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アイルツァーネの掟   作者: 獄炎の魔術師
第二章 フュリアーネのワガママ
13/23

青年はされど彼女のために

「なるほど、な」


本来ならば、先に述べたように、盗賊には村の大人を召集して自衛と退治するが、魔女の森が近ければ、もしものことを考え、慎重になるのも頷ける。父さんとマリアのこともあっただけに、村人も消極的になるだろう。しかし…。


「おかしな話じゃないか。盗賊がそこに滞在し続ければ、魔女様の怒りに触れることだってあるだろう」


魔女との契約が不可侵であるならば、村人ではないとはいえ、盗賊を排除するのはこちら側の義務と考えられる。魔女にへつらう村長ならば、排除に躍起になってもおかしくはないはずだ。


「私もそう反論したが、村には関与していないことを説明すれば大丈夫だと、頑なに否定されてしまった」


「全てはあいつらの勝手…か」


「…すまない」


「謝ることじゃない。で、僕以外にこの盗賊の騒動に手を貸してくれそうな人はどれくらいいるんだ?」


彼女には人望があるようだから、軽く二桁はいるだろうと目論見、何気なく聞いてみたが、反応が予想外に鈍く、申し訳なさそうに手をまごつかせている。


「まさか…」


「すまない、まだ、誰もいないんだ…」


「…まぁ、報酬のない命のやり取りだ、関われないことは仕方がない、か」


「それぞれに事情があるだけに、強く協力を頼めなくて…。君も、断ってくれても良い。これは私のワガママのようなものだからな」


「馬鹿を言うな。盗賊の根城は、家族が眠っている場所にも近いんだ。こんなところにうろつかれていては僕が迷惑なんだ。都合が良いから協力させていただくよ」


「良いのか!?でも、場合によっては怪我じゃすまないのよ?」


「戦いは数ではなく知略だ。兵法知らずの烏合になら、僕の生兵法も通じるだろう。作戦の立案はこちらでさせていただくぞ」


「あぁ、そこには異存はない。もとよりそのつもりだったし…」


「現状で二人、か。盗賊の勢力は分かっているか?」


「現在判明しているのは15人前後だ」


「ふむ。そうなると、二人ではきついな。フュリアーネ、一人だけでも、腕のたつ人間を誘えないか?」


「村の人で信頼できる者にはあらかた断られてしまって…」


「城の中ではどうだ?」


「城にはあまり私の味方はいないが…」


あっ。と、彼女は何かを思い出したように顔をあげる。


「ヘイネス。受けてくれるかどうかはわからないし、腕利きかどうかも未知数だが、一人、有力な人間を思い出した。今すぐ掛け合ってみるわ」


「わかった。じゃあ、その返答次第で作戦を練る。悪いが二人の場合は、追い出せるかも怪しいから、頑張ってくれ」


「えぇ、早速、行ってみるわ」


言い終わるか否か、彼女は勢いよく出口へと駆け出す。そのまま遠くへ行くのかと思いきや、ふと、扉の前で立ち止まり、こちらに振り返った。


「ヘイネス。ありがとう」


面と向かって礼を言われ、僕は思わず気恥ずかしくなりそっぽを向く。


「こっちだって困ってたんだ、お互い様だろ?」


「それもそうだが、君が居なければ、私はどうして良いかわからなくなっていただろう。だから、やっぱり、ありがとうなんだ」


「…そういうのは、無事に事が成った時に言え。まだ早いぞ」


素っ気なく返していると、彼女はクスリと笑った。


「君に会えて、知り合うことが出来て、私は嬉しいよ。これからもよろしく頼む」


今度こそ、弾かれたゴムのように、勢いよく飛び出し、余韻も残らないままに静かになった。

まるで白昼夢を見たかのような突然の出来事に、されど心は冷静に、現状を把握する。


「なんでこんなことしているんだろうな…僕は」


わからないのは、僕の気持ちだけだった。

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