暁闇のフェイタリズム
正方形の真っ白な壁で覆われたその部屋の中央には、壁と同化しそうな色をした一つの台座が、ぽつりと寂しく佇むように置かれていた。その台座は遥かな月日を経たはずなのに、これと言って何一つ劣化した様子は無かった。
研究者である自分たちがここに来たのは他でもない、この台座に設置されている石を回収する為である。
一見何の変哲もない石、もとい水晶だが、上部は綺麗な水平であり、ところどころにレコード盤のような円状の細かな傷が見られた。それ以外は他の水晶と大して変りは無い。
私たち研究者が発見したこれは、何らかの記録媒体ではないかと言われているものだ。一体誰が遺したのか、なぜ遺したのか。そしてここに刻まれているものが何なのか。何を伝えようとしているのか。謎に包まれたこの物体を解析するために、私たちはこの星の最北の地へ派遣されたのである。
調査によればこの遺跡を作ったのは、高度な文明を持っていた者だとされている。正確な正方形の部屋で、雨風に曝されることもなく、一切の劣化も見られない。しかも推定では何千年何万年どころか、何億年も前に造られた施設だとされているらしい。間違いなく人類と同等か、それ以上の知性を持つ生命体が、意図的に造ったものだろうとされている。部屋の壁も地球上には存在しない不思議な素材で作られていて、きちんとした手順を踏まなければ、この部屋には侵入すらできなかった。
そんな優れた文明の力を持っていた知的生命体たちの遺産の中身を、私たちは大いに期待してここを訪れたのだ。
同行していた四人の研究者が台座に近付き、慎重に台座の上の水晶を持ち上げた。水晶は簡単に持ち上がり、警備のシステムのようなものは働かなかった。そのおかげで、私たちはすぐに水晶の回収を終えられた。
「こういう時は、決まって罠があると思っていたんだけどな」
研究者の一人が顎に手を当てながら考えていた。決まっているのは創作の中だけで十分だ。
水晶は輸送するための箱に詰められて、役目を終えた台座だけが部屋に残された。もともと物寂しかった風景は、一層寂しさを増したような気がした。
「ほら、そこ見てみろよ」
また別の研究者が、台座の一部を指差した。
「あそこに文字みたいなのが書いてあるだろ?」
確かに、指差された先には、見たこともないような文字が書かれていた。しかしそれが本当に文字なのかも怪しい。私の目には点と線が連なっているだけにしか見えなかったのだ。
「何て書いてあるのか読めるのか?」
「とんでもない。あんなもの読めるわけないじゃないか」
私の淡い期待を損ねて、肩を竦めておどけて見せた。古代の文字に精通した研究者なら読めるのだろうか。
「なんだよ、少し期待したんだぜ」
「それは申し訳ないな。でもあれ、何を意味するんだろうな?」
推定上、何億年間も水晶を守っていた台座に記されていたのだから、それらしい厳かな言葉が書いてあるはずだ。こんな仰々しい部屋まで用意して、まさかくだらないことを書いているわけではあるまい。
「もし私が死んだら、なんてどうだ?」
「まるで中学生の遺書だな!」
はっはっはと愉快そうに膨れた腹を抱えて笑う友人を、私は鼻を鳴らして冷たくあしらった。本当はこんな遺書のような言葉が浮かんだのではない。こちらは咄嗟に考えて言ったものだ。
「何、そんな気分を害さなくたっていいじゃないか!」
「だったらそっちの意見を聞こう」
「そうだな。この部屋を設けたのが、文明の記録を残すためだとするだろ?」
自信があるような様子で、その小太りの男は腕組みしながら推測を始めた。
「ああ」
「だとしたらこれは『次の世界の君たちへ』なんてどうだ?」
次の世界の君たちとは、失われた文明の次の世代。すなわち私たちのことだろう。それはまるで、自分たちが滅びた後に、他の文明が栄えるのを予見していたような口ぶりだ。気味の悪い話である。
「くだらない妄想話だ」
だが、これほどに高度な文明を持っていたのだから、未来を予見することもできたのかもしれない。
水晶の詰め込みが終わったらしく、私たちの名前がそれぞれ呼ばれ、ここに来ていた研究者全員が一度集められた。
「扉の解除はあっさり終わったし、もう詰め込みも終わりか。当初の予定じゃ一週間かけてここに滞在するつもりだったんだろう?」
「この調子だと三日滞在するのかも怪しいな。すぐに引き上げて水晶の解析作業に移行すると聞いたぞ」
水晶は既に分厚い頑丈な金属の箱の中だ。あの水晶に果たしてあれだけ厳重にする価値があるのかどうか、それらは水晶の記録を辿ればすぐに判ることだ。
「まあ、楽しみにしてみる価値はあるはずだ」
「こんなところまで足を運ばせた代物だ。相応の文化的価値があるに違いない」
