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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第1章 パラス編
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留学

 ゼラは身寄りもなく、各地を転々としてきた。それが、法術方の奉行シンエイに拾われて運命が変わった。

 彼女は、生まれついて法術の才を見せたらしい。らしい、というのはゼラにはその記憶がなく、物心がつくと1人だったからである。他の身寄りの無い子供達と組んだり、1人さまよったりして何とか生き延びてきた。この「ゼラ」という名も、誰がつけてくれたのか分からない。

 シンエイの握り飯を盗んでこっそり食べていると、シンエイが路地裏にまで探しに来たのだ。


「お主、よくワシの法結界を破って……」

 

 とにっこり笑うのだ。

 ゼラにはさっぱりだった。彼女は、自然と色々な法術を使えたので、結界破りも余技に過ぎなかった。たまに使う「盗みの技」に以外の何物でもなかった。

 シンエイに連れられ、法術方で修行を積み、いい暮らしをさせて貰えた恩は絶対に忘れまい、と誓っている。

 そんなある日、シンエイに呼ばれたのだ。

 彼は執務室で書物を整理していた。


「何でございやしょう」

 

 シンエイは微笑んだ。


「お主、異国は興味あるか?」

 

 ゼラは首を傾げるしかない。


「どういう事で……?」

「宮中は此度、カナリス国への使節と留学生を募集している。ワシはお主を推薦しようと思っている。いや、既にした!」

「え、カナリス?」

「そうだ。これからの時代、異国から学ぶ必要がある。リュカも行くのだぞ。お前もついていきなさい」

「なじょして、おらですか!?」

「お前は師の期待を無下にするのか?」

「い、いいえ」

「なら、大人しく行って来い!」

 

 シンエイは豪快に笑うのだった。


「へ、へい」

 

 ゼラは頷くしかなかった。

 こんな形で、ゼラは己の運命を受け入れたのであった。


 

 一方、サーマはカツマの法術師のエルトン家という家系に生まれた。彼女は幼い頃から才能を見せた事もあり、此度のカナリス国留学の話が持ち上がった時、エルトン家から1人だけ選ばれたのだった。


「父上、母上」

 

 サーマは両親の前で改まって報告した。


「カナリスに行く事になりました」

 

 父は笑った。


「知っておる」

「父上にまず話があったのですよ」

 

 母が言った。


「つまり、父上は知っておられたとですか!?」

 

 サーマは驚いて父を見る。


「そうじゃ、おはんは可愛い娘じゃからの。だがこれからは、世界を見んといかんとじゃ」

 

 優しく微笑む。


「ああ!」

 

 母が叫んだ。


「なんじゃうるさいの」

「何がうるさいですか、声を上げるも当然ですよ。ドラタさんに話は通しましたか?」

「通しとる」

 

 煩わしそうに返答する父。


「じゃあ、タロさんには?サーマ自身が言わにゃならんでしょうが」

「そうじゃった……」

 

 サーマの家はカツマ藩の中では開明的といえ、女でありながら法術等の教育をサーマが受けられたのも両親の考えが大きかった。

 サーマは唖然とし、「言って参ります!」

 と飛び出していった。

 ドラタさん家のタロとは、サーマの許婚であった。

 幼い頃から仲良しで、許婚となってからも、あまり変わらず接してきたつもりだ。

 だが、向こうの方が何かと避けるようになっていたが。


「カナリスに行く事になりました」

「そうですか」

 

 タロはそう応えただけであった。

 そして気恥ずかしそうに。


「頑張れ」と言った。

「頑張る」

 

 サーマは微笑んだ。


「必ず、学んできた事を生かして見せる」

 

 しばらく談笑して、それで別れた。

 実感が持てなかったが、家に帰って布団にくるまった時、むしょうに涙がこぼれてきた。 

 不安でしょうがなかった……。



 時は移って867年、ゼラはサーマに待ち合わせをしようと出かけた際、郵便から手紙を受け取るサーマを見た。

 顔を綻ばせ、手紙の入った封筒をじっと見つめる彼女に声を掛ける。


「ぬし、元気そうだ」

 

 サーマは顔を赤くして、慌てて封筒を懐に隠した。


「な、なんじゃおはんか……」

 

 サーマは苦笑いをして見せた。

 ゼラの方はニヤニヤと笑う。


「誰からなんて言わんでいい。おらは気にしねえ」

「さ、そんな事より早う行きもんそ」

 

 サーマは小走りで先へ進んでいった。


 片や異国に来て日が浅い少女と、片や3年の月日を異国で過ごしている少女、2人はトトワ王朝とカツマ藩という敵対関係を意識させない程、その友情を育んでいった。


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