漆黒の少女 三
「まだ体が痛むじゃろうて、薬湯じゃ。飲め」
塗り薬を施された後、シルフィは小さな木の器を持ってきてそう言った。本来ならば疑うべきなのかもしれないが、相手がなにか企んでいるなら、気を失っているうちにしてしまうはずだと自身を納得させ、されるがままに流されることにした。
「ありがとうございます」
「明日にでもまた体が悲鳴をあげるが、それは筋肉痛じゃから、安心せい」
ニヤニヤと笑うその顔は、まるでイタズラをした少女のような無邪気なものだった。
「あの、シルフィ…さん?質問しても良いですか?」
「答えないかもしれないが、許可してやろう。何じゃ?」
「ここは、森の中、ですよね?」
「おお、そうだとも。ここは森の中だぞよ?」
「一人で、住んでいるのですか?」
「たまーに一人ではなくなるがの、今回のようにな」
「…どうしてそんなに楽しそう、なんですか?」
先程から意味もなく笑顔が絶えないシルフィに、堪らず問いを投げる。答えない可能性があるならば、直接聞いても効果はない。様々な言葉の裏にある意味を捜す探さなければ…
「久しぶりに話せる相手が来たからのぉ、妾も胸が高鳴っているのじゃ」
椅子の背もたれに胸を預け、本来とは真逆の方向に座り、こちらを見ている。黒のローブが長くなければ、あられもないものが見えていたかもしれない。
「そう、ですか。すみません、軽装とはいえ、重かったでしょう…運んでいただいてありがとうございます」
「ふむ。まぁ苦しゅうないぞ」
そう言って再びニヤリと笑う。相手か何者か、それを聞き出したいこちらの意図が、シルフィにもわかっているようだ。
「ヌシは随分と聞きたがるのぉ、この前に来た奴はあたふたしてわめき散らすだけじゃったわ」
ありゃぁ、度肝が座っとらん。と、一切目線を逸らさずに話す。なにか品定めをされているようだ。
下手なことを喋らない方がいいかもしれないと、相手の出方を伺っていたが、やかてシルフィは、ふむ。と声をあげて立ち上がり、その小さな体を最大限まで僕に近づけて、こう言った。
「ヌシよ、1つ頼まれてはくれぬか?」
常闇のような黒い瞳は、先程までのふざけたそれではなく、外見とは不釣り合いの大人びた目をしていた。
「内容次第…です」
気圧された僕は、そう言うのがやっとだった。