すぐにここを出るという旨を伝えられた私たちは、揃って部屋を出た。その背後で、寂しげな台座が私たちを見送っているような気がして、やけに落ち着かなかった。
あの台座に刻まれた言葉の意味は何なのか、きっと誰も知らない。当然私だって知らない。誰も知らないままあの遺跡の扉は再び閉ざされる。次にこの扉が開かれるのは、いつになるだろうか。いつか、誰かがあの扉を開けた時、あの台座に書いてあった言葉の意味を読む者が現れるだろうか。
きっとそれは、遠い未来の話になりそうだ。
『この地に眠る』
私が言いかけた、あの文字の意味。当然それは推測でしかないはずなのに、妙にあの文字は馴染んだ言葉に思えた。違う、私自身がが、そうであると判断した気がしたのだ。もし言葉通りの意味だとすると、あの部屋は墓場だ。誰の墓場なのかなんて、当然これもまた判らない話だが、きっと強い思念を持っていた誰かの意思が、留まり続ける場所なのだ。言いかけてやめたのは、あの部屋で眠り続ける誰かに対して、ほんの少しの恐怖を覚えたからだ。
だからこそ、あの水晶は、ある意味で遺書なのかもしれない。
本国へ帰還してから数日が経ち、いよいよ水晶の解析が開始される。私は他の研究者と並び、水晶の解析実験に立ち会っていた。例の回収された水晶は、情報解析で用いる高性能スキャナーの下に設置されている。その周囲には数個のカメラが設置されており、モニターで鮮明に確認できるようになっていた。
私たちは強化ガラス越しにその様子を眺め、機械から読み取った情報や、水晶の状態をモニターから確認していく。そして読み取った情報を記録し、解析するのが今回の仕事だった。たとえ滅びた文明であろうと、あの水晶を残したということは、何かの意味があり、後世に伝える手段があるはずなのだ。解析のできないものを後世に残すわけがない。特に、あれほど高度な文明を持っていたとすれば、それも計算の内に入っているだろう。いや、むしろそうでなければ困るのだ。そうでなければ、私たちが最北の地からこの水晶を持ってきた意義が失われる。
この研究室には最新の設備備わっているが、確実に情報を読み取れるという確証はない。科学的にやれるだけやれることを、試していくしかないのだ。そして成果を出す。これが研究者としての義務だからだ。
「レーザー照射、開始します」
機械操作を行う研究員の一人が、掛け声と共にレーザー照射を開始する。合図と同時に、まず赤いレーザーが水晶に照射される。その次に青白いレーザーが照射され、最後に肉眼では不可視のレーザーが照射された。水晶全体へ綿密にレーザーを照射し、水晶から光を反射させることで、水晶に刻まれた情報を読み取り、電子化させる。電子化された情報をプログラムで変換することで、可視化できるものにする。とりあえず、これで水晶からの情報を吸い出すことはできる。
「水晶からの情報変換、完了しました」
「変換した情報を可視データに変換します」
水晶に刻まれた情報が、図形となって表示される。そして表示された図形に既視感を覚えた。それは紛れもなく、あの台座に刻まれていた文字と似ていた。棒や点を組み合わせて作ったような、理解不能の文字だ。
「これは……」
解析結果を表示しているモニターには、図面データとして、未知の言語の文字列による長文が、次々と表示された。それらは一見規則性のある文章に見えるのだが、何を書いているのかは不明である。
「恐らく古代文明の文字だろう……」
その場にいた研究者たちが、各々にざわつき始める。未知の言語に対する研究者たちの動揺は激しい。聞いた話によれば、現在この言語を解読できる人物は存在しないらしく、今回の研究結果に対する不信感が漏れ始めているのだろう。
しかし、読めない言語のはずなのに、私はあの真っ白な部屋の時と似た感覚に囚われていた。一瞬、私の中で何かが閃いたような気がして、視覚から入った情報が、頭の中に直接流れ込んで、それを脳が自動的に解釈しているような感覚だ。
『この地に眠る』
あの台座に書かれていた文字をそう読んだのは、なんとなくだと思っていた。きっと直感的にそう思っただけだろうと、あの時の私は勘違いしていたのだ。あれは勘違いや気のせいではない、確実に読めていた。当然私はこの言語を学んだわけではない。学ぶ方法などもともと無いのだ。
なぜそこに記された文字列たちを読めたのか。私にも不思議だった。さっきまで読めなかったあの文字列たちを、一瞬にして私は読み取ったのである。
「…………っ!?」
流れていく文字列たちを目で追い、母国語を読むように解読していく。この感覚が不思議でたまらないのに、その現象よりも、目の前で繰り広げられる水晶に刻まれた言葉を読み取ることに、いつのまにか私は一人熱中してしまっていた。そして、刻まれていた言葉の語る真実に、私は思わず息を呑み、固唾を飲み、戦慄せざるを得なかった。
