汗と努力のオトコノコのお話(2)
あーるぴぃじぃ5話目そのに。レベルとスキルが目に見える世界で、笑顔がステキな頼りになるオトコノコの、手品という名前の魔法のお話。
この世には、レベルとスキルという概念が見に見える形で存在する。
さらにはレベルやスキルを上げることで得られるアビリティなんていう、いわゆる特殊技能と呼ばれるような特殊な能力なんかも存在する。といっても、はっきり言うとビリティと呼ばれているものは大抵の場合少々の練習や訓練で身につけることができるものがほとんどで、実際の所はたいして特殊でも特別でもなかったりする。
例えばあたしも習得している”目覚まし時計”というアビリティは、眠る前に指定した時間に目を覚ますことができる、というものだ。それなりに規則正しい生活をしている人間なら、別にわざわざ特殊技能だなんて呼ぶほどのこともない。
ただ、アビリティと呼ばれる概念が”特殊”であるのは、それが「使用する」と意識したら「必ず発動する」ことがあげられる。
”目覚まし時計”を例にあげると、どんなに規則正しい生活をしていても、普段と違った時間に起きるのは少し難しいものだし、ひどく疲れているときに一時間だけ寝て起きようなんていうのもすごく難しく、ついつい寝過ごしてしまいがちだけれど、このアビリティを使用した場合には、「必ずその時間に目を覚ますことが出来る」。
こういうところは、ちょっと特殊なのかなって思う。
目を覚ましても、二度寝しちゃうと意味なかったりするんだけどね……。
魔法を使えるようなスキルやアビリティは存在しないんだけれど、ある意味でスキルやアビリティという概念自体を成り立たせているもの、それが魔法なんじゃないかな、って考えることがたまにある。レベルやスキルといった概念が存在することは観測によって科学的に証明されてはいるものの、「ではなんでそういった概念が存在するのか?」と言われると、存在することは証明されているけれど「なんでそんなものがあるのかということ自体」はさっぱり謎だったりするのだから。
難しい話になるけれど、例えば重力だったり磁力だったりという不思議な力は、極論すると「自然法則がそうなっているから」物体と物体が引き合うわけだし、磁石のS極とN極が引かれ合っちゃうわけで、「じゃあなんでそもそもそんな力が存在するのか?」って聞かれても答えられる人はまずいないと思うし、物質とはなんぞやーとかエネルギーとはなんぞやーとか、そういうわけのわからないところまでいっちゃって、結局のところ科学と呼ばれているものだって魔法と称されるモノと大差ないような気がしてくるのは、あたしだけの変な考えじゃないと思うのだけれど。むー、どうなんだろう……。
頭痛くなってきたので閑話休題。何度かアビリティというのはたいして特殊でも特別でもないと言ってきたけれど、世の中には「それって超能力なんじゃ?」と思えるようなアビリティも実は存在する。
誰でも体験しがちな例をあげると、例えば”虫の知らせ”というアビリティがある。これは習得していれば、意識的に使用しようと思わなくても何か良くないことがおこりそうなときに自動で発動するアビリティで、「なんとなく危機を知らせてくれる」。
科学的には積み重ねた経験から、普段と何か違うことを敏感に感じとってそれが予感という形で現れるものだとか言われているらしいけれど、この虫の知らせというやつは自身に限らず親類や友人知人の危機まで「なんとなく」察してしまうというところが超能力じみていると思う。
あたしは”第六感”といったアビリティや、ほかにもいくつか同系統の超感覚と一般的に呼ばれるようなアビリティを好んで習得しているのだけれど、自分が超能力者だなんて勘違いしたことはないし、思ったことも無い。
……でも、もしかしたら、あたしが普通だと思っていることってもしかして他人から見たら魔法みたいに思われてたりするんだろうか。
「……あたしが、魔法を使えるってどゆこと?」
さわやかな笑みを浮かべる委員長くんに問いかけると、榊くんは小さく微笑んで「言葉通りの意味だよ」と言った。
「いや、あたし、魔法なんか使えないんですけどっ?」
多少なりとも手品の知識は持ってはいるものの、魔法の知識なんて持っているわけが無いし、当然使えるはずもない。
……ないはずなんだけど。いや、ないってば。……ないよね?
「いや委員長、俺も知りたいぞ。それどういうことなんだ?」
タカシくんがあたしと榊くんの顔を交互に見つめる。
「長々ともったいぶっちゃって悪いんだけど、まずは僕の魔法を見てもらおうかな。そのあとでいろいろと説明した方がわかりやすいと思うから」
言いながら榊くんは肘を折り曲げて両手を肩の高さで上げた。それから、両手のひらを裏表にして手に何も持っていないことを示す。
「最初に言っておくけれど、僕の魔法にはタネも仕掛けもある」
「え、それじゃ魔法じゃなくて手品じゃん」
タカシ君が不満の声を上げたが、榊くんはそれに「まあ、見てて」と小さく笑って返す。
「二年生になったときの、HRで、」
榊くんは左手をぐっと握り締めて、手の甲を地面に向けた。
「あのとき、矢野先生が見せてくれた魔法、覚えてるかな?」
「ああ、炎の魔法か、あれすごかったなー。委員長、あれやるのか?」
「みんなびっくりしてたけれど、新ヶ瀬さんだけは、驚いてなかったよね?」
いきなり話を振られて慌てる。
「え、え? うん、だって手品だってすぐにわかったし。あたしタネ知ってたから……」
っていうか、なんであの状況であたしのことなんか見てたんだろう、委員長くんは。
「えーっ! あれ、手品だったのか? 俺ほんとの魔法だって思ってたのに!」
「先生の手品を見破ったその目で、僕の魔法を見て欲しい」
榊くんが、今までの爽やかな笑みとは違って、ニヤリ、といった感じで微笑んで、そっと握り締めた左手を広げると。
――彼のその左の手のひらには小さな炎が浮かんでいた。
大きさはライターの炎と同じくらいなのだけれど、何も燃える物も無い空中で、その炎はじっと灯り続けていた。
目の前ほんの二十センチもない真近で、その炎はわずかな風に揺られながらも消えることなく彼の手のひらの上に在り続けた。
(3)まで行きます。(4)までいっちゃうかも……?
最終的な分量によってはひとつにまとめるかもです。中途半端をさらしてすみません。