魔女と盗賊
古来、魔女は外在するモノとの交信で、その力の多寡を計る。
魔女の力は性質こそ違えど、その力を得る方法は同一であり、主に契約、主従によって威力を発揮する。
例えば、火の神サラマンダーと契約を交わせば、現界にある火を中継して、魔界にある炎を召還することが可能になる。
しかし、これだけであれば単に魔法使いでしかない。魔女の定義はやや曖昧ではあるが、その魔法を一定以上の威力に高めていること。また、転生や契約によって、数百年の間、生き続けている人間を指すことが多い。
しかし、これらのことは実在する魔女からの情報ではなく、伝説や伝記に登場する魔女の性質であり、現在において、魔女を目撃したという情報はない。最新の記述でも80年前のモノであり、中身も眉唾物だ。
パタン、と読んでいた本を閉じ、僕は自室の天井を見上げる。覚悟はしていたが、やはり魔女に関する情報を文献で集めるには無理があった。
アイルツァーネの村長ですら、魔女には不可侵の約束を取り付け、詮索を禁止しているし、王都での生活では、魔女と言う単語が出てくるのはおとぎ話や大道芸くらいで、既に空想上の生き物として扱われている。
そもそもが時代遅れの存在なのだ。神話のようなお話を情報として仕入れても虚しいだけである。
「調べるには、直接出向くしかない…か?」
しかし、森への警戒は厳しい。なんの勝算もなく足を踏み入れるにはリスクが大きすぎる。
「まずは、魔女の森の地形から調べあげるか…」
些細なことが状況の打開に繋がることは珍しくない。大事なことは手を止めないことだ。そう自分に言い聞かせて、今度はこの村の地図に手を出す。
チリン、チリン──
入り口の方から鈴の音がなる。最近、あまりにも僕以外の人間が出入りするので、来客が分かりやすいように着けておいた。
その音を聞いて、すぐさま読み漁っていた文献をまとめ、木箱に隠す。木箱を机の下に入れ、部屋の入り口からは見えないように置いた。
来客者が誰か。それを確認するために、自室を出て居間へ向かう。
夕食の準備にはまだ早く、昼食時としては遅すぎる。つまり、アリッサやリーネちゃんが来る時間としては適切ではない。では、誰だろうか?
「やぁ、ヘイネス。すまないが盗賊退治に参加してはくれまいか?」
爽やかな笑顔に気品を添えて、美しい金髪を軽く束ねていたフュリアーネは、僕を見つけるなり、とんでもないことを言い出した。