不明な言語に動揺する研究者たちの中で、私だけがモニターの前で立ち尽くし、唖然として目を見開いていた。そして確信したのだ。あの真っ白な部屋にあった台座と、この水晶は遺書そのものだった。後世に自分たちの行く末を伝えるため、死に際に遺したような記録媒体。
その内容は決して「くだらない妄想話」などではなく、壮絶な事実であった。
私はその事実に触れたことで、科学者と言う立場から初めて理解した。
自分たちは……いや、人類は、とても弱く儚い存在だったということを。
◆
きっとこれを読んでいるあなたが、再び世界と人の心に悲しみを与ないように、光の道へ進むことを心から願う。
世界は悲しみと憎しみで覆われた。この世界はもう手遅れだ。きっと、もう元には戻らないと思う。だから、せめてわたしのこのメッセージが、次の〝わたしたち〟に届くよう、このプレートに全てを刻んで、わたしはその下で眠る。
きっと次の世界でのあなたたちはかしこいから、この記録も読めると信じて、世界が滅びた理由……いや、わたしにとって、これから滅びゆく世界の始まりを残しておくとする。
わたしが幼かった頃、まだ空が青かった。思い返せば、私の半生のほとんどでは、空の青い時代だったと思う。世界各国ではいざこざが残っていて、その全てを拭いきれていなかったけど、わたしの住んでいた所は平和で、のんびりとしていて、空気が澄んでいた。そして、何よりも空が青かった。晴れ渡る空に、大きな入道雲が浮かんでいた。子供の頃の鮮明な記憶の断片だ。夕焼け色の空が、やがて夜を呼んだ。闇の世界に浮かぶ真珠のような月が、真っ暗な大地と海を照らした。冷たくて心地良い夜風が、草木を揺らしてなびかせた。窓辺のカーテンから差し込む月の光が、わたしを眠りへと誘った。
そんな日がいつまでも続くんだと思っていた。明日も、明後日も、明々後日も、ずっと、ずっと、こんな穏やかな日々が続くんだと、幼い頃のわたしは信じて、早く大人になりたいなんて、ありがちな子供じみた妄想に耽って。
そんな日々から幾年も月日が経った。人類はその間にも進化を続け、政治、学問、工業、経済、産業、科学、情報、技術、農業、軍事といった、万物への邁進を続けて、より豊かな世の中を築き、人の心を豊かにしていった。
わたしは成長して家を出た。引っ越し先に選んだのは、とある町の、坂の上の家だった。坂から眺める夕陽が綺麗な、素敵な場所だった。異変が起こったのは、それからしばらく経ってのことだったと、わたしは記憶している。
ある日の朝、窓辺から見た景色は、文字通り真っ黒に染まっていた。当初それはただの雨雲か雷雲かと思ったけれど、雷も鳴らず雨も降らないので、特に気にするわけでなかった。ただ少し、いつもと違う雲の色に、違和感を覚えていただけだった。だから今日は単に曇りなんだろうと、きっと明日は晴れるだろうとしか、思っていなかった。
翌日も曇っていた。昨日と同じ、黒々とした雲が空一面を覆うように広がっている。相変わらず雨は降らないし、雷も鳴らない。風が強くなるわけでも無い。ただ陽の光が地表を照らすのを阻むように、不気味な雲は漂っていた。
その翌日も曇っていた。例によって真っ黒な雲が空を覆っているこの時くらいから、わたしは不満を持ち始めた。そしておかしな点に気付いた。雲の色が昨日よりも濃密になっている気がしたからだ。別段おかしなことでもない。雲がいつもより黒くて、またそれよりも黒くなったように感じた。当たり前の現象。それなのに、どうしてか頭の片隅で引っかかっていた。
次の日も曇っていた。その翌日も、翌々日も晴れることはなく、次第に一週間、二週間と経っていった。日を追うごとに、やはり雲の黒さは増しているような気がして、一ヶ月経つ頃には、日中も夜みたいに暗くなっていた。そのせいで、外はいつでも街灯がついているし、私もだけれど、どこの家も寝る時以外は常に電気が点いていた。
わたしはなんとなく、外出したいという気持ちになった。四六時中陰鬱とした夜の景色にうんざりしていたし、ストレスの解消になればよかった。
空は変わらず、真っ黒で濃密な雲に覆われている。青空に浮かぶ白い雲でもなく、梅雨時の灰色の雲でもなく、夜の空に浮かぶ月を囲む、千切れた雲のような黒さ。今では昼間でも夜と似た状態なので、その表現は違和感があるけれど、当初にあの雲へ浮かべたイメージは、そういったものだった。ただ違うのは、空を覆っているこの雲が本質的に持っている毒々しい黒さだった。
坂を下って町を出歩く。どこかへ向かうわけではない。何となく歩いていたいと思っただけだから。
