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汗と努力のオトコノコのお話(3)

 あーるぴぃじぃ5話目そのさん。レベルとスキルが目に見える世界で、笑顔がステキな頼りになるオトコノコの、みんなに隠していた秘密のお話。

「……なんかローソクみたいで地味だな。せんせのみたく、ボッって派手に燃えないのか?」

 しばらく見続けた後で結局そのまま変化がないことに飽きたのか、タカシくんがつまらなそうにそう言ったけれど、あたしは空いた口がふさがらなかった。

 ……これって、いったい、何が起こってるの?

 だって、どう見たってタネも仕掛けもない。

 なのに、榊くんは、この炎にタネも仕掛けもあるのだという。

 わからない。わからない。わからない。

 何も無い空中で、芯もなしに、一体何が燃えているっていうんだろう。

 こんな真近で見ても、何が燃えているのか、何で燃えているのか、さっぱり見当もつかない。

「どうやら、新ヶ瀬あらがせさんには驚いてもらえたようだね」

 さかきくんがニヤリと笑いながら右手を炎の灯った左手に重ねるようにして、パンと打ち鳴らした。

「これが僕の、手品という名の魔法。もう一度言うけど、今のにはタネも仕掛けもある。別に何か特別な不思議な力で空中に炎を生み出したわけじゃなくて、物質が激しく酸化するときに起こる、ただの化学的な燃焼という現象だよ」

 言いながら榊くんはタカシくんをじっとみつめた。

「高橋は、魔法ってなんだと思う?」

「不思議な力だろう?」

 タカシくんが即答する。

「いま僕が見せたものは、高橋には不思議な力にはみえなかったかな?」

「だって、タネも仕掛けもあるんだろう?」

「なら、そのタネや仕掛けはわかったかい?」

「わからない……けど。タネも仕掛けもあるのは、俺、魔法じゃないと思うぞ」

「高橋が欲しい魔法がどういったものかはだいたい知っているけれど、それにしたって何らかの法則にしたがって行われる力なんじゃないかな? たとえば魔力と呼ばれるような精神的な力を使って、呪文と呼ばれるようなある種の技術のようなものによって行使される現象なんじゃないかな?」

「……よくわからないや」

「それは、自然法則に従って科学、あるいは化学バケガクという知識、あるいは技術に従って行使される現象と、どこに違いがあるって言うのかな?」

「難しい話は、俺、わかんねーよ」

 タカシくんは、榊くんの話がよくわからなかったらしくて不機嫌そうに不満の声を上げたが、あたしは榊くんがあたしと似たようなことを考えてるんだなって、ちょっと面白いと思った。

「じゃあ、さっき僕がタネも仕掛けもあるっていったのがウソだと言ったら?」

「え?」

「えっ?」

 ……本当は、タネも仕掛けもない、ホンモノの魔法だってこと??

 とまどうあたし達をよそに、榊くんは二歩ほど後ろに下がって距離をとった。

「それでも、高橋はさっきのを魔法だとは思えないか?」

「委員長ごめん……。さっきのがタネも仕掛けも無い本当の魔法だったとしても、それはたぶん、俺が欲しい魔法じゃないし、神原が欲しかった魔法でもないと思う」

 タカシくんはそうつぶやいて、それからはっとしたように口に手を当てた。

「い、今の聞かなかったことにしてくれ!」

 慌てるタカシくんを見ながら首をかしげる。

 みっちーが魔法を欲しがってるって、どういうこと?

 すごくちっちゃいころならともかく、まさかあのみっちーが未だに魔法少女に憧れているとか。えー、まさかー?

「だいじょうぶ。ここにいるのは関係者だけだし、僕はだいたいの事情はわかっているから。もちろん誰にも言ったりしないよ」

 榊くんはまったく驚いた様子もなく、爽やかに微笑んでいた。

 ……その微笑が、あたしには妙に怖いものに思えた。

「委員長くん。なんで、そんなに、何でも知っている風なのかな? あたし、タカシくんに事情を聞いたのかと思ってたんだけど」

 ぶっちゃけた話、あたしは親友の美知子に聞いただけの話しか知らない。まさか、美知子本人から詳しい事情を聞いたとでも言うのだろうか。

 タカシくんを見ると、彼はふるふると首を左右に振った。

 教室にいたときもなんだかずっと黙っていたようだし、タカシくんが事情を話したわけでもないらしい。

「ひとつだけ、タネ明かしをするよ。なんで僕が、高橋の事情を知っていたのか、新ヶ瀬さんが関係者だと知っていたのか」

「まさか、それも魔法で知ったとかいうんじゃないだろうな、委員長?」

 タカシくんがむっとした顔で榊くんにつめよろうとして、榊くんが手で制した。

「もう一度念のために確認するけれど、これから僕が言うことは二人の胸の奥にしまっておいて欲しい。それから、もしかしたら君たちの怒りを買うことになるかもしれないから先に謝っておくね、ごめん。これに関しては、僕を許す必要は無いよ」

