表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
松の木は残った  作者: おしどりカラス
第2章 動乱編
54/130

厄介

 スカール家の屋敷の真ん前に傲然と1人の少女が立っていた。

 そしてその言葉はさらに傲然であった。親分に合わせろというのである。

 ごろつきはニヤニヤした。


「何訳分からなえ事言ってんだおめえ」

「いいから親分につなげ。ゼイの娘が来たと」


 ゼラは尚も平然と言った。


「てめえ、舐めてんじゃねえぞ!」


 ごろつきが手を伸ばすと、彼の身体は地面に組み敷かれていた。


「ぬしは使えねえな。他の奴に頼むとする」


 ゼラは冷徹に言った。

 そしてごろつきに手刀を加えようとしたその時、声がかかった。


「よしてやってくれ」


 声の主は傲然と言った。背が高く痩せぎすの風貌だった。


「俺が親分に話してくる。誰の娘だって?」

「ゼイの娘だ」


 ゼラはごろつきから手を放して言った。

 男はニヤリと笑いながら踵を返して屋敷の奥に消えて行った。

 ごろつきは、呻き悪態をつき、よろよろと起き上がった。

 しばらくすると、騒々しく大勢の人間が玄関に集まり、その中央には目をかっと見開いた小太りの小男がいた。


「ゼイ……」


 その小男は呟いた。


「親分、あんたの知り合いか?」


 痩せぎすの男は腕組みをした。

 親分と呼ばれた男は、口をあわあわさせて頷いた。


「ああそうともよ。にしても親子似るもんだなあ」


 そしてゼラを手招きした。


「で、何の用だい」

「おらの母ちゃんと因縁浅からぬと聞いた」


 ゼラは皮肉気に笑い、土間を上がった。


「ああそうともよ。おめえの母親とは良い関係を築いてた。共に村を守ろうってな。盗賊や山賊がこの辺出るんだよ」


 親分は深刻そうに言った。


「でも、おめえ母ちゃんが流行り病で…とりあえず座りなよ」


 ゼラが通された部屋は畳張りの広間で、彼女を取り囲むように大勢のごろつき達も座った。


「で、だよ。おめえ政府軍から追われてねえか?」


 親分が身を乗り出した。

 ゼラは即座に応えた。


「ああ。新政府軍がここまで来たか?」


 親分は頷いた。


「赤髪の年頃15,6くらいの少女を探してると言ってたな。おめえ何かやらかしたか?」


 彼は非常に親身そうな表情を浮かべ言った。


「大した事じゃねえよ」

「いや、大層な事だろうよ。奴ら殺気立ってたぜ。でもゼイの娘を売る訳にはいかねえよ」


 親分は激しく首を振った。


「あんな偉そうな連中に与する気はねえ!」

「で、おらをどうするつもりだ?」


 ゼラは神妙な表情を浮かべた。


「おめえはうちで匿う」


 親分ははっきり言い切った。


「で、でも親分!」

「こいつ一家に喧嘩売ったんですぜ!」


 ごろつき達は騒ぎ出した。


「黙らねえか!ゼイの娘ってなら、てめえらも分かるだろ!?」


 親分の一喝に場はしいんとなった。


「すまねえ見苦しいところ見せちまって。とりあえずタムロに部屋案内させるからな?」


 彼は満面の笑みを浮かべた。



「こっちでごぜえやす」


 タムロは渋々といった様子でゼラを案内した。

 部屋は殺風景といってもよく、非常に狭かった。


「入用があったら知らせて下せえ」


 襖を閉めようとしながらタムロは縁側から顔を出して言った。

 ゼラは頷いた。


「ところで聞きてえ事がある」


 タムロの表情に怯えが浮かんだ。


「おらの父親の事を知ってるか?」

「え?そんなの知りませんよ!俺ぁ一家に入って数年だし…」


 タムロは愛想笑いのようなのを浮かべ、声まで立てて笑ってそそくさと部屋を出て行った。

 ゼラは部屋に1人残されると、注意深く周囲を観察した。

 こちらを見張っている者はいないようだ。


「さて、しばらく厄介になるかな」


 不敵な笑みを浮かべて、畳に仰臥するゼラである。

 


「いいんですか親分」

「いいんだよ」


 スカール一家の親分スケは言い聞かせるように問いた。


「政府軍にも借りが出来るってもんだ。あの女の娘なんてどうなったって知ったこっちゃねえや」


 スケ親分は暗い笑みを浮かべて、得心がいって喜びの表情を浮かべるごろつき達を見回した。


「だが、油断すんじゃねえぞ。こっちを信用しきったところを売っちまうという訳さ。それまでは仲良く仲良くな」


 ごろつき達もニヤニヤと笑って、しばらくすると真剣な面持ちに変わった。

 スケ親分も油断ない表情となって、また口を開いた。


「気取られるんじゃねえぞ。いざとなったら、ま、いざとなったらこのニメシの旦那にも働いて貰わねえとな」


 ニメシと呼ばれた痩せぎすの男は笑った。


「相手にとって不足なし、と見た」


 そして彼らは広間からぞろぞろと別れて行った。

 タムロはそのままゼラのいる部屋へ向かった。


「何か入用はありますか?」


 と障子の向こうから声をかける。


「そうだな、腹減った」


 不躾な返答があった。

 タムロは腹立ちを押し隠しながらも、


「分かりやした」


 と応えるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