道中の家々からは電燈の光が洩れていて、街灯と漏れた電燈の光が道を照らした。出歩いていて気付いたけれど、町を徘徊しているのはわたしだけだった。徘徊と言えば怪しく感じるけれど、そうでなくとも、誰かしら人が出歩いているものだと思っていたので、少しばかり不気味だった。念のためにもう一度言っておくけれど、わたしが町を出歩いていたのは昼間のはずだった。いくら外が暗いからと言って、誰かがいてもおかしくないはずなのに、町にはわたし以外の誰もいなかった。
しかし電気は点いている。町中の人々が、家にこもっているだけかもしれない。それにしたって、揃いに揃って引きこもらなくてもいいだろうに。
しばらく町を歩いたけれど、どこに行っても人はいなかった。夜脳に暗い町の中で、わたしだけが彷徨い歩いている。それが不気味に感じられて、今度は途端に帰りたい気持ちに駆られた。なんとなく、すぐにこの場から立ち去らなければ、と思ったからだ。
踵を返して家の方へと向かい、帰路を辿る。振り返った先にも、誰一人いなかった。わたしだけが世界から切り離され、取り残されたような気がした。
帰る途中で一軒の家が目に入った、特にこれといって変哲のない、普通の一軒家。それなのに、わたしは吸い込まれるように、その家の方を見つめていた。その家も他の家と同じく、窓からは電燈の光が洩れている。唯一異なるのは、カーテンが開けっ放しになっていたことだ。無礼を承知で、わたしは無意識に窓から家の奥を覗き込んだ。
家の中には、一人の中年の男がソファに座ったまま、顔を天井に向けてじっとしていた。男の目は見開いたまま、口をだらしなく開けて、涎を垂らしている。どうかしたのだろうか、そう思った時だった。
微動だにしていなかった男は、突如腕を動かして、近くにあるテーブルの上に置いてあった、酒瓶のような物を手に取った。酒瓶は蓋が開けられたままで、男は自分の顔の上辺りまで持ってくると、それをひっくり返し、液体を口の中に放り込むようにして飲み始めた。
だくだくと瓶の中の液体が男の口へと落ちていくが、瓶から出てくる液体の量が多く、口に含められる許容量を超過し、びちゃびちゃと床や自分の体に水滴が飛んだ。男はそれを気にするわけでなく、瓶が空になるまでそれを続けて、結局ほとんどが床や男の体に零れ落ちた。男は空になった瓶を力なく床に落とすと、白目を剥いて、口の中に含んでいた液体を零し始めた。
男の異様さと不気味さに思わず後ずさる。ただ者ではない、関わりを持ってはいいけない雰囲気が、男からは出ていた。再び踵を返そうとしたその時だった。
男の体から異変が起こり始める。男の胸元から吐き出されるように、黒い煙のようなものが立ち込めて、天井に昇り始める。一瞬自分の見間違えかと思い、目を擦ってもう一度見ると、やはり男の胸元から現れた煙は確かにあった。何かが燃えているのではないかと思ったけれど、それらしい様子はなく、黒い煙だけが漂っている。
気が付くと、わたしの脚は駆け出していた。一刻も早く、この異様な空間から抜け出したかった。走っている途中で後ろを振り返り、男の家の方を向くと、先程男の胸元から現れた黒煙は、空に目がけて昇っていた。家の方は燃えているわけでも無い。あの煙はなんなのか、疑問を抱いたまま再び前に向き直し、家に向かって走っていた。
その道中でも、わたしは誰ともすれ違うことなく、無人化したような町を走り続けた。
翌朝になると、昨日まで一面に空を覆っていた雲は消えており、晴れ渡っていた。清々しい朝だ――とは言えなかった。
空の色は不可思議な色をしていた。朝はとっくに迎えているはずなのに、窓の外に広がる空の色は黄昏色をしている。千切れ雲の隙間からの射光が、厳かに地表を照らしていた。
あまりの幻想的な景色を前に、息を呑んで動揺した。あの不気味な真っ黒な雲は消えたものの、事態はよくない方向に進んでいるのが理解できる。
一体何が起こっているのか知りたくて、家の古いラジオのスイッチを点けた。何が起こっているのか、これで判るはずだ。
ダイヤルを回して、ラジオの周波数を合わせる。しかし、どれだけダイヤルを回して周波数を合わせても、どの局も放送されていないのか、砂嵐だけが流れている。何度も周波数を合わせて試したものの、やはりどこもかしこも砂嵐だけが流れていた。
結局、自分自身で確認した方が手っ取り早いと思い、わたしはラジオのスイッチを切って家を出た。
外へ出ると昨日とは打って変わって、果てしなく続いていた真っ黒な雲の代わりに、果てしなく続く黄昏があった。黄金色に染まった坂道を下り、町を出る。ここばかりは昨日と同じなのか、町には誰も出歩いていなかった。
今の時間帯なら、朝市が開かれているはずだ。特にこの時間は活気に溢れているし、町の広場に行けば誰かがいるに違いない。
