいようにできている。
口元に残る傷跡を手でなぞる。
緊張というものを今までした試しはないが、密かな不安……だろうか……自分がこういった癖をする時は決まってそういう時だ。
目線を上げると目の前にあるのは来る人を威圧するような赤く装飾品が施された無駄に巨大な門。
外壁は天高く作られており、内部を見ることはまずできない。
九龍城と呼ばれているそれの入り口に俺は立っている。
東の国にある違法建築によってできた城 という名の魔の異物。
一つの国家として今では形勢されており、過去何度か軍が介入した時期もあったというが、どういう訳か返り討ちにされ今は様子見という休戦状態らしい……とは現地の人たちの噂だ。
国が事情を世間に説明せずうやむやにしているのを見ると、その内容には触れてほしくはないという感情が全面的に伝わってくる。
当時のメディアの映像も廃棄となっており見ることができないくらいだ。
相当の敗北だったに違いない。
巨大な魔物がいるだの
異形の住人しかいないだの
いろいろな憶測が飛び交っているのは
九龍城に入ってから帰って来た人はいないからだ。
そういった訳からかまず近づく人はいない。
そこに望んで行こうと思っている人以外は……
「……行くか」
いいじゃないか。
むしろ自分にとっては好都合な場所だ。
自分のような世間に馴染むことを拒絶された、はみ出し者にとってはこういうところの方がお似合いだ。
それが入って瞬間魔物に襲われることになっても。
殺されることになっても。
この生き地獄のような世界から抜け出せるのなら。
門を押すとパチリと静電気のようなものが走った。
咄嗟に手を引くと同時にぎぃ……と門は人が一人分入れるくらいだけ開いた。
中を覗くと奥が全く見えない真っ暗な闇。
自分の目線の先 少し開いた門の隙間から照らされた光が微かにそこを照らすのみであった。
自分の背丈より少し高いくらいの天井に成人男性二人分くらいの横幅のコンクリートの道が闇の中に伸びている。
……巨大な門に対してやけにこじんまりとしているな というのが今の感想。
一抹の不安を胸に手を壁に伝いながら一歩踏み出す。
それを知ったかのように門はずんっと音を立てて閉まった。
闇の中をひたすら進む。
自分の進む足音しか聞こえない静かな空間。
こういった視界を封じられた真っ暗闇のなかを永遠と歩き続けるのは初めてだが不思議と恐怖は感じない。
暫く歩き続けると急に目前に扉が現れた。
なんの挙動もなしに現れた扉になす術もなくぶつかり尻餅をつく。
「………いたい」
闇の中にぽつりとそこだけ浮き上がったように扉がある。
なんだか幻想的で不思議な光景だ。
どういったトリックで現れたかは分からないがここが終着地点らしい。
立ち上がり扉に手をかけ 静かに開ける。
飛び込んできた光が暗闇に馴染んだ目に沁みる。
瞬間 パンッ!という破裂音が辺りに響いた。
「ようこそ! 私のニューヨークーロンへ!」
色とりどりの紙ふぶきとテープを身に受けながら
雨露は目の前にいる金髪幼女とその人物を挟んでポーズを決める二人の男性を見つめるのであった。