最終話(エピローグ):世界を超えて
「良かったのかい? これで」
空間神が問い掛ける。
「構わないわよ。それに、私はそっちのことをよく知らないし、第一、そっちにはそっちのことに詳しい専門家が居るでしょ」
それを聞いて、空間神が溜め息を吐く。
「やれやれ。お互い大変だよね。『次元』なんてものを見ていると」
「貴方たちよりは、比較的に楽な方だとは思うけどね」
くすくすと笑う相手に、やれやれと言いたげにする空間神。
「まあ、私たちのやったことを、見て見ぬ振りをしてくれた礼をしに来ただけですから」
「見て見ぬ振りはしてないさ。ただ、今でも『彼』はやりすぎたとは思うけどね」
その時のことを思い出したのか、空間神は目を細める。
「リリーちゃんは元気?」
「はい。今は私に代替わりしましたから、解放されたかのように伸び伸びとしてますよ」
「そっか」
『リリーちゃん』と呼ばれた女性について尋ねた空間神に、相手も最近の彼女について思い出す。
「次元に異変は、ほとんど無かったんだっけ」
「私たち側への影響は軽微でしたが、そっちは違いますよね? 一つの世界の住人が、貴方たちを利用してまで、他の世界を乗っ取るために世界を超えて接触するなんて……この結果は『境界の守護者』のお陰ですかね?」
「あー、そっか。そっちじゃ、『境界の守護者』って言うんだっけ」
「『空間神の神子』なんて、表立って言えと? 少なくとも、私たち側では言えませんよ。『境界の守護者』って名前だけで、いざとなれば私の管理下の者だとでも言って、誤魔化すつもりではいますけど」
そもそも、相手の居た世界では、『空間神』という存在はいないため、『境界の守護者』と言い換えている。
「それに、さっきも言いましたよね。そっちにはそっちの専門家が居るって。こちらの世界が私の関わる専門範囲だとすれば、彼女の関わる専門範囲はそちらの世界。上手く言えませんが、言いたいことは分かりますよね?」
「まあね。統括し統轄する。そういうことでしょ?」
相手は笑みを浮かべる。
「それでは、そろそろ戻ることにします。偉そうな言い方をして、申し訳ありませんでした」
「んー、気にしなくていいよ。それより、また話し相手になってよ。長い時を生きてると、特に神ともなれば、退屈してきちゃうからさ」
「そうですね。けれど、あまりこちらへ来すぎると旦那様に妬かれかねないので、そんなに来ることは出来ないと思いますよ」
「そりゃ、残念」
背を向けた相手に対し、そう言う空間神だが、全然、残念そうには見えない。
「じゃあ、空間神様。また」
「うん、またねーー『次元の魔女』さん」
ふわりと黒混じりの紺色の髪が舞うのを見ながら、空間神はそう返す。
それを聞き、彼女はふっと笑みを浮かべると、今度こそこの場から去っていった。