3、噛み合わない
※以前、2話として出していた話ですが、こちらの勝手な都合で3話とさせて頂きました。申し訳御座いません!!
「……(もぐもぐ…)」
「………」
さて、…どうしたものか…
こちらに気付く様子もなく、今も尚お食事をとり続けているイケメン君…もとい、少年。
フム…話しかけて、邪魔しちゃったら駄目だよね…? だって大切なお食事中だし!!
…いや、それ以前に話しかけるにしたって…なんと声をかければッ?!
「うぅ~…んっ?」
今だ床に突き刺したままにしている、魔剣の柄に添えていた僕の指に伝わる僅かな振動を感じて、何気に魔剣に視線を移す。
…ビックリした。
だってね?…箸が、つまんでいたんだ…刃の部分を。
…何のって? そりゃ僕の魔剣のさ。…ナチュラルにつままれております。
「ちょ…っあの…?」
…これ、僕の魔剣なんです、おかずじゃ…ないよ?!
…おそらく、少し前(召喚されて来る前)までは、この辺にご飯のおかずが置いてあったのだろうね。うん、本当に悪いことをした!!
取りあえず…それは食べ物ではないよ、と思いを込めて、箸の先端を見つめる。こうしたら僕の念が箸をつたって、少年に伝わるかもしれない事を信じて。やっ、てか、召喚された事も含めて、伝わって!! なんとなくでもいいからさ!!
「………?」
僕の念を感じ取ってくれたのかどうかはさておき、これはおかずではないと気付いたらしい少年は、つまんだ箸はそのままに、不思議そうにゆっくりと顔を上げた。
――目、合うよね。
魔剣を隔ててるとはいえ、目の前にいるんだもん(しかも両方座ったままで目線ほぼ一緒)。これ当たり前の現象。
少年はもぐもぐを止めた。
「…………」
「…………」
――うん、これ程までに気まずい思いをしたのは生まれて初めてだよ……どうしよう。誰か助けて。
「………誰だ…?」
「!?」
――少年が少しだけ戸惑った様子でそう呟いた時には既に、僕は後ろに大きく飛び退いて、少年から距離を取っていた。
――…何が起こった…?!
…いや、何も起こっていない筈だ。少年はただ箸で刃をつまんだだけ。それだけだ、…ただ、それだけの筈なのに――
「…これは一体…?!」
何がどうなったのか僕にもよく解らないんだけどね、なんていうのかな……これ……
……魔剣の刃のところに【ひび】、入ってるんですけどぉぉッッ?!!
ちょっと待って! ちょっと待って!? ちょーーッッ!!? あり得ないってェェッッ!!!!
だってコレ、魔剣だよッッ??!
魔王しか使えないっていう…結構アレな大剣なんだよッッ?!!
実は粘土で出来てるんですぅ~じゃ、ないんだよぉぉぉ!!?
僕が大いに混乱している間にも、座ったままゆっくりと首だけで辺りを伺う少年。…この落ちつきよう…なんという大物っぷりなんだい。
なるほど…! この肝の座り具合から見るに、どうやら【世界で最も強い者】というのは、この子で間違いはないようだ! 箸で大剣にひび、いれたしねッ(笑)!!←もう笑うしかないね!
僕は離れたところに座る少年に、改めて向き直った。話しかけるなら、今だッ!!
「しょっ…少年よ!」
―緊張のあまり、声がひっくり返ってしまったよ…!? 恥ずかしい! 最悪だ!! よし! 一旦落ち着こうッ!!
深呼吸をして、さあ、もう一度。
「少年よ!……いきなり召喚などという非道徳な方法で、このような所に喚んでしまった事…先に謝罪する!
本当にすまないね…。とても驚いただろう?」
「…召喚……?」
視線をさまよわせていた少年の緑の瞳が、やっと僕へととどまる。
……ん?…アレ…?
なんだろ、この…ひどく懐かしい…感覚…?
…以前どこかで会ったのかな…? フム……
……いや、それはないか! こんなに眼力が強い子なら、一度会えばさすがに忘れないだろうし!!
僕は取りあえず、考える事を止めた。
「状況説明の前に一つだけ聞きたいのだけど……君は【人族】かな? それとも【魔族】?
あっもしくは、両血の混ざった【人と魔の子】かい?」
――まずは、ここを聞いとかなくちゃいけない。
【あの勇者】の暴走を抑えてもらうには、この問いはとても大切なものなのだよ!
