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申し訳ありません遅れました;><;

執筆ペースを守るって難しいですorz

ECOは初心者にやさしいMMOと言われている。

ポーションやら中級位までの装備品が安価で入手できるのも理由の一つではあるが、いわばチュートリアルが充実しており、かつそれで戦闘における必要最低限の熟練度が確保できる。

例えば戦闘でいうならばゲーム開始時の強制イベントで戦闘の手ほどきを受ける。そうすると身体強化とプレイヤーが選んだ武器の熟練度が上がる。

さらに街の周辺で狩れるMOBは碌に回避をせず体当たりを繰り返す動物系MOBで特に考えずとも最初の武技を習得することができる。

 加えて冒険者ギルドで討伐系クエストを受けて狩りをすればその分補正がかかり、パーティを組んでいるとそこにも補正がかかる。最大限効率を目指すなら6人パーティでギルドのクエストを受け、MOBを狩る形になるわけだ。

 酔狂なプレーヤーたちが検証したところ二人パーティで1パーセント、最大人数である6人パーティで3パーセントと微々たるものであるが、塵も積もれば何とやらで始まりの町周辺では辻パーティによる経験値稼ぎに邁進する連中も多い。


 その分報酬やら獲得素材は頭割りが基本なのでアイテムを欲するなら3人以下、経験値獲得やボス攻略のときには6人のフルパーティといった感じで組まれていく。

 ゲーム内でクエストを発注するNPC前やら人の集まる広場やらでもパーティ募集の呼びかけは行われているが、ネットに転がっている掲示板でも募集していたりする。

「すいません、アミリさんですか?」

 俺がイベント開始地点たる鍛冶ギルド前で声を掛けたのは、皮の軽装を纏ってるくせにやったらごつい大槌を装備したプレイヤーだ。

 ログイン前にざっと掲示板を回り、運よく"鍛冶"イベのパーティ募集の書き込みがあったので参加表明。ECOでは基本的にフレンドやパーティメンバーしかプレイヤー名は表示されないので掲示板で大雑把なアバターと装備の特徴を聞いてゲーム内で落ち合うというわけだ。


「はいはい、そっちはえーと、リュートさん?」


「あたりです。ECO初心者ですがよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくねー」


 アミリさんの話し方は軽いというか緩いというかやさしいお兄さんそのもので、装備が鍛冶師といわれてもなんの違和感もないのに、なんというか鍛冶師厳格なイメージに沿ぐわなかった。まぁ考えてみればあちらも現代に生きる日本人なわけで、物語に出てくるような頑固爺なんてそうそういるわけないのだが。


「いやー助かるよ。よそのゲームと比べてもECOじゃ生産職ってかなり根気がいるからね。経験値稼ごうって人もなかなかいないし、パーティ組んで効率化しようにも中々人が集まらないんだ」


どんなMMOにも生産職志望というのは一定数以上いるものらしいが、ECOで実際に生産職をを名乗るのにはいくつか高いハードルがある。

まず、街の住人――所謂NPCのことだ――から安価に供給される武具とポーションの存在がある。

 ポーション一つが10ドラグマ、スタンダードな長剣が500ドラグマで、ポーションの原料たる薬草は売却価格が8ドラグマ、長剣であるなら最低限必要な鉄鉱石八個の価値が480ドラグマとなっており、製品にしたところで原料と大して変わらので正直な話生産職のプレイヤーに割が合わないのだ。

 加えて鉱石やら薬草、木材といった生産活動に必要な素材がNPCから一切入手できない。

 要するに生産職の熟練度上げには自力で素材を取って来るか、他のプレイヤーから融通して貰うしかないのだが他のプレイヤーからすれば普通にNPCに売ったほうが色々手間が掛からない。

 仕方なく素材の採取に向かえば否応なく戦闘にも巻き込まれるわけで、そうすると生産系スキルよりも戦闘系スキルの方が熟練度が高くなる。

結果、元は生産職志望だった者たちで確固たる意志の持ち主以外は戦闘職へと移ろって行ったのだ。


「それにやっぱり設備の問題があるし」


熟練度稼ぎならそれほど準備も要らないが、本格的に作業しようものならそれなりの工房は必要になる。鍛冶なら炉や金床なんかが必要になるし、木工ならそれなりのスペースと各種工具の類、調薬だとすり鉢、乳棒、乾燥容器やら保存瓶、錬金術になると培養槽なんかも必要になってくる。


これらはプレイヤーホームとして住居を購入し、その上でそろえる必要があるので生産職たるには莫大な資金が必要ということだ。


1,000,000ドラグマ。


これが生産職になる為の必要最低資金といわれている。


「未だトッププレイヤーでも総資産が500kなんて言われてるからね。先は長いよ」


アミリさんのぼやきに俺も苦笑しか浮かばない。

 俺としては武器のメンテナンスが出来れば良いくらいにしかとらえていなかったが本気で生産職を目指すなら溜息程度では済まないだろう。

「そういえば今日は他にメンバーは居ないんですか?イベントの鉱石採集は人手が多ければ多いほど報酬が良さそうですけど」

その後も愚痴が続きそうだったので話題を逸らすべく周囲に目を向ける。掲示板で募集した際の集合時刻にはまだ幾らか猶予はあるが周りに俺とアミリさん以外のプレイヤーは皆無だ。

