転生問答~その瞳に、何を見る?~
次は猪に転生した。
猪突猛進な人生、否、猪生を送っていたら漁師に腹を撃ち抜かれて死んだ。死んだ後はおそらくは猪鍋にでもなったのだろう。死んだ後の事などよく分からぬ。
――――転生転生――――
その次は魚に転生した。残念ながら魚介類の事はよく分からぬので、何の魚に転生したかは分からない。いや、びっくりしたね。なんてったってエラ呼吸だよ? 記憶が蘇った時、一瞬エラ呼吸の仕方が分からなくて死ぬかと思ってしまったよ、ホント。
ただ、魚に転生したと思った数分後には釣り人に釣り上げられていた。最後は腹を斬り裂かれ、腸を取りだされ、死んだ。
その後焼き魚になったか、天ぷらにでもされたか、分からぬが食われたのだろう、きっと。まあ、死んだ後の事など、どうでもいい。
――――転生転生――――
その後はゴリラに転生した。ある意味、一番人間に近いな。
目の前には、鉄格子が見える。おそらくは動物園か、何らかの研究所なのだろう。
まさか、人間に捕まった状態から人生、否、ゴリラ生がスタートするなど、何と滑稽であろうか?
俺は、脱走する事に決めた。
見回りに来たそれっぽい制服を着た人間の腕をつかんで鉄格子に叩きつけ、鍵を奪う。さあ、自由への旅立ちウホ。
ウホ? いったい何を言っているんだろう、俺は?
まあいい、鍵穴に鍵を入れよう。ちょっと、難しいウホ。何だか考える事の語尾がおかしいな、ウホッ。
ウホ? ウホ、ウッホ。ウホ、ウッホウッホ? ウホッ!!
「だ、脱走だーッ!! ゴリローが脱走したぞー!!」
「ど、どうした、東城!? 血だらけじゃないか!!」
「ご、ゴリローが俺を鉄格子に叩きつけて、鍵を奪って逃げたんだ!! 西宮、博士に連絡してくれ。そして、追うぞ、ゴリローを!!」
「お、おう!!」
ウホ? ウホッホ、ウホッ、ウホッ、ウッホ。ウホ、ウホッホ、ウッホホ。
「な、速い。ゴリローのヤツ、どうやってロックを解除しているんだ?」
「まさか、俺達が警戒感を抱かないでパスの番号を口にしていたのを記憶していたと言うのか? だから嫌だったんだ、ゴリラに知性を与える研究だなんて!!」
「今更そんな事言ってもしょうがないだろうか、東城!! こうなったら、麻酔銃で眠らせて連れ戻すしかねえだろう。俺はゴリローを追う。お前は博士の所から麻酔銃を借りて来い!!」
「わ、分かった。西宮、無理だけはするなよ!!」
ウホ、ウッホッホ、ウホッ、ウッホォ!!
ウホ、ウホ。
ドンドンドンドンドンドンドンドン!!
「バカな、何を猛っているのだ? 地上に出て来たから、ゴリミングを始めるだと!?」
「月が見ているからだろうよ。後、ゴリミングじゃなくて、ドリミングな、東城」
「ふん、どっちでもいい。麻酔銃借りて来たぞ、西宮。ここからなら狙い撃てる」
「何カッコイイセリフを吐いちゃってんの? まあいい、狙い撃てよ。知性は高くなっているけど、運動能力は普通のゴリラと変わらないからな。幸い、こっちは風下。銃の匂いになど気付いていないだろうよ」
「フッ、発射」
「何でいちいち口に出しているんだ?」
ウホ!? ウ、ウ……ホ……?
「おい、麻酔銃借りて来たんだろ、東城? 何で腹を撃った筈のゴリローの背中が爆発してんの?」
「いや、俺は確かに麻酔銃借りて来たんだけど……、どうなってんの?」
「それは君が銃にどんな弾丸が込められているか聞かずに持っていったからだよ、東城君。君のおかげで私の研究がまた一歩後退してしまった。君の命で償えるなんてもんじゃない。ああ、あまりの怒りに眼鏡がずり落ちてしまいそうだよ」
パァン!!
「東城!? み、南方博士、あんたいったい何を……ッ!?」
「君も、簡単にゴリローを逃がすだなんて、まったく、生きている価値もないな。君など、いわばゴリラ以下だ。殺す価値すらないが、生かしておく理由もない。その命、神に返し……、否、悪魔に捧げたまえ」
パァン!!
「カスどもは生かしておく価値も理由も、意味もない。ああ、私の可愛いゴリロー。君がもっと成長していれば、世界に革命を起こせたかもしれないのに。苦しいかい? ワタシ特製の炸裂弾が入っていたからね、あの銃には。ああ、もう少し君の苦しむ顔を見せておくれ、ゴリロー。おっ、まだ、行動出来るのかい? 恐れ入ったね。やはりゴリラは、いや、私の特別製であるゴリローは普通のゴリラとは違うようだね。まあでも、流石に放っておけば死ぬだけだ。せめて、私が楽にしてあげるよ」
ウ……ホ……?
