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アイルツァーネの掟   作者: 獄炎の魔術師
第一章 アイルツァーネの掟
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動き出した若者達

「邪魔するよ。親不孝者はいるかい?」


バカでかい声が木造の家を震わせる。天井から埃が落ちてきそうなほど、木製の扉が勢いよく壁にぶつかる。俺は何時ものこととは思いつつも慣れないその声に戦きつつ、次に来る無理難題に備えるべく身をただす。


「へいへい、アネゴ。ここには俺しかござんせん」


緋色の長髪は少し前からずいぶんしなやかになった。なんでも、へイネスが王都から油を送ってきたらしい。そのときのアネゴの喜びかたは乙女とゴリラのコラボレーションとよべるほど恐ろしく、照れ隠しで肋骨にヒビを入れられるまで止まることはなかった。

アイツは何気なく送ったつもりだろうが、アネゴがそう受けとるには些か無理がある。アイツのこととなると直ぐに顔を赤くするような純情者だからだ。


「そうか、リーネちゃんにも会いたかったんだがな」


「妹はまだ寝てますよ。俺が留守の間に入った案件を朝まで処理してましてね。で、何の用です?またなにか壊しましたか?」


「失礼な。今回は割りと重大な案件だぞ」


「へー。アネゴ、一体どんな依頼です」


「聞いて驚くなよ、アルナス」


アネゴは得意気に鼻をならして迫る。


「王都の鉄、それも質の良い鉄を運搬してもらいたい!」


嬉々として振り上げた拳がズドンと木製の受付テーブルに降ろされる。メキリ、と嫌な音をたててわずかに軋んだ我が家の商売道具。切なさを感じること禁じ得ない。


「アネゴ、とりあえず修理代は後で…」


「すまない」


「まぁ、大した危険そうな案件でもないので受けますけど、俺は専業のアネゴと違って、真贋の目利き位しか出来ませんよ?」


「いや、それで良いんだ。既に鉄を買う算段はついているからな」


「ほほー。アネゴにしては手際が良いですな」


「殴り倒すぞ。まぁ、今回は大事な要請だからな。それでだが、鉄を売る商人が、こちらを田舎者だと侮って注文とは別のを出しかねない」


「なるほど、それなら極端に質の悪いものか、本物か程度で良い、と」


「そうだ、素人ならいざ知らず、お前なら真と贋の区別なら出来るだろう?」


「まぁ一応。しかし、なぜアネゴが行かないんです?」


「ちょっと難しいことが多くてね、まだまだ練らなきゃいけない部分を考えると、外に出るわけにはいかないんだ」


「そいつぁまた、大層な案件ですな」


幼馴染みの贔屓目かもしれないが、アネゴの腕は相当なものだ。村では敵う職人はいないし、王都の品と比べても劣らない品もあったりする。そんなアネゴが時間を要する依頼となると…


「村長からの依頼、ですかね?」


言葉の意味を理解して、アネゴは眉を潜める。


「依頼主の詮索は感心しないなぁ」


「おっとすみません。あくまでも幼馴染みとしての興味程度と考えてください。答えても答えなくても大丈夫っす」


おどけて返すと、アネゴはポリポリと頬をかき、言うべきか言わざるべきか、悩んでいた。


「んー、どこまで言って良いのかわからんが、そうだな。アタシの友達の依頼ってな感じかな…?あとは察してくれ」


照れ笑いを隠すつもりもないらしく、にへらとアネゴが笑う。察してくれとは言われたものの、アネゴが頬の緩ませるほどの友人なんて、俺は一人しか知らない。しかし、ヘイネスがアネゴに物騒なものを依頼するのは、前に会ったときの話し振りからして有り得ない。結局のところ、分からずじまいだ。


「まぁいいや。納期はいつです?王都からの往復なら、荷物の重さもあるから、二週間は最低でもかかります。幸い他の依頼はリーネでもできる簡単なやつなんで、明日にでも出発はできますが」


「急いでくれる分にはありがたいが、今回ばかしは慎重にやってくれて構わないよ。三週間くらいでどうだい?これ、依頼量ね」


ドスンと重みのある音が、目の前の布袋から鳴る。その音からして中身はかなり入っている。


「毎度ありがとうございます。それじゃあ、早々に準備をして、ゆっくりと行ってきますよ」


「任せたぞ、アルナス」


「へいへい」


俺の言葉を聞く前にアネゴは踵を返して去っていった。その足取りは軽く、はた目から見ても上機嫌を隠す素振りもない。

アネゴは金に無頓着だ、報酬の額の多寡で心境の変化などはしない。となると、やはり依頼されることに嬉しさを感じる人間でなければならない。そしてその人間がへイネス以外となると…?


「あの人、かな?」


何故、今ごろになってそれが必要なのかはわからなかった。が、アネゴにそれを求めても不思議はない。俺は推測もほどほどに切り上げて、大きく伸びをする。


「さてと、メシでもつくりますか」


起きてくるであろう奔放な妹のために、動くとしよう。それから、準備をはじめても遅くはない。


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