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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第4章 新時代陰影編
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陰謀

 サーマがカツマにてゴーレム等の魔動兵器の研究を始めて10日と少しが経過した頃である。


「どげんかなりもすか?」

 ソトツという青年が訊いてきた。

 彼も、カツマで後詰かつ魔動兵器の研究を命じられており、私塾学校の生徒であった。

 サーマが書きとったゴーレムに施されている魔動陣を眺めていると、彼も覗き込んでくる。


「こいは複雑怪奇でごわんどなあ」


 ソトツが顔をしかめた。


「わたしも、熱が出そうで」


 サーマは苦笑した。

 ただ、サーマが慄然するのには、確かに魔動陣そのものは複雑怪奇であるが、起動方法自体はそう難しいものではないようなのだ。

 恐らくは、戦場での使用性を指向しての事であろう。


「しかし、少し不思議なところがあって」


 さらにサーマが言葉を続けると、


「はて、どげんところですか?」

「そいを確認する為に、爆発したゴーレムの破片を見たいのですが」


 すると、ソトツは神妙な表情を浮かべ、


「破棄しもした」


 と言った。


「破棄?」


 頷くソトツ。傍に近づいてきた別の生徒も、


「そういう話らしかです。あんな恐ろしいもんは目にも入れたくなかと」


 と言うのであった。彼は名をアラという青年で、彼も多少の魔動の知識があるので此処に残されている。


「これらも、同じゴーレムではありもはんか?」


 サーマの言葉に、アラは顔をしかめた。

 横たわるゴーレムの巨体を2人して眺めていると、アラが、


「発動させなければ心配はなかと聞いておりもす」

「どうすれば発動するかは御存知で?」


 アラは首を横に振った。


「途中まで自分も一緒に調べておりもしたが、魔動砲の方に回されて」


 ソトツも一緒に首を振る。


「同じく」


 サーマはさらに訊いた。


「……あの爆発が起こった時、間近にそれを目撃したのは誰でございもすか?」

「……確かハチバ殿の命で、動かそうという話になりもしたが……魔動の分かる者はおるかと聞いて回っておられもした」


 応えたのはアラであった。

 ハチバとは、ハチバ・ガンというカツマ軍の幹部の事である。


「ハチバ殿は爆発の時どこに?」


 ハチバは爆発の被害を受けていない。


「タイゴどんのところに行かれていたそうで。会合だったとか」


 ハチバは今従軍し、カツマの北にある。今頃政府軍と交戦の最中にあるかもしれなかった。


「ハチバ殿が不在の時に、動かそうとなったのでございもすか?」

「確かゴーレムの周囲にハチバ殿の部下の人達が集まっておいででした。その直後でした……」


 ソトツが応えた。


「お2人は爆発を目撃されもしたか?」


 首を振る2人。


「音に驚き外に飛び出すと黒煙が上がっておって……」


 アラが沈鬱な顔で言う。


「その瞬間をこの目で……」


 俯いて視線を下に向けるソトツ。


「そうでございもしたか……。わたしも畑にいましたが、そこまで轟音が届いて……」 


 サーマは今もあの惨状をはっきりと思いだす事が出来る。爆発は無差別に人や家を破壊したのである。正直言ってサーマには、その怒りで以て事を起こさんとする心情は理解できるし共感すら出来た。ただ実際に行動に移す事と、その相手が政府である必要性を感じなかった。

 サーマは話を変えた。意図して声も明るくして訊いた。


「破棄もハチバ殿が指示を?」

「いや、そいは分かりもはん……」


 首を振るアラ。


「少なくともハチバ殿は発動方法を御存知だったと?」

「そうでしょうな」


 ソトツが頷いた。


「ソトツ殿やアラ殿はお呼びは掛からなかったと?」

「探してみもんそ」


 とサーマが言うと、


「どこに破棄したかは誰も知らぬという話で……もう跡形も無いかと」


 とソトツ。


「だから探しもす。少しでも破片が残っていれば調べようがありもす。気になる事があるので」


 サーマは微笑んだ。


「ゴーレムの動かし方は大体分かってきたのですが、するとあの爆発には妙なところが……」


 ソトツもアラも驚いた様子だった。



 サーマは私塾学校へ向かい、カツマに後詰となっている生徒らに訊いて回った。やはり破棄は秘密裏に行われたらしく、ほとんどの者は知らなかったが、トムラという少年が、


「夜中に見た」


 と言う。

 蜂起を前によく眠れず、気分を変えようと夜風に当たっていたところだったという。倉庫のある方角から、何台もの荷車を連れた兵士達が歩いてきたという。直感的にそれは見てはならないものだと判断し慌てて物陰に隠れたという。


「どこへ?」

「学校の方へ向かったと思いもす」


 トムラはサーマと視線を合わせずに俯きながら応える。


「ありがとさげもす」


 サーマは一礼してお礼を言うと、トムラは戸惑ったように頭を下げてきた。

 彼はサーマよりだいぶ年下で、年の頃は13,4くらいであろうか。彼の様な若年が多く今回の戦争に参加している。

 先のトトワ王朝もしくはその残存勢力と新政府軍の戦いでも、年若い少年達が戦う場面があったという。

 何とも言えない空しさがサーマを襲った。

 学校の敷地内でサーマは歩き回った。すると、裏手の方にあった。

 土を最近掘り起こした後があったのだ。


(あった……)


 翌日にでも、応援を頼むか魔動で掘り返してみよう、と考えていたその時であった。

 振り返ったところに、ソトツがゾッとするくらい険しい表情で立っていた。

 その目や全身から漲るものに明らかに殺気を見て取って、サーマは身構えた。


「ほう、やっぱい、気づいておりもしたか」


 ソトツが口角を吊り上げ、陰惨な笑みを浮かべた。


「いえ、誰か手の者はおるだろうと思うておりもしたが、ソトツ殿だとは確信はありもはんでした」


 サーマは苦笑を浮かべたが、どこか不敵さと怒りの入り混じったものであった。

 確かに、探す、と言った時、半ば鎌をかけてはいた。いずれ手の者からの妨害があるかもしれぬと思ってはいたが、実際目の前に現れると平静ではいられない。

 最初それに気づいた時、慄然としたし怒りにも震えた。

 まさか。という思いもあったのだ。しかし、確証へと変わったのだ。


「爆発を起こさせたのは、おはんじゃったか」

「……そいば調べさせる訳にはいかんとじゃ。おはんは良い人じゃが、ここで死んでもらう」


 ソトツの両腕に轟々と法力の渦が纏わりついた。


 サーマはふっと笑った。しかし、すぐにその表情は険しいものとなった。


「ゴーレムの魔動陣には、発動方法を間違えても爆発する仕組みなど無かった。そして誰が発動させても、方法さえ分かっておれば何事も無く起動する仕組みじゃった。つまり、誰かが遠くから操作でもしなければ爆発などせん!」


 サーマは鋭い口調で相手に叩きつけた。

 


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