表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

プロローグ


プロローグですが、同作者の作品のネタバレのようなシーンがあります。ご注意ください。




「はっ……はっ……」


 黒髪の女性は走っていた。


「誰かっ、助けてっ」


 けれど、今いる場所に助けが来ないことも知っていた。


「ーーっつ!」


 次の瞬間、彼女は息を飲んだ。


「逃げられると思ったか」

「ですが、誰しも最初は逃げたしたくもなります。まあ、さすがにおいそれと逃がすつもりもありませんが」


 前後を塞がれ、女性は舌打ちした。

 これでは帰ろうにも帰れないではないか。


「我らにその身を捧げよ」

「我らにその身を捧げよ!」


 一種の宗教的な恐怖を感じさせるような雰囲気に(教会だから間違ってはいないのだが)、女性は思わず退いた。


(どうするどうするどうする)


 単なる調査に来ただけなのに、どうしてこうなったのか。

 けれど、女性が抱いたその疑問に答えられる人物は、今この場にはいなかった。


   ☆★☆   


 時空管理局・とある部屋。


「マズいねぇ」

「マズいな」


 彼女の様子を見ていた二人は言う。

 さすがに、これ以上はマズいと思い、彼女に行かせたのだが、まさかこのような暴挙に出てくるとは予想外といえば予想外だ。


「あいつら、僕らの愛し子に何するつもりなんだろうねぇ」


 しかも、手を出した彼女は、自分たちだけではなく、時空管理局のお偉いさんたちにも信頼されている。


「愛し子は言い過ぎだ」


 可愛がっているのは否定しないが、愛し子は聞く人が聞けば、勘違いしかねない。

 だが、それでも空間神の神子(・・・・・・)となった彼女を生贄にされては、大問題である。


 ーーいや、だからこそ、選んだのか。時空神(自分たち)を喚び出すために。


「えー……でも、彼女たち(・・・・)は僕たちが護らないといけないんだよー?」


 神子を人質にされて、あっさりと出て行くつもりは毛頭無いが、とはいえこれ以上、あの者たちの犠牲者を増やすわけには行かない。


「その言い方はやめろ。しかし、やっぱり送らないといけないのか」


 どうすれば、この負の連鎖は止まるのだろうか。

 彼女なら少しばかり遅らせられるとでも思っていたのだが、あの世界の神たちは本当に何をやっているのだろうか。


「また、戦いとは無縁の者たちを……」

「うん、そのことなんだけどさ」


 自分たちの問題に、無関係な者は巻き込みたくないため、顔を顰める相棒に、こっち見てと言って、水晶を向ける。


「わざわざ召喚しなくても、うってつけの()がいるよ」


 そこに映っているのは、やや急ぎ足で歩いている女性。


「ああ、彼女か。だが……」

「うん、彼女にとっては、思い出したくもないことなんだろうけど……」


 二人は悲しそうな顔をする。

 彼女と初めて会ったとき、彼女は精神的にも肉体的にもぼろぼろだった。

 思わず助けたのは、自分たちが見ていられなかったからだ。

 今では平気そうな彼女だが、それは表面だけで、今でも心の奥底では、どこか不安で仕方ないのだろう。

 それでも、彼女の仲間たちや後輩ーー空間神の神子である彼女を見ているときは、心から慈しんだりしているようなので、彼らと接しているときはあまり心配はしていないのだが。

 それでも、彼らが異世界人すらも利用し、生贄としたことには変わりない。


「っ、駄目元で彼女に頼んでみる?」

「そうして、トラウマより後輩を選択したらどうすんだよ。闇堕ちエンドなんて、笑えねぇよ」


 二人が思い浮かべるのは、最悪の結果。

 だが、どちらにしろ決めるのは彼女なのだから、自分たちは口出しできない。


「さて、どうすんだろうね。彼女は」


 おそらく、そんなに時間はない。

 二人は本当に、見守るしかないのだ。





 足音を響かせながら、薙沙芹奈(なぎさ せりな)はやや急ぎ足で廊下を進んでいく。


「……っ、」


 一瞬苦悶に歪められた表情も、すぐに元の表情に戻る。


「芹奈」


 呼び止められて、芹奈の足が止まる。

 声の主を一瞥し、芹奈は告げる。


「あいつら、性懲りもなく、ついに調査していた結理(ゆうり)ちゃんにまで手を出したみたい」

「みたいだな。結城(ゆうき)の奴がイライラしていた」


 自分たちの後輩の近況を話す。

 何だかんだで連絡だけはする双子の妹が、連絡も無しに戻ってこないので、心配なのだろう。


「行くつもりか」

「このまま、後輩が見殺しにされるのを、黙って見てろと?」


 ふざけんな、と芹奈は返す。


「そうじゃない。俺はお前のことを言ってるんだ」


 何せ、あの世界は芹奈にとって、トラウマ以外の何物でもない。

 そして、それを一番よく知るのは、芹奈自身でもある。


「それでも、私以上にあの世界に詳しい人はいないから」


 目の前にいる彼を除いては。


「だったら、俺も行く。一人よりはマシだろ」

「……ごめん」


 退く気がなさそうな彼ーー芦原要(あしはら かなめ)に謝罪すれば、芹奈は彼とともに時空神のいる部屋に向かった。


 あの世界との因縁に終わりを迎えるためにーー


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