第1話 死んだ!
日本 北海道その都市の一つ札幌
既に夜も深い深夜帯だが、流石は都市と言うべきか未だに数多くの人達が札幌の街を行き交いしていた。
その多くが仕事終わりで居酒屋で呑んでいたサラリーマン達や遊び盛りの若者達だ。
そんな賑やかな夜の札幌に商店街或いは路上でギターや歌を弾く夢見る若者達の希望に満ちた曲が一層札幌を賑やかにして行く。
世界は数多くの暗い時代を経験してきた、今の時代もその暗い時代に入っているだろう、世界的に広がる紛争…断続的なテロ行為、望まぬ核配備により戦争一歩手前になる国々。
そんな時代でも、逞しくそして希望を見出し笑顔で小さな幸せを堪能して行くのが人間の良いところなのかも知れない。
そんな札幌の街のとある一角、其処には小さなトラックがポツリと佇んでいる、トラックの隣には「ラーメン」と書かれたボンボリが立っていて、このトラックが屋台という事を知らせている。
その屋台に四人程の男女が座りラーメンを食べている。
「ぷっ……はーっ!やっぱりビールは不味い!」
1人の若い男がビールを一気に飲み干しそんな事を言いながら、ビールが入っていたコップを勢い良くテーブルに置く。
そんな彼を左隣の男二人はギョッとしながら見る、そして右隣の若い女はそんな彼に呆れの視線を送る…其れは直ぐに逸れ目の前のラーメンに再び視線が注がれる。
「不味いなら呑むな……たく」
そんな彼を呆れた様に屋台の店主が言う、怒るべきだが此れが日常的になっており怒る気にもならない、そして次に言う言葉も分かりきっている、店主は狭い店の中から一升瓶に入った日本酒とコップを出し、コップに日本酒を注ぐ。
「オッちゃん日本酒!」
「あいよ400円ね」
店主から日本酒が並々注がれたコップを受け取り呑む、この屋台に日本酒はメニューとして置いてないが、裏メニューの様な立ち位置として一応置かれているが、呑むのが彼しか居ない。
「はぁ〜…やっぱり美味い!ラーメンも酒も美味い!」
「ありがとよ、其れとそっちの美人さんはアンタの連れか?」
店主は彼の隣に居る髪の長い美人を指す、そんな言葉に半分程日本酒を呑んだ彼は答えた。
「まぁウチの幼馴染みだよ」
彼の言葉の直ぐ後に隣の幼馴染みは直ぐに言った。
「コイツの彼女です」
素っ気なくでも嬉しそうな表情でそう言った、彼女のその言葉に男二人は非常に残念そうな表情を浮かべ、彼に嫉妬の視線を送る。
「まさかお前が女を作ってるなんてな……まぁアレだ、おめでとさん」
店主も心底信じられない表情を浮かべるが、ぎこちなく二人に対して祝福の言葉を送る。
祝福の言葉を送られた彼はニヤッと笑い店主に話し掛ける、ちょっとした交渉だ。
「それじゃあ、おっちゃんさついでにラーメン値引きしてよ」
「先に払った金は戻さねぇぞ?まぁ…次来た時は半額にしてやるよ」
「やったぜ」
其れから他愛のない会話をし屋台から二人は出る、この屋台に来るまでに2〜3軒程居酒屋をはしごし、シメで先程の屋台に来たのだ。
そして今二人は家に帰る為に札幌駅のホームに立って、列車が到着するのを待っている。
ホームは帰りの人でごった返している、そんな中幼馴染みは彼の手を握り恥ずかしそうに彼だけに聞こえるように言った。
「なぁ……あのな?…えっと……今日お前の所に泊まりたい……だが」
酒のせいか元々赤い顔が更に赤くしながら言う彼女、いや確実に恥ずかしさの所為だろう。
「勿論良いですともカモン」
彼の言葉を聞き、顔を輝かせ更に言葉を言おうとする、先程とは雰囲気が変わっていた、その事に気付いた彼の表情は真顔になる。
「あのな……家に着いたら」
『間も無くホームに列車が到着します』
直後!彼の背中を誰かが押す、そのまま線路に落下する…彼が見たのは、彼女と取っ組み合いになっている知らない男……いや、誰かは知っているが名前が出て来ない。
「ーー‼︎」
届くはずもない手を彼女に差し出し声にならない声を上げる……そして、彼の身体を列車が無慈悲に轢いていった。