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4、計算外の後悔

「……おおぅ…………」



 少年が疾風のごとく放ったはしの衝撃で、その被害者である壁が無惨にも崩れ去る。……あれ?

 おかしいなぁ……。お箸 (それも一本)で、壁って……粉砕出来るんだったっけ? 確か、かなり頑丈な造りのはずなんだけど……おかしいなぁ……



「……次は、外さない……」

「ぁの…少年、…君はそのっ……もしや……っ」



……僕の命的なもの、ねらっ…てる…?

 いやいやいやいやいやいや

 まさかねッ!! だってまだ会ったばかりだし、そんな……



「……悪いが…早めに終わらせてもらう……」



 殺される。終わらされちゃうわコレ。それに、どうやらお急ぎの様子だし!! ま…マジですか……



「おおお終わらせるッ…て…! えっえっ……何故っ…そのような事に……?!」

「……さすがに、食べながら眠り込んでいるのは…良くないから………」



 早く起きたい。少し困り顔で、そう呟く少年。

 違うよっ!? 確かにそうかもしれないが、そうじゃない!!


 ウウム……どうやら少年は、未だここが夢の中だと信じ混んでいるようだね……よほど今の状況が、その【毎夜見る夢】とやらに似通っているのかな?……なんとマニアックな! 人族ならば召喚される夢など、そうそう見ないだろうに。もしや予知夢を見た……とか? 【世界で最も強い者】なのだとすればそういう能力があっても何ら不思議ではないし……いや、今は考えるよりも、とにかく落ち着いてもらうのが先だよね! 



「ぇえっとようするに……目覚めに至るには、僕を倒さなくてはならない……と少年は言いたいのかな……?」


 少年は何処かためらいがちにゆっくりと一歩踏み出し、僕は二歩足を引いた。ヤバイ、墓穴掘っちゃったかも……!


「……目の前の【敵】を消し去るまで、俺は【ここ】から目覚める事が出来ない……いつものパターンだ……」


 なにその恐すぎるパターン。何故この子は凄い無表情なんですか。緊迫感パねぇよ。何人殺ったの? ねぇ、今まで眼力だけで何人殺っちゃったのッ?!!


「ふおぉ……っ」

「………悪いな……」


 少年よ、そう思うのならばやめてくれ。

 あまりの無表情ぶりに恐れおののいている間に、少年は投げていないもう片方のお箸を構えたまま、こちらへと走り出していたわけですが。勿論、凄い迫力で。



 うはぁどうしよう! とにかく……とにかく少年の動きを抑えないと……ッ


「ぐっ……?!」


 脳がグラリと揺れる……というか、全身に上手く力が入らない……!?

 ああ、なるほど……召喚に想定以上過ぎる程の魔力と体力を費やしていたようだよ! これでは抑える所か、攻撃を避けることすら……!!



「魔王様ッッ!!」

「まおーしゃまっ!!」



――!? ウルフにゴブリンじゃないかッ!!

 さっきまで空気と化していた二匹は、僕のピンチに勇敢にも飛び出して来てくれたのだろう――なんという事だ!! 嬉しい! が、二人(二匹?)が危ないッ!!



「ウルフッ!! ゴブリンッッ!! 早く逃げるんだッッ!!! 他の者達にも避難を……ッ!」

「ウルセェェェッッ!! 惚れた奴が危ねぇ時に……キャワーンッッ!?」

「え? 何? 今なんて……あ! ウルフーーッッ?!!」


 何かカッコいい事を言おうとしていたような気がしたけどやっぱり違うかもしれないウルフはキメ顔をたもったまま、少年にポーイっと飛ばされてしまった……ぷるぷる震えながらも、赤ちゃんパンチを繰り出すゴブリンもウルフ同様、ポーイッと飛ばされる。

 さいわい……と言うべきか、どうやら二匹共気を失っているだけのようで、取り敢えずは無事そうでよかったよ……しかし、何故なのかな? てっきり僕らの事、殺る気満々なのかと思ったのだけど……違ったのだね!!

 そんな淡い期待も、少年の眼力の前でははかないものだと思い知る。正直チビりそうだよ。



「……例え夢の中でも、無駄に怪我は……苦しませたくはない……だから、一撃で……仕留しとめる」




 少年は僕を見据えた。






******************




……なんていうのかな。

……うん、強いて言うならば

『これだァァッッ! それ以外ないッッ!! もうやるしかない…ッッ!!』

何て言いながら、はっちゃけまくってたあの頃の自分を、僕は全力でぶん殴ってやりたい。


 大体さ? 思えば初めから間違った考えだったんだよね、ほら……強い者を召喚しちゃえばいいじゃんって言ってたやつ? これで解★決★的な??

……ないよね。もはや正常な判断が出来ない状態だったとはいえ、この発想はまずかった。

 【召喚】ってのは聞こえは良いし、少々カッコつけて言っちゃってるけどさ、冷静に考えてみればこの行為って……誘拐と一緒なんだよね。……更に、誘拐した理由が強敵を倒してもらう為って辺りがもう……極悪非道な行いっていう、世にも恐ろしい話。



 そりゃあ天罰も下るってもん………――ガシャーーンッ!!――



「ふぎゃぁぁッッ!!?」


 妖艶な美女の石像に、少年の振るったお箸……とは名ばかりの凶器が突き刺さる――危なかったッ!! ギリだよ!! ギリ避けたよッッ!!



「……すばしっこいな……」

「ぃっ…命懸けだからねッッ!!」

 少年とのリアル鬼ごっこを開始してから、約3600秒といったところか………………死んじゃうよッ!! 僕を亡き者にする気かいッ?!!……する気なのだろうけどさ。



「……そろそろ観念してほしい……」



 や、確かに勝手なことをして悪かったと思ってる! だけどさ!! 僕の話も聞いて!! お願いだから!!……言いたい。

 しかし、ただでさえフラフラな上、【世界で最も強い者】に城中追い掛け回された僕の口から出てくる言葉と言ったら、ハヒハヒ、ゼイゼイ、呼吸を整えることに必死なのさ。ははっどうしよう!!

 せめて……せめてもう少し、魔力と体力を回復出来る時間を稼げれば!!……というか少しは回復しているのだろうか? むしろ磨り減っているような気がするのは、ちょっとした気のせいだと思いたい。……思いたい。



「…っ………」



 んぉっ……?

 急にどうしたのだろう? 怪訝そうな表情で、ここに来た時と同じようにゆっくりと辺りを見回す少年。壁や柱、目につくあらゆる物をペタペタと触ったり箸で突っついたりしている……



「……………」



かと思って見ていると、今度は目をつむり何やらぶつぶつと呟きながら腕を組んでピタリと動かなくなる少年。…………恐いよ!? 



……あれ? チャンス?! チャンスか!!? 逃げるなら今しかない??! よっしゃぁッッ!!!



 自身の回復を待つ為、気づかれぬようにそっ……と、僕はその場を去った―――

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