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松の木は残った  作者: おしどりカラス
第1章 パラス編
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脱出

 男達は井戸の部屋へ突入した。

 暗がりでよく見えぬが、数人倒れているようだ。

 見張り達がやられている!

 一気に緊張が彼らの間を走り、魔動陣の書かれた紙や杖を構え、きょろきょろと部屋を見渡す。

 だが、誰もいなかった。

 井戸を覗く。

 ランプで灯してみると、底には人影はなかった。あるのは、無骨で冷たい地面だけであった。


「逃げられた!」

「まだ、近くにいるはずだ!探せ!」

 

 男達は部屋を飛び出していった。



 

 天井近くの窓際に立つ人影があった。

 その窓は恐らく換気の為にあるのだろう、部屋に1つしかない高い窓で、窓のわずかな縁にゼラとサーマは立っていた。いや、足をかけていたというのが正しい。

 壁に手をつき、法力で身体を支えているのだ。


「うまくいった」

 

 ゼラはまるで悪戯っ子のように楽しげですらあった。

 サーマは片手に少女を抱え、ほっと息をついた。

 少女も囁きながら嬉しそうに言った。


「なんだか、わくわくするね」

「え!?え、ええ」

 

 サーマは戸惑いながら応える。


「何と言うとる」とゼラ。

 サーマが説明してやると、


「ああ、かくれ遊びみてえだ」

 

 ゼラが笑った。


「……かくれもじょ、の事?」

 

 サーマが首を傾げた。


「なんだ、それ。カツマではそう言うんか」

 

 ゼラがまた笑う。

 サーマは頬を膨らますが、ゼラがそっと窓を開け、外の様子を伺うのを「誰かおるか?」と問いかける。

 ゼラは首を振った。


「誰もいねえ。……今だな。その子大丈夫か?」

「ええ、大丈夫。むしろわたしより元気でごわんど」

 

 サーマは少女に囁く。


「今から、飛び降りるから。大丈夫、安心して」

 

 少女は頷く。

 ゼラが先に飛び降りた。

 サーマもそれに続く。

 男達の怒鳴り声が入り乱れ、ランプの明かりが乱舞している。

 2人は物陰に隠れながら走った。

 だが、そう甘くはなかったようだ。


「いたぞ!」

 

 男達の怒声が響いた。

 ゼラは手をかざし、サーマは杖を男達に向けた。

 男達を倒し、身を隠しながら、進む。

 魔動銃にさらされながら、2人は中庭を突っ切った。

 背後で、魔動銃の空気を切る音が聞こえる。

 度々振り返り、木陰に隠れながら、ゼラは法術で、サーマは魔動で応戦した。

 身を隠した木が粉砕されるのを幾度か経験して、2人は塀に差し掛かった。

 ゼラが先に塀の上に飛び乗り、サーマが続く。急いで杖を懐にしまい、ゼラが差し出した手を空いた方の手でぐっと掴み、塀の上に乗った。

 2人は即座に飛び降りた。

 まだ走る。

 しかし、サーマが遅れ始めた。

 少女を片手に抱え、魔動を使っての戦闘、そのうえ全速力で走り続ける。極限状態といってよかった。

 見かねたゼラが「おらに任せろ」

 と少女を背中に背負った。

 路地裏の暗がりの中、照らすものは月のみであった。

 サーマはぜえぜえと息をする。


「走るぞ」

 

 ゼラはサーマを一瞥する。


「追っ手の気配はまだする。こちらの居場所に気づいているかは分からねえが」

「…け、気配……?」

 

 息も絶え絶えのサーマが呟くように言った。

 しばし走った。


「ここがどこか分かるか?」

 

 走りながらゼラが言った。

「いえ、分からん」

 

 サーマは応える。


「見たことの無い町並みじゃ。多分パラスのどこかと思う……」

 

 もはや明かりは道を照らす街灯のみで、人家は暗闇に溶け込んでいた。


「目印の建物があれば……」

 

 サーマは見回す。


「あ!」

 

 サーマが声を上ずらせて、指差した。

 その先にはレンガ造りの建物があった。

 両開きのドアの上に看板が薄っすら見えた。カナリス文字が書かれている。


「ポリスじゃ!助かった!」

 

 サーマはゼラと少女を見て、「保護してもらおう!」

 ゼラは一瞬逡巡して頷いた。

 

 

 その建物のドアを叩くと、3人の前に腹の突き出たポリスが現れた。

 サーマが事情を説明すると、ポリスは彼女達を中に案内した。


「よかった、これで助かった……」

 

 サーマは息をつき、膝から崩れ落ちた。

 ゼラが少女を降ろし、頭を撫でてやる。


「怖かったな。でも、もう大丈夫だ」

 

 少女には無論言葉は通じていない。

 しかし、安息の時はすぐに終わった。

 突然、数人のポリスが現れ、彼らを取り囲んだ。

 そして、ゼラの手を掴んだのだ。


「何すんだ!?」 

 

 ゼラがぎろっと睨みつける。


「ゼラ、駄目、相手はポリスじゃ」

 

 サーマが必死にでポリス達に訴えた。


「何故彼女を!?」

「この娘が誘拐犯だと、上から報告が届いているのです」

「そんな!?」


 サーマは息を飲んだ。


「彼女は、誘拐犯ではありません。共に誘拐されていたんです」

 

 彼らは戸惑いを隠せないようだった。

 確かに、この赤髪の娘は、被害者の1人とされていた少女を背負って駆け込んできたのだ。


「あなたを信じましょう。とりあえずここにいなさい」

 

 ポリスの1人がそう言った。


「ありがとう、感謝します」

  


「どういう事だ」

 

 ゼラが静かに言った。

 待合室の長椅子に並んで3人は座っていた。


「何故、おらが犯人って事になってる?」

 

 サーマは深刻な表情で俯いている。


「おはんは利用されたとじゃ。おはんが誘拐犯となれば、トトワの使節団も政治的に危うくなる」

 

 彼女は大きく息を吐く。


「そのうえで、わたし達を始末し、おはんが、わたしとこのカナリスの少女を殺し、自害したと見せかけるつもりだったに違いなか」

「誰の企みだ」

「……。考えられるとすれば、ミンブリン伯爵……」

 

 サーマはカツマを援助する青年伯爵の名をぽつりと呟いた。


「そいつか」

 

 ゼラが吐き捨てる様に言った。


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