「君の犠牲は無駄にしないよ。君に行った実験をさらにグレードアップさせて、人間を凌駕する知性を持ったゴリラを、私は生み出してみせる。ああ、興奮で眼鏡がずり落ちてしまいそうだよ!! ゴリロー、君の事は、ずっと私が覚えておいてあげよう。そう、私が生きている限り、君という存在が本当の意味で死ぬ事はないんだよ。ああ、私という存在を認めなかった人間という名の屑どもが、私の作りだした最高のゴリラにひれ伏す瞬間を、私はいずれこの目に焼き付けてやるさ!!」
パァン!!
――――※※※※――――
目の前には、いつの日か、遠い昔に見た記憶のある、金髪の女の子。十歳くらいだろうか?
「やあ、目が覚めたかな? どうだった、転生を繰り返してみて?」
「ここは……?」
「転生の間だよ。君はなんだかんだ言って結構“徳”を積んできたからね。ま、私の作りだした転生システムの実験体になって貰っていたところもあるから、次の人生は、人間に転生させてあげるよ、どうかな?」
「転生システムの実験体だって? 俺が?」
驚愕の事実をサラッと告げられた。いったい、どういう事だ?
しかし、今の俺は、見た目は人間、か。あの時、雪菜に刺されたくらいの年齢だな、見た目は。まあ、でも、この方が便利だからだろう、今は。どんな意図があってこの姿になっているのか、聞く必要性はないな、うん。
「転生してすぐに前世の記憶を取り戻すんじゃなくて、暫く経ってから、ま、人間に例えれば十五、十六のあたりとか、大人になってから記憶を取り戻した場合にどんな行動をとるのかな、なんて思ってさ。子供時代とか幼虫時代とかには記憶が戻らないように頑丈に封印したんだよね、魂を。時限式で封印は解除される形にしてさ」
そういうシステムを構築できるなんて、凄いな。流石天使だ。
「でも、凄いよね、君。それまでの関係を壊してまで、女の子としか散歩したくないなんて、どんな変態ですか?」
「犬、シロになった時の話か。変態ではない。人間として当然だろう? 誰が好き好んで中年のオッサンに引っ張られて散歩に行きたいと思うんだ?」
少なくとも俺は中年のおじさんに首を引っ張られて散歩したいとは思わない。魂まで犬に成り下がったワケじゃないんだ。人は金で飼える、犬は餌で飼える。では、人間の記憶を持つ犬は、何でなら飼えるのか? ま、今更考えても仕方ないか。
「ところで、最後の転生、アレは何だ?」
「アレ? 何の事かな?」
何だか冷や汗をかいている。こちらから意図的に目を逸らしやがった。
「あのゴリラの事だ。記憶を取り戻した筈なのに、思考が乗っ取られたぞ」
途中から、自分が考えている事が全てウホウホ言っていただけになってたな。自分でもいったい何を考えていたのか、全然わからない。
「あのマッド・サイエンティストが人間を越える知性を持ったゴリラを研究してたからじゃないかな……? いや、いくら何でも天使である私が作成した転生システムをゴリラが凌駕するとは思わなかったよ……」
がっくりと項垂れる幼女天使。彼女からしても想定外の事実だったのだろう。
「ま、アレだよ、細かいことはいいんだよ、の精神で行こうじゃないの!!」
顔をあげた幼女天使は清々しい笑顔を見せていた。吹っ切れたのだろうか? それともカラ元気か? まあ、そう言われたら俺としてはこう返すしかない。
「そうか、だいたい分かった」
不満げに頬を膨らませる幼女天使。ふん、その程度で俺が怯むわけないだろう?
「むー。ま、いいか。ところで、君は記憶にある限り何度転生したかな?」
何度? 思い出せる分は思い出してみるか。
蚊、熊、蝉、G、犬、猫、猪、何かの魚、ゴリラ。
「九回、だな」
「そう、九回も転生したの……」
何事かを考え出す幼女天使。なんだろう、嫌な予感がする。
「青年、九つの世界を渡り、その瞳に何を見た?」
「嫌な予感って、だいたい当たるよね!!」
むー、とまた頬を膨らませて抗議の表情を見せる幼女天使。可愛い事は、可愛い。
「しかし、アレだな。何度転生しても腹がどうにかなるのはいただけなかったな」
「死に方が死に方だったからね。しょうがないんじゃないかな?」
前世(というか、人間時代)の死に方が強い影響を及ぼしていたと言うのだろうか。記憶に強烈に残る“死”って、嫌だね……。
「ま、こうしてここに呼び出してあげたのは私なりのサービスだよ。神代直斗君。今度は“よりよき生”を生きてね」
“よりよき生”とは、いったいどういう意味だろう?
そう思い、意味を聞こうと思った瞬間、俺の足元にポッカリと黒い穴が開いた。
「また、このオチかよぉーーーー!?」
ドリミングもゴリミングも、どちらも違うみたいですが、「細かい事はいいんだよ!!」の精神でお願いします。