無人化したような町を歩み進め、自分以外の誰かの存在を求めた。どうして誰もいないのか。そしてこの黄昏の正体は何なのか。訊ねられる相手など、もはやいなかった。
やがて広場に着いた。そこにあるはずの活気は無く、市場は開かれるどころか閑散としており、広場にいるのはわたしだけだった。ようやくここで、わたしはこの現象の異常性を確信した。無人化したような……いや、無人化していた。どうして他の人は消えて、わたしだけが取り残されたのか。
思わず膝の力が抜けて、そのまま地面に崩れ落ちた。自分だけが世界から存在を切り離されたみたいで、孤独と言う地獄を味わっているような気分がしたから。試しにわたしは何度か叫んだ。――誰かいないの、誰でもいいから返事をして、何が起こっているの、この空はなんなの……。全力の叫びによる問いに返事は無く、わたしの声だけが、虚しく町中に反響しただけだった。
その時だった。わたしの背後から誰かの靴音が聞こえた。ゆっくりと鳴らすその足音は、こちらに近付いてきているようだった。わたしは嬉しさの反面で、突如現れた誰かの音に驚き、身構えた。
「君は、生存者なのか……?」
振り返ると、そこには一人の若い男が立っていた。長く伸びた黒髪が前髪を隠し、その隙間からは男の疲弊した顔が垣間見えた。目元には隈ができ、色を失った虚ろな目をしてこちらを見つめている。哀しげな表情を浮かべて、こちらを見つめていた。
「よかった、そうか……よかった。いいかい、すぐにここから逃げるんだ。いいね。場所は案内するから……」
「待って、あなたは何者なの……? それに生存者ってどういうこと……? 皆は、町の皆はどこに行ったの……?」
いくら誰もいいからと言っても、突然現れた男に動揺を隠せなかった。この町に住んでいて、今までこんな人を見た覚えが無かったし、どこか風変りな服装をしていたから、思わず警戒してしまった。
「僕は――そうだな、旅人だ。ある目的のために世界中を旅している」
「旅人だったの……どうりで見ない顔だと思ったわ。それで、生存者ってどういうことなの……?」
「ああ、そうだね。聞きたいことはたくさんあると思う。でもあまり時間をかけて説明はできないから勘弁して欲しい。もうタイムリミットが近付いているからね」
タイムリミットとは何を指しているのか。もしかすると、町の人が消えたことや、この黄昏の正体と関係があるのかもしれない。
「まず推測だけれど、恐らくこの町の住人は、君以外全員消えてしまっただろう。これは残念だけど……もうどうにもならない。町の人は戻って来ない」
やはり、この町にはわたしだけしか残されていなかった。いや違う、正確にはこの男とわたしだけしかいなかった。
「それは、この空と関係あるの?」
男は静かに首肯した。
「この黄昏は世界の終わりが始まる合図。人の心の闇が具現化して、この世の全ての人にある悪意が世界を滅ぼす合図さ」
「心の闇が世界を滅ぼす……? それは何かの冗談でしょう?」
文明と科学が進んだ現代に、そんなオカルトな話が突拍子もなく出てきて、信じられるわけが無かった。だとすれば、あの黒い雲もこの空も、人の心が生み出したものということになる。
「時代錯誤だと思われても構わないよ。そうだ、昨日までの天気を覚えているかい?」
「そんなの忘れるわけないじゃない。雲りよ、一ヶ月くらいの間、ずっと曇りだったわ」
「そう。でもあれはただの雲じゃなかった。人の悪意の結集、心の闇そのものなんだ」
男の非現実的な話にわたしは呆れるしかなかった。こんな状況で何を言っているのか。呆れて嘆息してしまった。
「……信じられると思う? 大体、どうしてあなたがそんなことを知っているのよ」
「信じるか信じないか、それを抜きで聞いて欲しい。そうだ、君は人の心が抜ける瞬間を見ていないのかい?」
「人の心なんて見えるわけがないじゃない」
人の心とはいわば思考と同列のもので、不可視のものなのに、当然のように訊かれても困る。
「悪意である心の具現化した姿だよ。黒い煙みたいな形をしているんだ。あれが心から解き放たれると、雲の一部となって悪意のエネルギーになる。知らない?」
「黒い……煙……」
思い出した。昨日わたしが帰り際に見た、中年の男の胸から現れていた黒い煙だ。男が酒を浴びるようにして飲んだ後、煙が胸元からでて、天井を突き抜けて、空の彼方へと昇って行った。もしかして、あれこそが人の心の闇――悪意とでも言うのか。
「見覚えがあるみたいだね」
どうやら表情に出ていたらしい。男は察すると、黄昏の空を見上げた。一陣の風が吹き抜け、男の着ていたコートが翻った。
「それが人の心の闇さ」
「でも、町中の人の心にある悪意が、同時に集まるなんて……」