「魔族…?…ここは……」
「んっ?」
何かを考え込むようにご飯を一口、口に運ぶ少年…何故だい?!
もぐもぐもぐもぐ…
…取り敢えず、待ってみようか。
「……これは…いつもの【夢】…か…?…食べている最中に寝たのは…初めてだな…(もぐもぐ)」
なるほど! 確かに…この少年が【人族】だとすれば、召喚される事などそうそう無いだろうからね…この状況を夢の中だと錯覚してしまう事もあるのかもしれない。
おっ?…という事は、少年の正体は【人族】で決まりっ!…でいいのかな? 間違ってない??
「えと…少年は人族かな……?」
「…………」
「…………人族……」
「…………」
「…………人族……です…か……?」
返答が無い事に恐怖を感じて、半ば泣きのはいった僕の様子に少年は少し困ったのか、小さく『……人間ではある』とだけ答えてくれた。
……初めて会話が成立した瞬間だっただけに、嬉しさと安堵でつい顔がほころんでしまう。
「やはり人族だったか!
フフフ…僕の推理(?)に狂いはなかったのだね!」
「…人族ではない……【人間】だ……」
「えっ?」
少年が何か小さく呟いたようだけど、僕はそれを聞き取ることが出来なかった。
聞き返そうとする僕に、それよりも、と少年が続ける。
「……俺もずっと…聞きたかった事がある…」
『ずっと』? それはここに召喚されてから、という事なのかな?
少年は真っ直ぐに僕を見つめた。
「…お前が【この夢の中】に現れたのは、初めてだと思うが…何故、毎夜俺は…【この世界】の夢を見る…?
何故この世界で…俺は……」
そのあとの言葉が出てくることはなかった。
……いや、そんな中途半端な……凄く気になるんですけど……
「…少年の言う、【毎夜見る夢】というのは正直、僕には何の事だかサッパリ解らないのだけれど……君がそこにいる現在は、紛れもない現実であるのは確かだよ。
要するに、これは夢でも幻想でもない…【魔王】である僕が、君を召喚したんだ。」
「………………」
「……えっ?! なっなんだい…?!
どうしてそんなに怪訝な顔で、僕を見つめるのかなっ…!??」
すぅぅんっげぇぇぇ疑わしい目で見られてるよぉッッ?!!
ちょっ……眼力、怖いって!!!…ヤベっ…僕なんか泣きそう……!!
その間にも呆れたように小さくため息をつく、どこまでも落ち着いた少年。
「……お前が【魔王】であるはずがない……何故、そんな嘘を言う……?」
なっなんですとッ?!!
まさかの嘘つき呼ばわりとは……!
僕はうるうるしながらも、反論を試みた!!
「っ嘘など言っていないっ!!
かれこれ500年も前から【魔王】をやっているんだ、少年も一度くらいは僕を見た事があるだろうッ?!!」
「無い。」
えぇ~~~~~~っ
「…俺の知っている魔王はもっと…ゴツくて狂人な…いや、…それ以前にこれは…俺の【夢の中】だけに存在する世界だろう…?
俺は夢の中の住人ではない…。
……この世界に名はあるのか……?」
「何を…言っているんだい?!
この世界の呼び名など【タ・ルマ】以外無いだろう…?!
さっきも言ったけれど、ここは君の【夢の中】ではなく、正真正銘の…」
「…この夢の世界の名は【タ・ルマ】というのか…やっと呼び名が出てきた……」
「いやっだから…!」
しばらくの間、こんな調子でお互い微妙に噛み合わない会話を繰り返したのち…僕の中にふと、ある可能性が浮かんできた。
――もしやこの少年も…【あの勇者】が話していた…ここではない、何処かに存在するとかいう【異世界】の住人なのか……?
…それを僕が召喚して、この世界に……?!――
いや、しかし……そんな事があり得るのだろうか?
「少年! 君の住む世界とはっ…」
しかし、少年は聞いていなかった。
「…何にしても…お前が【魔王】の仲間だと言うのなら……」
――ドスッッ!!――
「えっ……?」
気がついた時には、僕の顔の真横にある壁に、赤い棒…箸が突き刺さっていた。
…は…い?!!
「俺は…いつものように……【敵】を倒すのみだ……でなければ、俺は…この夢から目覚める事が出来ない………」
立ち上がった少年の眼は、超が付くほどマジだった。
……ちょっ…僕、どうなっちゃうの……?!