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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第1章 パラス編
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散策

 カルプ率いるトトワの使節団は、カナリス国大統領との会談を求めていた。先に、カツマの使節団が会談を済ませてしまっている以上、後手の感は否めないが、あくまでトトワがサパン国の代表であるという自負は彼らにどこか楽観をもたらしていた。

 867年の4月25日、カルプ王子とカナリス国大統領の会談が、大統領府で行われた。大統領はカルプを最大の礼を以て迎え、カルプもそれに応えた。

 その時話されたのは、カナリスとトトワの親善をより深きものにすべき事、トトワに対してカナリスからの軍事支援を行う事などであった。ただ、軍事支援といっても、当時の最新鋭の武器は決してタダという訳にはいかなかった。

 しかし、カナリスはカツマに対してはそうした事をしようとはせず、対応に違いがあったのである。これはカツマがエガレスの支援を受けているのに反発した為と、王子まで遣わしてきたトトワと、全権委任された者とはいえ藩主シミツ家の人間ではない1家臣を遣わした事に差をつけた為といわれる。


「予想はしておった!」

 

 イワラは政治的敗北と思われる現状に、少しも不安を感じていないかの様だった。


「おはんはすぐそうして、気弱になる」

「ですが」

 

 サーラは言った。


「我々は如何なりましょう?カナリスは明らかに、トトワをサパンの代表と認めたのです」

 

 彼女は、イワラの執務室に出向いたのであった。そうしていきなり尋ねても、嫌な顔1つしないのが、イワラという男であった。


「カナリス国は、何もしてこまい。奴等は正直なところ、サパンにそこまで首は突っ込みたくはなかろう。エガレスもそうじゃ。我らはただ、利用しあうのみじゃ」

「トトワも、軍事力をつけ申す。我らカツマとて今も尚、軍の増強を図っております。このまま互いに、いたずらに軍を強大にしていったら、どげんなりますでしょうか?わたしは不安です」

「血が流れるのは仕方なか。新時代を築くのは、並大抵の事じゃなかぞ。時代が流血を要求すんなら、その分、捧げるしかなか!」

「敵の血をですか?」

「味方の血もじゃ」

 

 イワラは険しい表情になった。


「事と次第によっては、味方同士の殺し合いもあるかもしれん。昨日の味方が今日の敵にもなり得る。それが時代の狭間の宿命じゃ!」

「……。分かります」

 

 サーマは頷いた。

 しかし、実感の湧かない理解であった。頭では分かっているつもりだが。

 ふと、ゼラの顔が浮かんだ。あのトトワの赤髪の少女。

 何故か、彼女に笑われそうな気がした。


「じゃがそいは、恐らくはトトワとの戦いの後になろう。トトワ健在の内は、ある程度はまとまろうからな。じゃが一度敵を失えば、カツマだトトワだの話ではなく、新時代か旧時代かの話になる。カツマの中に新時代を受け入れられん者も出てこよう」

 

 サーマは思わず尋ねた。


「イワラ様に、お尋ねしとうございます」

「なんじゃ」

「新時代とは、どんな時代でしょうか?」

 

 切実な問いだった。

 イワラは、一笑に付し、答えた。


「そいはおはんが、見つけることじゃ」

 

 


 サーマは部屋に戻って、紙に魔動陣を書いた。

 風を吹かせる陣で、彼女はその風を浴びながら溜息をついた。

 別に暑かった訳ではない。これが安全でささやかな魔動であったからだ。

 トトワも、カナリスから魔動の術を教わるであろう。カツマもトトワも互いに、教わったばかりの魔動を用いて戦をするのだ。それは、想像を絶する惨劇をもたらしてしまうのではないか。気が沈む思いだった。

 しかし、サーマはその流れを止めるべき、とは思ってはいなかった。新時代を築くための犠牲は仕方ない。と理屈では分かっている。

 新時代……。

 流血の果てに、どういう時代を作るのか。

 

 


「確かに、今回は我々トトワの外交的勝利だが、俺達は、それとは関係なく街を探索しよう」

 

 一方、トトワ側の宿舎では、リュカが意気揚々とゼラの部屋の扉の前に立っていたのであった。

 ゼラは目をこすり、「ああ、ついにですか」と言った。

 兼ねてより、約束していた「視察」である。


「ま、視察といって過言ではない」

 

 リュカは胸を張っていった。


「観光でもある」

「探索じゃねえんですか」

「探索でもある」

 

 ゼラとリュカの2人は宿舎から街へ飛び出した。

 ぱっと見兄妹にも見える2人は、石畳の上を歩き出す。


「こうやって街中に石が並べられている。我が国では考えられんことだ」

「でも、雨の日は滑りそうです」

「確かに、それは厄介な問題だな」

 

 2人は、橋に近づいた。


「見ろ。橋の側面に黄金の装飾がしてある」

 

 リュカは指差す。

 白い石造りの橋に、黄金であしらえたレリーフが豪奢であった。


「綺麗ですねえ」

 

 リュカは頷いた。


「ああ、橋まで芸術に溢れている」

「でも、シン橋の方が、賑わってますね」

 

 ゼラは祖国の都を思い起こした。


「いちいち水を差すんじゃない」

 

 リュカは微笑んだ。


「すまねえです」

「次は、俺がどうしても見たかった所なんだ」


 しばらく歩いて、目的地は見えてきた。

 巨大な門がそびえる立ち、威容を見せ付けていた。

 巨大な道がそれを貫き、人々や馬車が行きかっている。

 門自体も、彫刻が多く施され、見事であった。


「サパン語に直すと、凱歌の門といったところかな。時の皇帝が、戦勝祝いに作らせたそうだ。」

「へえ」

「でも、皇帝が生きている内は完成させられなくて、死後に何年も経ってようやく完成したそうだよ」

「そうだすか」

 

 ゼラは見入っていた。


「昔は、この国にも君主がいたんですね」

「そうだ。今はいなくなってしまったがな。つい最近のことだ。トトワを支援してくれていたのに。皇帝が失脚してから、この国ではカツマの勢力が跋扈し始めた」

「そうやったんだすね。今は、共和国っつうんでしたっけ」

「そうだ、このカナリスという国は、王政が復活しては失脚を幾度か繰り返して、共和制に落ち着いたそうだ。それが860年だもんなあ……。ほんの7年前さ」

「そうだすか」

 

 2人は、不吉な会話をしてしまった事に気づき、気を滅入らせた。


「気を取り直して、次行こう」

 

 公園を散策したり、川に佇み行きかう船を見たりした。


「おい、見ろよ。あの船も魔動の力で動いてるんだ」

 

 ゼラは頷いた。


「どこもかしこもですねえ」

「法術は、お前みたいに生まれついての物が無いと使えないが、魔動なら、学べば誰だって使えるようになる。俺も学ばないとな」


 ゼラは唸った。

 自分が祖国で習ったものはどうなってしまうのか、とふと思ったのだ。


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