「心の闇はね、更なる闇を求めて人の心を喰らう。始まりの闇が、この町の住人の闇を喰らい続けた。この町だけじゃない、世界中の、ありとあらゆる人の心にある闇を、あの雲は食らい続けた。そして莫大な負のエネルギーをため込んだ」
「それが世界の破滅を呼ぶの?」
男は黙った。わたしが内心でまだ信じ切れていないのを、判っているのかもしれない。
「人はその叡智で文明に進化を重ねて、多くのものを作り出した。そのおかげで生活は豊かになったし、人の心は常に満たされるようになった。財力と権力次第では、ありとあらゆるもの手に入れられる……。そんな、誰もが理想とした世界ができあがった。でもね、どんな科学者も権力者も富豪も、人の心まで完全に支配できなかった。人の心の持つ力は未知数なんだ。どんな科学技術を持ってしても、心の奥にある神秘に辿り着けなかった。同時に人は心を見つめようとしなかった。目の前のことに囚われて、他人どころか自分にも無関心になって、心に抱える闇にも気付けなかった。闇は闇を喰らって増長する。この町だけじゃない、世界中の悪意という悪意がこの星を包んで、今最後の局面を迎えようとしている。だからこの黄昏は、悪意が世界を滅ぼす前兆さ」
「じゃあ、心を奪われた人たちはどうなるの……?」
「残念だけど屍人と同じさ。最後には存在も消えてしまう」
それはあまりにも理不尽な宣告だった。抱えている心の闇のせいで、巨大な悪意に心を奪われて存在まで消えてしまう。抗うこともできないまま自己を奪われた人たちは、最後に何を思っただろうか。
「でも、それならどうしてわたしは消えていないの? あなただってそう、心を奪われていない」
「僕は特異体質でね。君はどうしてか判らないけど……。例えば、心に闇を抱えていないのかもしれない。……いや、そんな人間はあり得ないかな。もしかすると、君も僕と同じ特異体質なのかもしれないね」
誰でも心に闇を抱えている。やり場のない怒りや憤りが、心の闇となり常駐している。それはありふれた感情だけれども、誰にも触れることはできない。心の闇だけではなく、心の本質に人は何一つ辿り着けていない。だからこそ、どうしてわたしだけが、心の闇を奪われなかったのかが不明だった。
科学技術の産物である、いかなる大量破壊兵器よりも、人の心はそれらを超越した力を秘めている。どれだけ優れた機械よりも、どれだけ強力な兵器でも、人の心と言う不可侵の域に眠る悪意は、誰にも止められない。だとすれば、目の前で起ころうとしている破滅を、誰にも止められないのだろうか。
「君はきっと選ばれた存在なんだろう」
「わたしが……?」
うん、と男は小さく答えた。
「だからこそ、君までここで消えさせるわけにはいかない。特異体質だとしても、終焉に耐えられるかまでは判らない」
男はわたしの方に手を向けて、何かを呟いた。すると、一瞬背後から風圧のようなものを感じて、すぐに振り返ると、わたしの背後の空間は歪み始めていた。不気味な光景に、わたしはその場から飛び退いた。
「な、何これ……!?」
「空間移動の術式さ」
歪んだ空間は楕円形となっていて、人が一人入れるくらいの大きさだった。楕円形の内部は水色のグラデーションが渦を巻いている。
「一体こんなものをどこから出したの……!?」
「どこから出したと言われても……。こういうものだからね。そうだな、魔法みたいなものだよ」
「また非科学的な話……」
「こればかりは、理不尽だと思われても仕方ないかもしれないね」
「それで、空間移動ってことは、これを使って移動できるってことでしょ?」
一見、人が移動手段として使うには、とても想像の及ばない形をしている。男は魔法のようなものと言っていたし、どうやって使用するのだろう。
「これは扉。この中に進んで行けば、目的地に直接到着できる」
「目的地ってどこ?」
「この破滅から逃れられる場所に繋がっている。僕を含めた、僕の一族たちが一生を費やして作ったシェルターの一つ。残念なことに、たった少しの人しか入れない規模だけど……様子を見る限り、僕が助けられるのはもう君くらいだ」
そこで改めて、もうこの町にはわたししかいないんだと自覚した。
「君一人くらいなら十分に入れる大きさだ。それに、なんとか完成には間に合ったから、問題は無いはずだと思う」
シェルターの中にいけば、これから起こる破滅に耐えられるのか。そんなものを代々造って一生を終えるのは、寂しい気分がした。そもそもこの人たちの一族は、いずれ世界が心の闇で滅びると言うのを予見していたのだろうか。そうでなくでは代々シェルターを造るなんてことはしないだろう。
「あなたはどうするの? 一緒に来るんでしょ?」
わたしの問いに、男は首を横に振って、小さく笑った。見間違いかと思い、しばらく男を見つめたけれど、男が首を縦に振ることはなかった。
