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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第4章 新時代陰影編
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面白いもの

ゼラは床の上に座りながら、友人の両親の話を聞いた。


「部屋屋が1つありもしたな、そいをゼラさんに」

と母が言えば、


「そいがよか。誰も使っちょらんし、丁度よか!」

 

 父が頷く。


「タイゴさんに前1度サーマの友人について話した事がある。会ってみたいとも仰せじゃった!」

「ちょっと待ってくだせえ」


 ゼラが手を軽く上げる。


「話が勝手に進んでいるみたいですが」

「よかよか、こちらに任せてくいやい」


 父ムネルはにこやかに言った。


「おらは……」


 ゼラが閉口して、しばし絶句した後に、言葉を続けようと再び口を開こうとしたその時、屋敷の主が帰って来た。


「おお、サーマ殿、今大事な話をして居ったのですよ」


 母サウがサーマを手招きする。

 話を聞いたサーマも絶句するのであった。


「わ、わたしは別に構いもはんが……」


 サーマが目配せして、ゼラが小さく頷く。


「少し考えさせて下せえ」

「父上母上、ゼラにもアカドでの生活がありもすし、ここはしばらく時間をくいやい」


 2人が去った後、部屋に残ったゼラとサーマは声を抑えて話し始めた。


「タイゴってどこかで聞いた名だぞ」

「タイゴ殿はセアクボ卿と並ぶカツマ藩の重鎮かつ、政府の要人だった」

「だった?」

「そう、先の政変で下野された。大きな事件だったと思うが……」

「ああ、何か騒いでたな。店に来る客も話してた気がする」


 ゼラは顎を擦った。


「あまり興味ねえんで、聞き流してた」

「……つまり、政府内の争いで敗れたといってよか。ただ、タイゴ殿の事だから心配はいらんと思うが……」


 サーマはさらに身を乗り出し、声を潜めた。


「あと、確かこれは話したと思うが、実はわたしは、タイゴ殿から命を受けた事が有る。おはんを捜索しろという密命じゃった。丁度、政府軍とヤイヅ藩軍の戦いも落ち着いてきた頃じゃ」

「ああ、そうだったな」


 ゼラは少し顔をしかめた。


「何故タイゴ殿がそうお命じになったかは分からん。ただ、おはんのその……」


 サーマが顎をくいってやると、ゼラが自らの髪を触り、目を指差した。


「これか」

「おはんがナーブ王の血筋かもしれぬと言っていた。事実そうだった訳だが」

「まだそうと決まった訳じゃねえよ」


 腕を組むゼラ。


「あいつがそう言ってただけだ」


 ゼラとサーマは、かつて死闘を繰り広げた赤髪青目の男を思い出していた。今思い出しても、背筋に慄然としたものが走る程の恐ろしい男だった。ゼラを同じナーブ王の血族と呼び、彼女と子を為し、ナーブ王の再来を誕生せしめんとした男。

 サーマなどは思わず身震いしたが、ゼラなどは吐き捨てるだけの余裕はあった。


「おらをそう呼ぶ奴はこれまでもいたよ……あ、ああ思い出した!タイゴといえば!」


 ゼラは膝を打った。

 そして次の瞬間には、笑みを顔に刷いていた。


「やっと思い出した。ヤイヅでそのタイゴ殿にお目に掛かった事があるぞ」


 ゼラの口調は皮肉気だった。


「恰幅の良いお人だったな。なかなかの法術使いでおらも逃げる事にしたんだった」

「ゼラ、タイゴ殿と一線交えたとか!」


 サーマが思わず身を乗り出し声を荒げると、ゼラが人差し指が口の前で伸ばされていた。


「あっ……すまん」

「ぬしが静かにしないでなじょする……」


 顔をしかめ、しかしすぐにニカっと笑って、


「それでおらに興味を持ったという訳だな」

「そうかもしれん。ただ、タイゴ殿はゼラをどうこうしようという気はあったとは思えん。少なくとも害するつもりは無かったと思うとる。今もそれは変わらんと思う」


 サーマは頷いた。

 ゼラは腕を組んだまま、


「いや、あれは場合によっちゃ殺すのに躊躇しない男だ」

「……それは確かに、タイゴ殿は清濁併せ呑むお方。トトワ王朝打倒の際も、硬軟策を使い分けたときく。わたしも相対して、気圧されたり背筋が冷えたりするところがあった。タイゴ殿自身は泰然としとるだけなのに……」


 サーマは少し怯えも見せつつ言った。


「ふうん」 


 ゼラが天井を見上げた。

 しばし見上げたまま、じっとしていたが、やがて含み笑いを浮かべ、それが快活な笑い声に変わった時、サーマは唇を噛み締め目を見開いていた。


「ゼラ……」

「逃げ回る生活が待っているかと、やるせねえ気分だったが、なかなか面白いものに出会えそうだ」


 不敵さを口元に瞳に宿し、眼光をぎらつかせるゼラに、サーマが不安そうな表情を浮かべ、ふうと息をついた。


「おはんのそれが性分なら仕方なか……」

「なにしろ、向こうも会いたいそうだからな。ゴーレムの黒幕さんは居場所分からねえし、その分うっ憤晴らさせてくれるならいいんだが」

「…おはん、戦いに行く訳ではなかど」


 サーマが呆れたように言った。彼女はゼラにダウツの事は話していない。話せば即復讐に行くに決まっているからであった。

 それを知ってかしらずか、ゼラはニヤリとして言った。


「サーマはおらが政府とやり合うのは嫌なんだろ?なら、それ以外なら幾らでも自衛していいじゃねえか」

「……そっちから喧嘩は売らんという約束だな?」


 目を細め、疑わし気な視線を送るサーマ。


「ああ。でもカツマの文化は知らねえから、知らず喧嘩を売っちまう場合もあるかもな」


 ゼラがおどけて、今度こそ睨み付けられる事となったのであった。


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