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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第4章 新時代陰影編
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コママト城攻撃

「頼みもす」


 サーマは伝令役を担う私塾学校の生徒に手紙を託した。

 手紙は2通。1通はカツマ軍総大将の側近キルマ。もう1通はゼラ宛にである。

 キルマ宛は、魔動砲やゴーレムに関しての調査結果の報告である。特にゴーレムの特性と弱点と思しきものを今分かる範囲で報せるものである。

 もう一通のゼラ宛には、ミンブリン製ゴーレムがゼラへの報復の為に作られたといって過言ではない旨を書いた。もしかするとゼラ自体に反応し襲い来る恐れがある。だから用心して欲しい。と。


「赤髪の娘ですから、すぐ分かると思いもす。どうか」


 サーマは心の底から頼んだ。


「分かりもした。必ず届けもす」


 彼はカイヤマという青年で、線が細いところがあるせいなのか、後詰としてカツマにいた。

 いや、キルマから伝令役を任されるくらいであるから、逆に信頼されているのであろう。

 彼は誠実そうに頷いて、馬で走り去っていった。

 本当なら、自分が出向きかった。

 しかし、キルマからはカツマに控えるよう厳命されていた。

 政府軍が海からカツマを直接攻めて来た場合、魔動兵器に詳しいサーマが居るのは意味があるからだ。

 カツマ本軍には加えなかったところが、複雑な事情が見て取れた。魔動師への反感と魔動兵器とこれから対峙せざるを得ない状況、諸々の要因でカツマの倉庫の魔動兵器の調査がサーマにおあつらえ向きの役目だったのである。

相も変わらず、こういう扱いである。

 サーマは、これまでほとんどが厄介者として扱われてきた。ミラナ王女の教育係として城に上がった時も、ヤイヅ戦争の時も、魔動省に入ってからも。

 男として生まれていれば。幼い頃周囲から散々言われた言葉であった。

 男として生まれていれば、また違っただろうか。もっと新時代の為に尽くせる位置に居たであろうか?

 何を今更。ないものねだりをしてもしょうがない。自分は自分だ。

 あの、誇り高く生きる友人の姿を思い浮かべた。

 彼女に笑われてしまうに違いない。

 サーマは苦笑した。

 厄介者と扱われたとしても、彼らの立場からすれば分からなくもないし、自分はこれまで、置かれた立場で出来得る事をやってきたつもりだ。その自負はあるのだ。

 それから、これまで自分を慈しんでくれた人々の姿を思い浮かべた。

 父と婚約者コノリ。そしてサーマ。大切な人々が今遠い戦場にいる。

 出来る事と言えば、彼らの無事を祈る事だけであった。



 一方、コママト城包囲戦の最中のゼラは他の兵士らと共に土嚢の影にいた。

 土嚢造りをしばらくさせられ、法術を散々活用したが、大して感謝はされなかった。

 やはり、余所者であってカツマの者でないゼラには他の兵士達は壁を作っていた。


(まあ、それでもいいが)


 コママト城の周囲に多くの土嚢が作られ、時折そこからカツマ兵士が飛び出し突撃を行っていた。

 開戦初日の5日にカツマ軍の部隊がまず支城の1つに向かって攻撃を仕掛け、砲撃をかわしながら城門をまず突破したかと思いきやしばらくして退却してきた。城側の猛反撃にあったらしい。

 幾度かと突撃がかけられたが、いずれも撤退してきている。

 コママト城周囲には複数の支城があり、急ごしらえとはいえ土塀も多数造られていた。あたかも城下町が要塞と化したかの如くであった。さらにコママト本城には巨大な堀がある。

 6日、カツマの法術師部隊が出撃した。ゼラにはお呼びはかからなかったらしい。魔動砲による攻撃を法術でよけ防ぎつつ、城に肉薄せんとした。しかし、慌てて退却してきた。数を半分程に減らして、法術師達は慌てふためいて陣に戻った。


「何があった」


 指揮官から叱責が飛んだ。

 法術師達曰く、法術封じがあちこちに仕掛けられているとの事であった。法力を突如失い恐慌状態に陥った法術師部隊はなすすべなく敵の集中砲火に遭ったという。

 法術封じがある。

 それは瞬く間に兵士の間で広まった。

 待機を命じられていたゼラの耳に届くのは当然であった。


「法術師は決して多くねえから、痛手だな」


 淡々とした口調に、横の兵士が声を荒げる。


「おはんも法術師じゃろうが、他人事のように」


 ゼラはその者に視線を向け、


「他人事だとは思ってねえよ。ただ、焦っても意味ねえだけだ」


 とだけ応えた。

 焦ったのはカツマ軍本営だった。

 このまま包囲戦を全軍上げて続けるより、軍を分け、北上する軍とこのまま包囲を続ける軍とに分けるべきだとの意見が俄かに生まれ、急遽軍議が開かれた。

 ただ無為に城を包囲して疲弊するよりも、北上し強襲を仕掛け政府軍の出鼻を挫くと同時に重要拠点を占拠すべきだというのがその意見の骨子であった。しかし、反対意見もあって軍議の場は紛糾した。コママト城の陥落を優先すべき、コママト城は必ず落城させるべき、と唱える者も多かったのである。

 結果、北上軍と包囲軍が分けられる事となった。ゼラに北上軍側に加われと命が下ったのは7日早朝である。


「おはんは北上するとじゃ。ムネルどんとコノリどんはコママト攻めに残る」

「……それは困りやす」


 タウラという指揮官の命にさすがにゼラは抗弁した。

 サーマとの約束を果たせなくなる。彼女の父と婚約者を守ると誓ったのだ。この城攻めで死なない保証がない。


「こいは命令じゃ。破るのは許されん」


 タウラが首を振り、居丈高に、


「逆らえば、おはんの知り合いも恥ずかしか思いをするじゃろう!」


 と痛罵した。

 すると、ムネルがゼラの肩を叩き、


「ゼラどん、わしらはこいでよか」


 と柔和な微笑みを浮かべた。


「わしらを守らんとしてくれとるようじゃが、わしらはここに居る方が安全じゃと思う。この様子だと包囲戦は長い戦いになる。兵糧責めになるじゃろう。対して北上軍は増援に来た政府軍とやり合う羽目になる。むしろ、わしこそおはんをここに留めたいくらいじゃ」

 

 寂しげな表情になって語るムネルであった。

 戦況を把握し、趨勢も予想し得る。やはりサーマの父親である。ゼラはそう確信した。

 一見うだつの上がらない体でいて、非常に理性と見識と良識に富んでいる。


「ゼラは我々と共に北上する」


 タウラがムネルに向かって言った。


「分かっておりもす。御武運を」


 ムネルは一礼した。

 コノリも一緒になって頭を下げ、顔を上げるや否や、神妙な表情で、


「ゼラどん。おい達はカツマ男子でございもす。カツマの為サパン国の為死ぬるは本望と思うちょりもす。じゃっどんゼラどんは違いもす。巻き込まれただけ」


 ここまで言われれば、彼らの意思を尊重する外ない。

 ゼラは頷いた。


「そうかもしれねえな」

「ですから、いざとなれば……」

「おっと、それ以上言うな。横の指揮官殿が立腹なさるかもしれねえ」


 とタウラをちらと見ると、彼は少し気分を害したように顔をしかめている。


 北上軍が進発を間近に迎えていた時、北のヒカタという港町に政府軍の増援は続々と到着し既に南下を開始していた。

 政府軍の軍勢がヒカタから進発し始めたのは、新サパン暦7年11月6日の夜半の事である。


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