完全無欠のメイド
アイルツァーネの中心にある城。フュリアーネはヘイネスと話した後、まっすぐにこの城へ戻り、ある人物と会っていた。
「無理は百も承知よ。でも、良ければ力を貸してほしいの」
誰かに聞かれては大変と、フュリアーネは自室に彼女を招いていた。
「姉姫様。畏れ多くも、私がどういった者で、どういった仕事をしているか、ご存知ですよね?」
「ええ。私の自慢の妹の自慢のメイドですもの、充分に理解しているつもりよ」
それを聞いて、彼女─ヒルダは呆れたと言わんばかりに嘆息した。フュリアーネはデジャヴを感じながらも、必死に説得を試みる。
「そうです。メイドは常に主人の側についていなければなりません。ですので、申し訳ございませんが…」
「その間は、私の専属の者をリアーネに遣わそう」
「でしたら、その専属の者を引き連れて行けば良いではありませんか」
「少し指を切っただけで目眩を起こす娘たちだ。彼女たちは適任ではない」
「私、遠回しに冷徹な人間だと言われた気がしました」
「不快に感じたのなら謝る。だが、適材適所だ。あまり君のことを見てきたわけではないが、独特のたくましさがある。きっと戦力になるはずよ。お願い。頼まれてくれない?」
王女の懇願に、思わずたじろいでしまうヒルダ。現状を先ほど聞いたが、ここで断れば、この姫は二人でも強行するだろう。それを知っていて、断るというのも罪悪感があるのか、無茶な要求にも、きっぱりと拒否できずにいた。
やがて、観念したのか、短く息を吸い、軽く天を見上げる。
「いくつか、条件付きでしたら、考えます」
その言葉に、華のような笑顔で応えるフュリアーネは、さながら誕生日にプレゼントをもらった子供のようだった。
「まず、リアーネ様に許可をいただきたいです。ですがこれは、リアーネ様の性格を考慮すれば二つ返事でしょう。なので、もう一つ。これは必ず守っていただきたいのですが…」
「わかった。こちらも無茶なお願いをしているのだから、必ず守る」
「ありがとうございます。では、その無茶な要求ですが
早くに終わらせたいので、最低二日、早ければ一日で済ませてください」
事も無げに、表情も変えず、ヒルダは言い切る。さすがにフュリアーネは若干凍りつき、あれこれと思案している。
「わ、わかった。では、もう一人の協力者に伝えておく。多分、いや、絶対大丈夫!アイツもいるし、私もそこそこはできるはずだからね!」
確証はないものの、なんとかなると言い聞かせる王女にも、ヒルダは全く動じない。
「姉姫様。その、もう一人の協力者にお伝えください。野党相手なら、私は十人分くらいは引き受けます。と」
そう言うと、リアーネの許可を取りに行くと言い残し、ヒルダは部屋から出ていった。
「もしかして、彼女は想像以上に凄いのか…」
フュリアーネは、ヒルダが自分の力量以上のことを言っているとは思えなかった。それがために、その言葉の真偽を考えざるを得なかった。
「三人…か。なんとかなる。いや、なんとかさせる…」
右手に力を込め、自身を鼓舞させる。開いた掌には、いくつかの豆の後、その努力の証を彼女は自信に変える。
不安を払拭させ、顔を上げれば、いつもと変わらない王女フュリアーネになる。彼女は盗賊を撃退するために、再び準備を始めるために、ヘイネスの家へと走り出した。