「いや、もう一人来るはず。ま、そいつは生産職志望じゃないんだけど「来ったぞ~」ね」

会話に割って入ってきたのはなんといか、巨人だった。

角ばった顔立ちに髪も角刈りにしてるので体育会系という言葉が目に浮かぶ。身長は2メートルはあるだろうか?厳めしい全身鎧を軽々と着こなし、背には主武装と思しきハルバートとタワーシールドが見える。

「おぉ、そいつが新顔か?よしよし、今度は逃げられないようにせんとな」

「……人聞きの悪い言い方をしないで下さいよ。それよりパーティ組むんですから自己紹介くらいしてください」

「お、わりーわりー。俺はジョン=スミス。装備をみりゃわかるだろうけど壁役だ」


それ、偽名の代名詞やん。


「……リュートです。一応前衛です」


突っ込むべきか悩んで慎み深く沈黙を守った。


「せっかくだから僕もしておこうか。生産職で槌使いのアミリだよ」


ずいぶん偏った構成だが別に攻略を目指すわけでもない。

招集者であるアミリをリーダーとしてパーティが組まれ鍛冶ギルドで鉱石採取と行きがけの駄賃的な意味合いで洞窟のゴブリン狩りのクエストを受ける。

 ECOにおいて依頼というのは主に三種類あり、基本的にいつでも受けられるのがクエスト、受注可能条件に時刻などの制限があるイベント、政府より発せられるミッションがある。

 ミッションに沿ってゲームを攻略するのが正道ではあるのだがそもそも第一のミッションの発生条件が"プレイ時間が24時間以上"で"NPCからクエストを5つ以上達成している"だ。今の俺にはあまり関係がない。

「はい、じゃあ出発前に最終確認。装備はオッケー、地図オッケー。ポーション、各種状態異常回復薬と抵抗薬、ついでにピッケルはオッケー?」


「大丈夫です」


「戦士につるはしは要らん」


「はーい、脳筋さんは空気を読もうねー。じゃ、出発~」


今回のクエストの目標である鉄鉱石の入手法は岩場や洞窟系ダンジョンでの採掘が主である。最寄りの採掘場まで二十分程で踏破し、アミリと並んでピッケルを振り上げる。


「や~、今回は楽だね」


「……でもいいのでしょうか?」


「いいんじゃない?本人もピッケルを振るうより楽しそうだし」


半ば機械的に採掘を続ける二人を尻目に、パーティメンバー最後の一人は嬉々としてもう一つのクエスト目標であるゴブリンを屠っていた。

「うらっほい、よらっほい、どっさっせーい、あっはっはっは」


………………………。

あのよくわからん掛け声に突っ込むべきなのだろうか?


「あれは病気だから。あいつあれでも攻略組の一人だけどボス戦でもあんな感じだっていうし」

「……攻略組の人がこんなところで油売ってて良いんですか?」

「ん、あー……まぁ、あいつにもメリットはあるからね。」

「メリットですか?」

「そ。あいつは僕に恩を売る。ぶっちゃけ生産職の技能を伸ばそうなんて輩は少数派だからね。今はまだそこまで問題になってないけど、そろそろアイテムの可搬制限が攻略に関わってきそうな気配もあるし」

アイテムの可搬制限とは同名のアイテムは十個までしか持てないという制限のことだ。ECOはMMOでは珍しく時間経過によるHPの自動回復が無いため攻略中のHP回復は回復魔法かアイテムのどちらかしかない。そこでパーティとは別にアイテムの運搬を請け負う生産職が同行したら?

 アイテムの補給をメインに、鍛冶師や木工職人ならば武器のメンテナンスが、調薬持ちなら現地調達が出来るし、場合によってはパ-ティメンバー外からの支援――所謂辻ヒール――による戦闘補助すら期待出来る。

 MMOにおいて継戦能力とは経験値効率と言っても過言ではない。

きっと恩を売られた分我がままを聞いたりするんだろう。

「調薬を持ってる人は引っ張りだこでしょうね」

通常のプレイヤーなら自前で準備できるのはポーションとその上位薬のハイポーションの計二十個までだが、調薬持ちがパーティに追随すればポーションとハイポ、そしてその材料を現地加工しておよそ通常の倍の回復系アイテムを持ち込むことも可能だ。

「あはは。うん、そうだね。このゲームってそういうところがよく出来てると思うよ。たぶん運び屋って形で有名になるプレイヤーもいるんじゃないかな?その分ハイエナとかも流行りそうだけど」


【≪採取≫の熟練度が上昇しました。】


「お」


「ん?どうしたんだい」


「採取が上がりました」


「なるほど、おめでとう」


「ありがとうございます」


 程なくして目標も鉄鉱石も集まった。二人掛かりで合計で三十個。二十個を納めればクエストクリアなので余りは三等分するはずだったのだが「戦士に石ころはいらん」とのことで俺とアミリさんで山分けすることに。

 今すぐ活用できるものではないが、街に戻れば倉庫屋のNPCに預けておける。これはプレイヤーなら誰でも無料で利用できるし、何時まででも預けることができるので当分は倉庫の肥やしになる予定だ。

「さ、さっさと帰ってメインイベントに掛かろうか」

 頷いて同意を示す。

 今日は"鍛冶"を鍛えに集まったのだから。


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