アルナスの憂鬱
王都の鉄は難なく手に入った。商人もこちらを侮ることなく品物を渡してくれたし、思った以上に速やかに用事が終わってしまったため、時間に余裕ができた。
本来ならば王都の華やかさに目を奪われ、その街並みを観光するのだろうが、気乗りしなかった。
ヘイネスのことだ。
肉親を一度に失い、その原因となった魔女を調べ始めた。村長に見つかればただでは済まない。止めるべきなのかもしれないが、そうしたとしてもアイツは止まらないだろう。
村長による専横。その散財と横暴は、親父の手伝いをしていれば簡単にわかることだった。
前女王の質素倹約を王族には守らせ、10人の村長は王都の品々を身につけ、女を買い、侍らすばかりだ。
そして、その斡旋をしているのが、自分の父となれば、反発しない理由がない。
親父は俺の反発を怒り、絶縁と他言無用を強いた。わずかでも噂が流れれば俺の首が飛ぶらしい。冗談じゃない。見知らぬじじいの都合で殺されてなるものか。
そんな思いを持っているからこそ、アイツには強くは言えないのだろう。同じ、と言えるほどのことではないが、俺も唾を吐きかけたい奴は同じなのだ。
物思いに耽っていると、いつの間にか王都の大図書館へついてしまった。ヘイネスの使いで色々取りに行ったのもつい最近。あの時のことを思い出して、何となく足を向ける。
「入館には許可証が必要ですが」
図書館の入り口で呼び止められた、声の方向へ向き直れば、どこかで見たことある顔だ。
「アンタは…」
「あっ、もしかして、ヘイネスさんの友人の…」
蒼く短い髪が綺麗に整えられ、毛先が少しだけ内側に巻かれている。
金細工の王立学校所属を示すバッチは胸元で輝き、黒のローブがよりいっそうソレを際立たせる。
丸い眼鏡をクイと直し、表情の少ない顔で精一杯驚いているようだった。
「ハハ、アルナスって言います。えっと、ユーリアンさん、でしたっけ?」
名前を呼ばれた彼女は小さく頷くと、俺の近くに駆け寄ってきた。
「アルナスさん、少し時間をよろしいでしょうか?」
「え?あー、どうしたの?大丈夫だけど」
「ヘイネスさんの調べ物についてのお話です」
「…なるほど、話を聞かせてくれないか?」
彼女は二つの返事で、俺を図書館の中へ招いた。




