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序章~さらば、人生~

「え? 何で……? どうして……?」


 声に、力が入らない。どうして、こうなったんだろう……?

 腹からは、ナイフの柄らしきモノが生えている。おかしい、そんなモノ、ついさっきまでなかった筈なのに……。


直斗なおと君がいけないんだよ……? 私という女がいるのに、他の女に熱中しちゃうんだから……」


「な、何の事……?」


 見上げれば、僕を愛おしそうに見つめてくる雪菜と目が合った。どうやら、俺は今、雪菜せつなの膝枕を堪能しているようだ、腹にナイフを生やしながら。


「最近、いつも他の女の話ばっかりしているじゃない、井川いがわ君達とさあ……」


「い、井川達と? そ、それは、アニメやゲームの話……」


「エミリたん萌えトカ、イシュりんLOVEトカ、何で私の前で平気で他の女の子の話するかなあ……? 私の事雪菜たんだなんて呼んだ事ないのに。『シュテリアは俺の嫁』トカ言っちゃって浮かれちゃってさ。直斗君のお嫁さんになるのは私なんだから、他の女が嫁だなんて言われたくないね。だーめ、ぜーんぜん理解出来ないよ。直斗君はさ、私をこんなに夢中にさせたんだから、ちゃんと責任取らなきゃ」


「俺が好きなのは、せ、雪菜だけだよ。さ、三次元の女の子は」


「直斗君は、二次元の女も好きになったらダメなの。私だけ見ていればいいんだから」


 語尾にハートマークがついていそうなくらい、甘い声。おかしいな、俺が好きになった雪菜って女の子は、黒髪ロングの清楚な女の子だった筈なのに、ヤンデレの要素があっただなんて……。


「直斗君は浮気性だもんね。直斗君が他の女の子好きになるのは仕方ないよね。でもね、私は受け入れられないんだ、その事は。そしてね、気付いちゃったんだ、私。直斗君が他の女を好きになったりしないようにすればいいんだって。他の女に目を向かせなければいいんだって」


「がっぁあっ!!」


 その細腕のどこにそんな力があるのだろう? 雪菜はナイフの柄を掴んで、一息に引き抜いた、俺の腹から。

 腹から噴き出す赤い血。ピューピューなんて擬音が似合いそうだ。

 ああ、これは、助かりそうにないな……。


「直斗君は、生きている限り他の女の子に目移りしちゃうからダメなんだ。だから、永遠に私のモノにしてあげる。直斗君はこれから、私の中で生き続けるの。そう、永遠に、色褪せる事無く」


 そして、再度振り下ろされるナイフ。衝撃は感じるようで感じなかった。

 もう、目に光が入って来ない。それでも、雪菜の笑顔だけは見る事が出来た。感じる事が出来た。

 鮮血に染まったその笑顔は、とても綺麗だった。

 惚れた弱みというヤツかもしれない。

 何度か衝撃を感じたような気もしたけど、いつの間にか俺の意識は闇に閉ざされていた。






――――※※※※――――


「さて、ここは転生の間です。貴方には輪廻転生の輪に加わっていただきます」


 意識が再度浮上した時には、俺は真っ白な部屋に居た。

 目の前には、十歳くらいの翼を生やした金髪幼女。頭の上には光り輝く黄金の輪っか。まるで、天使と言ってもおかしくない位の美貌。ところで、何歳までが幼女と分類されるのだろうか? 魔法少女を名乗っていいのは、何歳までなのだろうか? 十歳くらいは幼女として分類してもいいのだろうか? そして、十歳くらいの見た目の幼女に対して美貌っておかしくないかな?


「混乱しているね、それは仕方ないよ」


「意識が読めるのか?」


 驚きだ!! 流石天使!! 可愛いだけではなかったのだな。


表情カオに出ているよ。『俺がロリコン趣味なら問答無用で襲いかかっているぜ!! 金髪幼女マジハァハァ』みたいな事を考えている表情だね、君の顔は……。通報しても、イイですか?」


 自分の肩を抱き、俺から距離を取ろうとする幼女天使。メンドクサイからもう天使でいいや。


「いや、そんな事思っていないから。俺は幼女趣味ないから。だいたい、俺が好きなのは黒髪ロングの清楚タイプだから。だいたい、通報するなんて、誰に通報するのさ? 神様? それとも、アレ? エインヘリアルみたいなヤツ?」


 生前英雄だった連中に襲われたらとてもじゃないが、生き延びる事が出来そうにない。……ああ、既に死んでいるんだっけ?


「話題が逸れたね。本題に戻ろうか」


「話題逸らしたの、あんただからな。俺じゃないからな」


「細かい事はいいんだよ。禿げるぞ!!」


「謝れ!! 頭髪の生え際を気にしている世界中の男に謝れ!!」


 なんて無駄な会話なんだ。禿げるなんて、とてもイイ笑顔で言いやがって!! まあ、俺は禿げないけどな!! 髪質的に。サラサラヘアーにもならないけどな!! 