 言いながら、榊くんはもう二歩ほど下がってあたしたちから距離をとった。

「僕は、常にいくつかのアビリティを使用している。”虫の知らせイヤナヨカン”と”その場の雰囲気クウキヨメ”、それに”事情通ジゴクミミ”」

 さらに下がって、榊くんは屋上のフェンスに背を預けた。

「さらにいくつかのアビリティを併用することによって、僕はこの学校の、とくに僕達のクラスに関しては大概の事情を把握している」

 ”その場の雰囲気クウキヨメ”はその名の通り「なんとなくその場の雰囲気を読み取ることが出来る」アビリティで、”事情通ジゴクミミ”は「些細な情報から全体を把握することが出来る」アビリティだ。

 どちらも交流系のスキルに属するアビリティで、習得に多少のコツは必要であるものの、それ自体はそれほど珍しいものではないし、特定の親しい人はいないらしいとはいえ、委員長くんのようにたくさんの人と交友があるひとは、自然と習得してしまうものなので、委員長くんがそれらのアビリティを習得していること自体は意外でもなんでもなかった。

 ……だけれど、それら「複数」のアビリティを「常に使用し続けている」というのは少し異常だった。

 アビリティの複数同時併用っていうのは、簡単なことじゃない。

 例えて言うならば、右手で空中に四角形を描きながら左手では空中に三角形を描き、同時に右足で三拍子のリズムをとりながら左足で四拍子のリズムをとるような状況をイメージしてみると、その難しさがわかるんじゃないだろうか。

 さらには、現実の世界はゲームじゃないので、別にアビリティを使用するのにMPというか何か精神的な力を消費したりはしないしないのだけれど、先にあげた例のような複雑なイメージを「常に」行っているというのは、どう考えたって尋常じゃない。

「委員長くん……何のために、そんなことを?」

「……」

 あたしの問いに、しばらく榊くんは答えなかった。

「僕は正義の味方になりたかった。高橋が魔法使いになりたいと叫ぶように、僕はヒーローになりたいと思い続け、そして限定的ながら現実的に人の役に立てているんじゃないかと思ってる」

 あたし達に背を向けて、フェンス越しに校庭を眺めながら榊くんは言った。

「他人に相談し難いことをそれとなく察して相談にのったり、問題になりそうなことを大事になる前になんとかするためには、とにかく情報が必要だったから、僕は手段を選ばなかった。でも、僕のやっていることは他人のプライバシーを無視した、ただの覗き屋でしかないのかもしれない」

 委員長くんが他人にレベルやスキルを公開しないのは、そういうことをしていると他人に知られたくないから、ということみたいだった。

 正直に言って、雰囲気だけでみっちーとタカシくんの関係まで把握しちゃうようなアビリティを常に使用しているというのは、気持ちが悪かった。気味が悪かった。このぶんだと、あたしが普段妄想しているような、ちょっとえっちな考えまで完全に見透かされているように思えて、恥ずかしくなった。

 委員長くんはこちらに背を向けているし、服が透けて見えるわけでもないのに、何となく両手で胸元を隠したくなってしまう。

「……なんで、あたしとタカシくんにだけ、そういうことを教えてくれるの?」

 あたしの問いに、榊くんはしばらく黙っていた。

「……自分のしていることに自分では確信をもっていても、それが他人から見たら必ずしも正しいことではない、というのはいくらでもあると思うんだ」

 委員長くんはこちらに背を向けたまま、どこか遠くを見つめている。

「それをわかっていて、それでも誰かに認めて欲しいことがある、ということもあるんじゃないかな」

「あたしとタカシくんなら、委員長くんのやっていることを認めてくれそうだと思ったって、そういうこと?」

「いや、そうじゃなくて、単に個人的な感情だよ。認めてくれそうだから、と言うわけではなくて、勝手を言ってすまないけれど、高橋と新ヶ瀬さんには認めて欲しいという希望かな」

「なぁ、委員長。よくわからないんだけど、それって俺達と仲良くなりたいって意味なのか?」

「……うん。そうだね。そういうことになるのかもしれない。君たちが僕のことを許して、認めてくれるのならば」

 言いながら、委員長くんはようやくこちらに向き直った。

「……どうかな?」

 その、ひどく不安を中に隠した微笑は、いつもの爽やかな笑みとは違ってとても人間らしかった。

 誰も待ってないかもしれませんが大変お待たせしました。また中途半端なところで終わりですが。

 ……なんだか非常に迷走しまっくてます。何も考えずに妙な「引き」をやっちゃったせいでぐちゃぐちゃになってきました。(4)に続く予定ですが、方向性変えて全面的に書き直しするかもしれません……。

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