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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第1章 パラス編
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禅譲

 トトワ暦269年4月30日、トトワ国王トトワ・サルプが政権を明け渡した。これにより、270年あまり続いたトトワ王朝は幕を閉じたのである。

 との報道がカナリスにあるトトワ陣営やカツマ陣営にもたらされたのが、讃暦にて6月30日、トトワ暦でいえば5月26日の事である。

 あまりに突然の情勢変化に、サパン本国からの知らせよりもカナリスの報道で知る事となった。

 故に、事実確認が急務であった。

 リュカは慌ててゼラを迎えに着たのである。


「誰に!?」

 

 ゼラは叫んだ。

 サーマも言う。


「誰にですか」

 

 リュカはサーマに冷笑的な表情を向けた。


「カツマ藩主シミツ・ネルアだよ」

「え」

 

 サーマが思わず後ずさりする。

 その名は、彼女の属するカツマ藩の、藩主の名であった。


「ぜ、禅譲……まさか」

 

 サーマは口元に手をやり、愕然とした。

 ゼラは憮然としてリュカに言う。


「禅譲って何ですか!?なして禅譲ですか!?」

「俺にも分からん、とりあえず急いで戻れ」

 

 リュカも気が動転しているらしく声が上ずっている。

 ゼラが横のサーマを見た。

 リュカが言う。


「エルトンさん、ゼラがお世話になりました。ですが、どうか今回はお帰り下さい」

 

 深刻な表情であった。


「あ、あ……」

 

 サーマはがくがく震えて、2人を交互に見た。

 そして俯いて「分かりもした」と小さく言った。


「サーマ」

 

 ゼラが言った。


「これからは、互いの道を行くだけだ。また会おうな」

 

 サーマは涙を拭いて頷いた。


「ええ、また」

 

 ゼラとサーマは一家に挨拶をして足早に去っていった。

 その時の様子をエマが後に語っている。


「2人は丁重に挨拶していきました。またいつかここに来ると、約束してくれたのですが、わたしは別れ難く、2人が去ってから泣いた覚えがあります」

 

 

 ゼラはリュカと共に走った。

 猛速力でトトワ陣営が拠地とするホテルに辿り着き、階段を駆け上がっていく。

 リュカはぜえはあ息をし、遅れて着いた。


「お前、速いぞ」

 

 ゼラがくるっとリュカを振り返った。


「今は時が惜しい。気が早まっちまって」 

 

 リュカは息を整えながら頷く。


「ああ、これから我等はどうなるのだ?」

 

 2人はタムの執務室に入った。

 するとそこには、留学生、カルプ王太子弟の御付きの者達、などトトワ陣営の全ての人間が集っていた。皆、一応に深刻な表情を浮かべ、部屋の中は沈鬱な空気に包まれていた。

 タムは顔をしかめ、腕を組み、入ってきたゼラとリュカの2人をちらりと見た。


「聞いたか」

 

 ゼラは頷いた。


「何が何だか、さっぱり分からねえです。なして禅譲なんて」

「わしにも分からん!」

 

 タムは怒鳴った。


「これからどうするんです」

「我等は何を」

「本国から何か連絡は?」

「国に帰るのですか」

 

 部屋の者達は一斉にタムに詰め寄った。

 タムは苛立たしげに「それが、何の連絡もなかった。今カナリス国政府に確認を取っておるところじゃ。だが、帰り支度はしておけ」

 と言い、立ち上がって窓の外を眺めやった。


「カツマの連中は今頃、勝ち誇っていることじゃろうて……」

 

 部屋に集まった者達は、項垂れた。

 そして、おのおの不安を口にし出し、部屋の中は陰気なこそこそ話に終始するようになった。

 ゼラも同様に、気が沈む思いだったが、ふと気になる事があった。


「なしてだ」

「どうした」

 

 とリュカ。


「なして、サーマは喜んでなかっただか?」

「ん?」とリュカ。こんな時に何を言うのか、といった声色である。

「カツマの殿様が、国王になれたというに。カツマが天下を取ったのに」

「…思うにだな」

 

 リュカは囁いた。


「いや、俺とお前も、そしてそのサーマという娘も同じ思いかもしれん。結局のところ、カツマがやった事は、トトワに取って代わって王になる事だった。これじゃ、何の意味がある。ふざけるんじゃねえ。何が新時代だ」

 

 彼は感情を露にして吐き捨てた。


(共和国です)

(そう、この国は大統領が治めています。民衆から選挙で選ばれた大統領が、国政を担う)

(わたしは、サパンをそんな国にしたいと思っています。世襲によってではなく、その資格ありと見なされた人間が治める国が共和国なんです)

 

 ゼラはサーマが嬉々として語っていた事を思い出した。話し相手がトトワの人間だというのに、目を輝かせていたものだ。


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