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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第1章 パラス編
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襲撃者

 ゼラはふと目を覚まし、起き上がる。まだ外は暗い。

 しばらくの間、窓の外を眺め続けていた。

 ベッドから降り、部屋を出る。

 路地に出て、大きくあくびをする。

 そしてぶらぶらと歩き出した。

 奥まったところに来た瞬間、黒い人影がいっせいに躍り出、彼女を取り囲んでしまった。


「ぬしら、何者だ」

 人影は答えない。仮面のようなものを被って、正体が分からない。

 人影が何か唱えた。 

 疾風が突然舞い、ゼラは高く飛び上がってかわす。

 人影達は驚いている様子だ。

 何か言っているが、無論言葉が分からない。

 そこに、再び人影達が風の刃を浴びせる。


(なるほど、空気を操るか)

 

 前、魔動機関車で見た。そいつらと同一人物だろうか。

 ゼラは風の刃ひらりとかわし、自身で風を発生させぶつけ、さらに飛び上がった。

 壁に着地し、法力で吸着させる。

 下を伺うと、即座に飛び降り、風の刃を身体の回転を利用して避け、人影の1人の頭に手を置き、両足を広げて蹴りを別の2人に浴びせる。そのうえ、置いた手を離し代わりに両足で踏みつけてやる。


(3人、後2人か)

「何者だと訊いとる」

 

 ゼラは地面に着地を終え、ドスの利いた声で言った。

 人影達はさらに増えつつあるようで、ゼラは建物の上や下や間に影が集まってくるのを見た。

 ゼラの目が赤みがかった茶から、透き通った空色に変貌を遂げようとしている。

 ゼラを相手にしていた黒い影達は、じりじりと後退していた。


「何が目的だ。ぬしら、魔動の遣い手か。誰の差し金だ」

 

 黒い人影が紙切れをかざす。

 途端に、ゼラの青い目がギラっと光った。

 人影は明らかに動揺していた。


「無駄だ」

 

 ゼラが歩み寄っていく。


「その程度のもん、おらには利かねえ」

 

 次に数人で紙切れを示してきた。そして何かを唱えている。

 ゼラが手をかざすと、突風が巻き起こり人影は吹き飛ばされる。立ち上がって尚も続けようとする人影に走り寄り蹴り飛ばした。紙切れが地面に転がる。その勢いのまま、呻いてそれを拾おうとした人影に足をかけ、隣の人影に膝蹴りをかます。

 さらに、たまらず殴りかかってきた別の人影に対応した。拳をかわし、後退する。さらに数発のパンチをかわしつつ、突風で吹き飛ばした。

 次の瞬間、ゼラは空中高く飛び上がっていた。一瞬前に彼女がいた地面は爆発にさらされ、轟音とともに衝撃波を発していた。


(味方がおるのに)

 

 ゼラは壁に着地し、駆け上がって屋上へ降りた。

 下ではうめき声が聞こえている。

 数人の人影が負傷したようだ。

 ゼラは周囲を見回した。

 どんどん気配が増えていく。

 数十はいるようだ。


「アキラメタマエ」

 

 人影が屋上に現れた。

 横に数人の人影を連れて。まるで護衛の様に。

 顔はよく見えない。暗さだけでなく、どうも顔を何かで覆って隠しているらしい。


「何者だ。何でこんな事をする?」

「アナタヒトリ、キテクレサエスレバ、コトハアラダテナイ」


 ゼラは首を傾げた。


「分からねえ、ぬしはカナリス人か?どうしておらに構う」

「オトナシクキナサイ。サモナクバ、オオサワギニナリマス。トトワノモノタチモ、ブジデハスマナイ」

 

 ゼラは唸って、屋上に腰をどんと下ろした。あぐらをかき、腕を組む。

 これ以上はトトワの陣営にも迷惑がかかろう。カナリス人が来たという事は、何かしら得体の知れない政治上の何かがあるのだ。直感的にそう思った。

 しかも、周囲には数十もの気配。その全てが魔動の遣い手となれば……。

 あぐら座りのまま、目の前の人影を睨み付ける。





「おはん、こんな夜中に」

 

 アキ・マリナリがあくびをしながら言った。

 サーマは廊下で彼とすれ違ったのだ。

 同じカツマの人間で、彼も秀才として期待された若者だった。

 カツマの留学生仲間の中で、サーマの知り合いは彼くらいのものだった。サーマと同い年である。


「少し、夜風に」

「そうか、物騒だから気をつけろ」

 

 勉強の休憩がてら、ホテルの庭先で夜風に当たる。すると妙な集団を見た。

 黒い人影を目撃したサーマが近づこうとすると、すっと隠れてしまったのだ。

 嫌な予感がした。

 こちらを見張っているのだ。

 尚も歩み寄ると、ふいに強烈な眠気に襲われた。

 疲れからか、と思ったが、膝が崩れ落ちるに至って、恐ろしい予感がした。

 しかも、人影は何かこちらに示している。

 それは紙切れのように見える。。


(……!もしや魔動?)

 

 魔動術のひとつに、対象を眠らせる麻酔術式があるのは知っていた。

 解除の手段としては、逆魔動をかけるのだ。

 その術式の魔動陣を、真逆の手順から書くのである。または呪文を逆から唱えるのだ。相手はきっと魔動陣の書かれた紙をかざして発動させたのである。

 記憶を手繰り寄せ、麻酔の陣を思い出しつつ、おぼつかぬ手で地面に慌てて書く。

 眠気が急に晴れた。


「や、やった」

 

 と思うと同時に、悪寒に襲われる。


(本当に魔動を仕掛けてきたのだ。相手は)

 

 サーマは魔動の杖を懐から取り出し構える。


「く、来るなら、こんか!」

 

 思わず声が震えてしまった。

 その人影達は身を隠すのを止め、サーマの前に現れた。

 サーマは息を飲む。

 彼女は、魔動や法術を学びはしていたが、実戦は初めてだった。

 息がし辛く、動悸が止まない。喉が異様に渇き、身体の震えを実感する。

 むしろここで助けを呼ぶべきか、と思い至ったその瞬間、サーマの意識は暗い闇の底に沈んでしまった。

 背後にも人影があった事にまで気を回す余裕が無かった……。


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