「で、転生の間に来てもらった以上、貴方には転生してもらいます」


 まるで今までの話などなかったかのように事務的な口調になりやがった。まあいいさ、話を先に進めてやろうじゃないか。俺もまあ、いい大人だからな。


「で、どこ、転生先は? やっぱりアレ? 剣と魔法の世界的な場所でハーレム作っちゃうの、俺?」


「そんなワケないじゃん」


「え?」


「どっかのネット小説じゃないんだからさ、そんな甘っちょろい展開が待ち受けているワケないじゃない」


「orz」


「orzなんて口に出すヤツ、初めて見たよ」


「俺も初めて、人前で口にしたよ。……この場合は天使前?」


 どうでもいい事にこだわるな、俺。まったく無駄な行為だ。


「君にはこの世界で輪廻転生の輪に加わってもらう。えーと、君は最後に恋人に刺されて死んだマヌケだから……」


「マヌケって言うなよ!!」


「しかも、あー。ダメ、これ全然ダメ。“徳”をまったく積んでいないね、君は」


「“徳”?」


 人徳とか、そう言うヤツかな?


「うーん、まあ、分かりやすく言えば人間としてどれだけいい行いをしているかどうか、だね。君は……、人助けをしたとか善行をまったくと言っていい程行っていないからダメだね、これは」


「なんだよ、いい行いだって結構した筈だぞ!!」


「確かに、君は見ず知らずのおばあちゃんの手を引いて家まで送り届けたり、落ちていた財布の中身は一切手をつけずに交番に届けたりとか、いい行いも少しは行っているようだね。だけどね、ダメなんだ、その程度では。二次元の女の子に入れ込みすぎて課金プレイをやって廃人寸前まで行ったり、抱き枕カバーとか色んなグッズを買い集めた時点で君の“徳”はマイナス方向に振りきれていたんだよ」


「いいじゃんかよぉ!! 必死こいて働いた金で課金プレイする事の何がいけないんだよお!? そりゃ確かに廃人寸前まで行った事はあったけどさ!! 抱き枕カバーだって真っ当に働いて得た金で買ったんだよ!!」


「だけど、その分三次元の恋人に構ってやる時間とお金がなくなっていったね。デート場所が近所の公園でベンチに座ってボーっとしているだけとか、デートの〆が毎回立ち食い蕎麦屋とかないわあ……。あんた、女の子の事なんだと思っているの?」


「安いからいいじゃねえか、立ち食い蕎麦!!」


 思えばデートの〆が立ち食い蕎麦屋に変わったあたりから雪菜の目の色も変わっていった気がするな。アニメで言えばハイライトの消えた目とでも言えばいいか。ヤンデレとかじゃなく、主人公の筈なのに“魔王”とか呼ばれてもおかしくない目の色をいつの間にかしていたくらい変わっていた気もするな。


「マジキモい」


「ホントスミマセン」


 冷静になって考えれば、デートの〆に毎回立ち食い蕎麦屋はないな。うん、雪菜がおかしくなったのは俺のせいだ。


「まあ、しかしどれだけ阿呆な死に方をしていたとしても、君は輪廻転生の輪からは逃れられないよ。なんてったって天国に空席なんてないんだから。ああ、地獄には空席、いくらでもあるよ。地獄、いっとく?」


「いや、そんな『そうだ、京都行こう』みたいな軽いノリで言われても困るよ。地獄なんて行きたくない。現代日本で暮らしてきたもやしっ子の俺が地獄で生きていけるワケないじゃんか」


「どうせもう、死んでいるのに生きていけるワケがないとか、何言ってんの? まあいいや。次の人生、ううん、次の生では真っ当に生きて、“徳”を積むんだね。そして、いつかまた人間として生きてみればいいさ」


 何故か最後に優しげな笑顔を見せられてしまった。

 その笑顔は、どことなく雪菜の笑顔に似ていた。俺にとって、とても心安らぐ笑顔。



「ところで、次の生って何だよ? 俺は、人間に生まれ変われるんだろうな?」


「これ以上の問答など無用。ただ、サービスしてあげる。記憶を持ったまま転生させてあげる。ネット小説にありがちなパターンでしょ? 記憶を持つ事で、次はよりよき生を生きる事が出来るでしょう。さ、逝ってらっしゃい」


 極上の笑顔を目に焼き付けたと思った瞬間、俺の足元にポッカリと黒い穴が開いた。


「なんでこんなネット小説の転生の瞬間にありがちなオチなんだぁ!?」


 俺は叫びながら堕ちて行き、やがて魂が黒く塗り替えられるのを感じた。


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