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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第2章 動乱編
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カナリス流とサパン流

 手を合わせ終わった後も、彼らはしばらく2つ並んだ墓に目を向けていた。

 沈黙を破ったのはゼラであった。


「サーマは、なじょしてここに?」


 サーマの目は真剣そのものだった。


「おはんを探しとった。ヘイゾウさんにここまで案内していただいた」


 ゼラは目を細くしサーマをじっと見た。


「1人で探しに来たのか?」


 答えが分かっている目だった。サーマもその反応は予測していたと言わんばかりに、


「1人じゃなか。村に派遣されてきた」


 と答えた。

 2人の予想外の空気にトマイ、シルカ、ヘイゾウの3人は息を飲んだ。喜ぶべき再会になるだろうと期待していたのである。


「タイゴ・マカナルというお方を知っちょるか?」


 ゼラは首を傾げた。

 そして次の瞬間、ああと声を上げて冷笑的な光を目にたたえた。


「知ってるが、なじょした?」

「タイゴ様からおはんを探すよう密命を受けた」

「見つけたらなじょする?」

「分からん。タイゴ様は探せとだけ言われた」

「そいつとおらはやり合った事がある。そいつはおらを敵と見なしていた」


 ゼラは顔を背け、歩き出した。


「ゼラ!」


 驚いたサーマの呼びかけに振り返ったゼラは言った。


「おらをそいつに差し出すのか?」

「差し出すなど!」


 サーマが声を荒げた。


「ゼラ、タイゴ様は新政府の重鎮、あの方の力を借りるのは悪い事ではなか!おはんは新政府軍に喧嘩を売ってしもうた。これからの新時代、肩身の狭い思いをする事になる!」

「サーマ」


 ゼラは首を振った。声色は低い。

 2人の視線が交差した。


「おらに納得しろと?」

「おはんが何を思おうと、わたしは自分が良いと思う事を言うだけじゃ」


 シルカはサーマの足が震えているのに気付いた。ゼラは不動のままじっとして冷たい眼光をサーマにぶつけていた。サーマの様子に気付かぬゼラだとは思えないが……。


「新政府はシンエイ様の仇だ。タイゴという奴はいきなり法術を放ってくるような奴だ。どちらも信用出来ねえ。」

「ゼ、ゼラ……」


 サーマは喘ぐように言った。

 ゼラの目は細められた。


「なんなら、止めてみるか」


 サーマは顔を強張らせて、


「わたしは信用出来ないか?」


 と歩を進めた。


「ぬしは信用出来る。だが、ぬしに迷惑をかける訳にはいかねえ」

「迷惑だなどとは思わん。貸せる手があって貸さぬのは、わたしの性分ではなか」

「手を借りるのはこっちの勝手だ。すまんかったな」


 ゼラはそっけなく言って踵を返した。

 そして、首を回してにっかりと笑った。


「またいつか会おう」


 ゼラが去っていくのに、サーマは拳をぎゅっと握りしめて立ち尽くしていた。

 すると、ふっと強張った顔が緩んで、笑顔になったかと思うと、


「ゼラ!いつでも訪ねてきてよかど!居所はどうなるか分からんから、おはんで調べてくれ!」


 これにはゼラも笑って、


「ぬしも助けが欲しけりゃ、おらを探してくれよ!どこで何しとるか分からんからな!」


 2人して声を上げて笑い合い、駆け寄って抱き合った。


「フェール・アン・カランじゃ」


 サーマが言う。


「何だそりゃ」

「エガレス語ではハグという」

「だからどういう意味だ」

「カナリス流、これで分かってくれるはずじゃ」

「成程、カナリス流だなこれは」


 トマイ、シルカ、ヘイゾウの3人が意味は分からずも2人のやり取りを微笑ましく眺めているのに、気恥ずかしさを感じたのか、ゼラは、


「さて、ここはサパン。サパン流はあっさりしとるもんだ」


 とサーマの肩をぽんと叩いて、

 風のように走り去ってしまった。

 サーマがじっとゼラの姿が見えなくなるまで視線を送りつつ、ふっと微笑んで次の瞬間顔を拭うのを見逃す者はいなかった。


「……。誰にも言わんでくいやんせ」


 と思わぬ感情の奔流に彼女自身が戸惑っている様子で、それを立て直すように3人に言うのだった。


「ゼラを探すよう命を受けたのに、みすみす逃してしもうた。ここで会った事は誰にも言わんでくいやんせ。わたしが罰を受けてしまう」


 と申し訳なさそうに笑う。

 トマイ、シルカ、ヘイゾウは互いに顔を見合わせ、約束は守るとサーマに誓ったのであった。

 


 新サパン暦2年4月5日ヤイヅ藩主の居城カラマツ城が落城した。藩主モウタイ・ケタンを始めとしたモウタイ家の人々や侍従侍女達、さらには共に城に籠り戦っていた藩士やその子女らも城を出た。

 ヤイヅ戦争はここに終結したのである。


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