「僕はここに残る」
「どうして!? これから世界が破滅しちゃうようなことが起こるんでしょ!?」
「それが僕の役割なんだ。僕の家系はね、いずれ世界が心の闇で押し潰されることを知って、闇に立ち向かう『力』を血に築き上げ、闇から守るシェルターを造った。だから闇に抗うことはおかしいことじゃない」
「それであなたは助かるの!?」
わたしは懇願するように彼が助かるのを望んだ。
「いや、きっと助からない」
「助からないのに……どうして……!」
「言っただろう? それが僕の役割なんだ。今の人類が闇に滅ぼされたとしても、未来の人類にまで、この闇を残しちゃいけない」
男が吐き捨てるように言った時だった。
地面が大きく揺れ始め、しばらく続くと周りの建物が揺れに耐えきれず、破壊音を立てながら崩れていく。辺り一面には埃と塵が舞い、瓦礫が飛散した。揺れが収まると同時に、今度は空に異変が起こり始める。
「あれは……」
黒い雲が突然現れ、一点に集まり渦を巻いていく。雲は一つの巨大な球体のように固まっていくと、徐々にまとまりを見せて、物体へと変質した。
雲が一つの物体となって生み出したものは――月だった。ただ、空に浮かんでいるいつもの月ではない。真っ黒で禍々しい惑星。その惑星からは瘴気のように、黒い霧のようなものが洩れていた。しかもその惑星は、目の鼻の先にあるほど大きく、次第に地上に落ちてきているのか、次第に大きくなっていく。
あれは惑星なんてものじゃない、隕石だ。
「早く、その扉の先に行くんだ!」
「でも、あなただけ死んでしまうわ! あんな隕石が落ちてきて、無事に済むわけがない!」
「構わない!」
男の言葉に躊躇いなどなかった。死を覚悟してでも、この闇と立ち向かう心づもりらしい。
「それに、あれだけが世界を滅ぼすわけじゃない。もっと大きなものがたくさん、様々な形に変えて、災厄そのものへと具現化するんだ!」
「それら全てに立ち向かうなんて……! あなたが抗うことで、この世界は救われるの!?」
男は首を振った。
「僕の頑張りだけで全ては救えない。でも、君と次の世代の人類はきっと救われる。今ある全ての闇が世界を包み込んでしまったら、次の人類は、今よりもずっと深い悲しみを背負って生まれてくることになる。それなら、僕は犠牲だろうが生贄だろうが、何にだってなる」
男は背を向けた。そして落ちてくる隕石を眺めながら、最後に告げた。
「光の裏側には闇がある。光が大きければ大きいほど、闇もまた大きくなる。正義と悪の概念が脆弱であるように、僕らの心もまたあやふやで、儚くて、弱いから。光の反面に闇を持つ。そこに芽生える悪意はやがて世界を飲み込み、僕らと世界を破壊する。どうかそれを、遥か遠くに生まれてくる人類に教えてあげて欲しい。僕はここで闇と戦って、闇と共に死ぬだろうから」
「――それが、あなたの答えなのね」
ただの自己犠牲と言える彼の行動に、正当性はあるだろうか。科学ではありえない世界に囚われ、心の闇という概念に抗う彼の生涯に意味などあるのだろうか。きっと、そんなものは無い。往生際の悪いわたしは、それを肯定できない。
見えない誰かと明日のために、どうして自分を捨てられるのだろう。それは自己へ対する冒涜だ。見えない可能性に価値はあるのか。
いや、彼は違う。本質的にわたしとは異なっている。彼はいつか来る戦いのために、今日まで生きてきたのだから。ある意味強烈な教えのもとで育てられた宗徒と変わりない。この戦いは彼にとっての聖戦だ。だから、自己犠牲だとかそんなものは考えていない。彼の中にあるのは、心の闇と言う人類の本質そのものと抗うための、血に引き継がれた心なのだから。
わたしは男に背を向けて、歪んだ空間、彼の言うところの扉へと歩き始めた。
「――――健闘を祈るわ、さよなら」
男は返事もせず、ただ落ちてくる真っ黒な隕石を眺めて、背を向けていた。
わたしが扉に手を触れると、渦の中に手を引き込まれるような感触がした。一瞬歩みを止めたが、行かなければわたしまで隕石に巻き込まれてしまう。隕石だけではない、もっとたくさんの災厄が起ころうとしているのに、ここに残るわけにはいかなかった。
渦の中へ飛び込むように体を進める。進み続けると、オーロラのような色彩が囲う空間へと着き、光がわたしの体を包んで、わたしは目を覆った。
包んでいた光が集束したのを感じて目を開くと、そこは真っ白な部屋だった。正方形の部屋で、部屋の中央には壁の色と同化しそうな台座があり、その上に円形の分厚い水晶が置かれていた。
台座の傍らには、透明なケースのようなもので覆われた棺桶のようなものがある。人一人分は入れるくらいの大きさだった。棺桶内部の左右には、淡い光を放つライトが取り付けられており、蓋となるらしい部分の近くには、白いスイッチがあった。
