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アイルツァーネの掟   作者: 獄炎の魔術師
第二章 フュリアーネのワガママ
16/23

漆黒の少女 二

「おいおいガキんちょ、俺らを、怖がらねぇとは大した度胸だなぁ」


野党の一人が両手に持っていたバケツを置き、短刀に手を据える。


「俺の好みじゃねぇが、なんせ女っ気のねぇ洞穴だ。需要はあるぜぇ?」


下品な笑い声をあげて少女に歩み寄る男。まずい。このままだと彼女は捕まってしまう。様々な疑問が残っていたが、それら一切を後回しにした。

咄嗟に足元にあった石を掴み、ダメもとで少女に近寄る男の後頭部へ投げつける。もとより投擲が苦手ではあったが、幸いにも男の背中に石が当たり、小さな悲鳴をあげる。


「逃げろ!」


そう叫ぶと、少女は僅かに僕の顔を見て、無表情のまま森の中へ消えていく。その方向に迷いはなく、森を知っている人間だと分かった。ならば、あとは注意を引き付ければ良い。


「いてぇなぁ…おい。ぶっ殺すぞ」


「男か、身なりもそこまで良くないし、人質にはならねぇだろうな」


少女に逃げられたことへの怒りか、先程とはうってかわって静かな怒気をはらませている。

緊張が走る。背筋に汗をかく。何の考えも無しに飛び出したは言いが、そのあとのことはなにも考えていなかった。ならば。


「じゃあな。またくるよ」


三十六計逃げるにしかず。踵を返して一気に駆ける。男たちの怒号が飛び交い、仲間を呼ぶような笛が鳴り響く。

まずい。僕は瞬間、多くのことを考えすぎた。

このまま野党を連れて村へいけばそのまま戦闘になる。準備のできていない村に招けば、被害は甚大だ。

両親の眠っている場所へ行けばその場が荒らされる。かといって、それら二つの場所意外で逃げるには、体力がもたないだろう。森に身を隠しても、援軍が期待できない以上、見つかるまで時間の問題になる。


要は、運ですべてが決まってしまうのだ。


「くそっ!」


思わず悪態をつく。少女を助けたことにではない、日頃から体を鍛えていなかった自分にだ。後悔と反省と打開。それらを考えながら闇雲に走りすぎた。


「あっ」


自分でも間抜けな声が出たと思った。茂みを軽く飛び越えようとした先には、地面など無く、人の身長の数倍はあるであろう小さな崖が出来ていたのだから。


悲鳴をあげる、手を広げ、目下にある木の枝に捕まろうと力を込めるが、そんな身体能力があるはずもなく、派手な音をたて枝葉を折りながら、地面に叩きつけられる。強烈な刺激と痛みに、僕の意識は消えていった。


――


目を開けると、見知らぬ天井の景色が広がっている。

今にも朽ち果てそうな黒ずんだ老木が天井を覆い、今が昼なのか夜なのかすらわからなくさせている。


なぜ自分は見知らぬところにいるのか。それを確かめようと体を起こそうとするが、いうことを効かない。体のいたる部分に違和感を覚え、手首を見てみると、草や蔦で巻かれて固定されていた。頑丈そうには見えなかったが、どうやってもちぎることはできなかった。


「なんじゃ、起きたのか」


四苦八苦していると、部屋の出口らしき扉が開き、黒い何かがそう喋った。目を凝らしてみれば、先程逃げていった少女だった。彼女の体躯では不釣り合いなほど大きな木の杖を持ち、左手で抱えているバスケットには山菜や薬草らしきものがあった。


「まったく…考えも無しに飛び込んだこともさることながら、地形の把握もしとらんとは、ヌシは阿呆か?それとも馬鹿か?」


こちらに全く顔を向けずに、淡々となじる。あまりの正論に返す言葉もない。


「すまない」


「まぁよい。ヌシのおかげで妾も大した労力を使わずにすんだ。これで貸し借りは無しじゃ」


僕の寝ている隣で、木の実と薬草をすりつぶしてなにかを作っている。


「幸い、草木の精霊が身をもってヌシを守ってくれたおかげで、大きなケガはない。妾にかかれば半日よな」


外見から言えばまだまだ子供のそれであるが、漆黒の少女は、その言葉遣いと身振りのせいか、老練な印象すら持った。


「助けてくれて、ありがとうございます。僕はへイネスと申します」


起きたばかりで思考も働かないこともあり、僕はなぜか敬語を使い話す。それを聞いた少女は、初めて僕の方に顔を向け、やがてニンマリと笑った。


「妾はシルフィじゃ。よう覚えておけ。人間」


なぜ気を良くしたのか分からないが、彼女の様々な言動に、僕はわずかな疑問を持ち始めていた。

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