棺桶のようなものはさておき、台座の上に置かれている水晶は何の変哲もない水晶らしく、台座にはこれと言って特徴のようなものは見当たらなかった。
どうしてこんなところに水晶があるのかだろうと、軽い気持ちで触った時だった。水晶に触れた瞬間、言葉や文字とは異なる、人間が本来理解できない『概念』そのものが、頭の中に直接流れ込んできた。具体的には違うかもしれないけれど、『概念』という情報の原型そのものを突然流し込まれたわたしには、そう形容する他無かった。
流れ込んできた『概念』は、このようにわたしに示した。この水晶は触れただけで、自分の記録したい記憶が書き込まれる。水晶に記録された情報は、いずれ来る人類に理解出来るであろう情報媒体となる。
水晶が与えた情報は、ここから先が特に重要なものだった。
この水晶を記録する時、恐らく世界は闇に覆われている。世界が再び蘇る時まで、人の寿命は決して持ち堪えられない。そのためにここに辿り着いた人類が、幾億の月日を生存するための箱舟を用意した。
その箱舟こそが、この台座の隣に置かれている棺桶――もとい、カプセルだった。このカプセルは、人間が無限の時間を生存するための、あらゆる技術が施されている。確かに現代の技術を持ってすれば、理論上不可能ではないのは確かだった。ただし、目覚めさせるのは未来の人類となる。
いずれ生まれて来る人類が、このカプセルの封印を解除して、眠りにつくわたしを目覚めさせる――希望的観測だけれど、闇の世界から生存するには、この方法しかない。
いつか遠くの日に芽生える命が、ここに辿り着くことを祈るしかない。
この真っ白な部屋で、わたしはこれから長い眠りにつく。水晶が示すところ、カプセルの中に入ってスイッチを押せば、自動的に扉が閉まり、中にいる人は眠って、保存状態へと切り替えられるらしい。
だから、今のうちにわたしの記憶を、この水晶に刻んでおく。わたしの生きた世界は、心の闇、悪意に覆われて、もう終わろうとしていることを。人の持つ心の力の強さと恐ろしさを、次の世代のあなたたちに伝えるために。
残念だけど、無力なわたしには何も変えられない。大きな流れに抗う力も持っていないから。この水晶とカプセルに全てを託して、永い眠りに就いて、再び目覚める日を待ち望むしかない。
あなたたちの世界はどんな世界?
美しくて、綺麗で、光が溢れていて、誰もが笑顔でいられる世界?
それとも、汚くて、醜くて、闇が覆っていて、誰もが悲しんでいる世界?
世界は広くて、全てを見ることなんて神様にだけしかできない。だからわたしも気付けなかった。毎日たくさんの悲しみや憎しみや怒りが世界を包んでいて、そしてあの真っ黒な闇の雲を生み出して、空を破滅の黄昏に変えてしまったんだ、って。
だから信じたい。わたしが次に目覚めた時は、この世界のような悲しみを抱えていない世界だと。幼い頃にみた青空が、また広がっている世界だと。
どうかこんな過ちを繰り返さないで、悲しみは悲しみを、憎しみは憎しみを、怒りは怒りを繰り返させる。またあの黄昏を呼び起こしてはいけないから。
目覚めた朝の景色はどんなだろう。眩しい陽が射しているのかな。これから、とても、とても長い眠りが待っているのに、眠ることしかできないのに、不思議と不安は無いの。でも目覚めた時のわたしは、きっと寝すぎていて、足がむくんで、髪も長く伸びすぎて、肌が荒れちゃっているかもしれない。あのカプセルのことは、まだ見ただけでなんとなく信用できないから。それで、もしわたしがすぐに起きなかったら、優しく揺すって起こしてね。そして、明るい庭へ連れていって欲しいわ。
――――どうか、再び世界に光が満ち溢れんことを。
◇
それを全て読み終えたわたしは、ざわめきの研究室を後にして、屋上へ続く階段を上った。私は研究に行き詰った際、気分転換にいつもこの階段を上って屋上に行った。行く人も少なく、リラックスをするにも最適だった。夜なんかは風が吹いて心地よかった。
私は最上階に辿り着くと、屋上への出口の扉を開けた。丁度夜明けの頃合いだった。
空は白んでいて、幾つもの小さな雲が途切れて浮かんでいる。夜明けの明星を掻き消すように、東の空からは穏やかに陽は昇り、闇を溶かし、私たちを照らしたのだ。
オムニバスシリーズ第三弾。
元ネタは日立と京大によって開発された石英ガラスへのデータ記録というニュース。
三億年も保存が出来ると書いていたのを読み、「これだ!」と思って書いたのを覚えています。
それと私はよく聴いた音楽から発想を得て話を書くのですが、この作品はKalafinaさんの「君が光に変えていく」という曲を聴きながら書いたものです。
読み終えた後に、一度聴いていただけたらなと思います。