汗と努力のオトコノコのお話(1)
あーるぴぃじぃ5話目そのいち。レベルとスキルが目に見える世界で、笑顔がステキな頼りになるオトコノコの、汗と努力のお話。
給食を食べておなかいっぱい! 今日はあたしの好きなクラムチャウダーで大満足でした。
ぷっはーと満足のため息を吐いて、こないだ”目覚まし時計”を覚えたし次は何のアビリティ習得しようかなーって、お昼休みにスカウターをいじっていたら、とある事件によって落ち込んでしまったクラスメイトの高橋貴志くんの相談にのるクラス委員長の榊俊夫くんの姿が目に入った。
あたしの席からだと声はよく聞こえないものの、どうやら最近落ち込み気味のタカシくんを心配して榊くんが声をかけた様子だった。
多少なりとも事情を知っているあたしとしては気になるところではあったものの、榊くんに任せとけばきっと、まぁ、いい感じに落ち着くところに落ち着いてくれるんじゃないかなー、と完全に傍観者な気分でスカウターをいじっていたのだけれど、ふいにタカシくんと榊くんがあたしの方を見たのでちょっとびっくりした。
「……?」
スカウターをいじる手を止めて見つめ返すと、タカシくんがふいっとあたしから視線をそらした。
あれ、なんだろう? あたしの話でもしてたのだろうか?
首をかしげていると、榊くんがあたしに向かって小さく手招きをした。
「新ヶ瀬さん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいかな?」
「え、なに?」
以前、委員長くんには宿題でお世話になったし、何かできることがあるなら喜んで手伝いたいとは思うのだけれど、タカシくん関係だと親友のみっちーとの関係もあって何でも協力できるとは限らないのでどーしようかと迷っていたら、榊くんはあたしの沈黙を肯定と受け取ったらしく、事態は勝手に進行していってしまった。
「じゃ、場所を変えよう。高橋もいいかな?」
榊くんがそっぽをむいたタカシくんに声をかけたらちいさくうなずいたので、なんだかよくわからないもののやっぱりタカシくん関連なのだろうとわかった。
うむー、どうしたものか。
教室の中を見回してみたが、みっちーはいないようだった。
「じゃ、ごめん。悪いんだけど、ちょっとだけ付き合ってくれる?」
榊くんのさわやかな笑みになんだか断るタイミングを逃してしまって、あたしはなんだかすっきりしないままではあったものの、つい「うん、いいけど……」とうなずいてしまった。
……委員長くんの事情に巻き込まれるとも知らずに。
あまり人の目がない所の方がいいよね、という榊くんの後を、あたしとタカシくんは黙ってついて行った。どこに行くのだろう、と思っていたら榊くんはどんどん階段を登っていき、なぜか持っていたカギで屋上に通じるドアを開けた。
屋上は普段立ち入りが禁止されていて、カギがかかっている。
榊くんはなんでこんなとこのカギなんか持ってるんだろう……?
先に入るように促されてあたしとタカシくんが屋上に出ると、後から入ってきた榊くんは後ろ手にドアを締めて言った。
「……だいたいのことはわかってる。だから、今さら深い事情は聞かないよ」
「……」
タカシくんはそれに無言で答え、そしてあたしは何がなんだかよくわからなくて首を傾げてしまう。
あれ、もしかして何か勘違いされちゃってる? あたしは当事者じゃないんだけど……?
いや、この流れだともしかして委員長くんはあたしがタカシくんにナニかしちゃったと勘違いしてるんじゃないだろうか。
なんとなく榊くんにはそう思われたくなくて、あたしは慌てて声をかけた。
「えーっと、あの、委員長くん。あたし、タカシくんの事情には関係ないと思うんだけど?」
「でも、無関係じゃないよね」
そう答えた榊くんは、なぜか確信ありげだった。
「別に新ヶ瀬さんが、高橋に何かをしたと言ってるわけじゃないよ。でも、君は何があったのか知ってるんでしょう?」
「えーっと、はい。……おおまかなところは。具体的にナニやったのかはシリマセンけど」
親友のみっちーが、タカシくんを(性的な意味で)襲っちゃったってことは本人に聞いて知っているけれど、具体的にナニをどーやったのか詳しい話は聞いていないので、やっぱりどっちかっていうとあたしは無関係なんじゃないかなーって思うのだけれど。
「知っているのなら、関係者だよね」
さわやかな笑みを浮かべて、榊くんが屋上のドアに外から鍵をかけた。
本来屋上は立ち入り禁止で、なんで榊くんが鍵を持っているのかも不思議だったのだけれど、さらには誰もいない屋上にあたしたちを閉じ込めるようなことまでするのが不可解だった。
「委員長……くん?」
不安にかられて思わず一歩あとずさる。
おかしいな、榊くんってこんな、何も説明せずに他人を巻き込むような人じゃないと思ってたんだけれど……。
「ねぇ、いったい、何をするつもりなの?」
「ごめんね、新ヶ瀬さん。屋外でないとまずいのと、ここなら誰の邪魔もはいらないし、誰にも見られないから」
「……っ?!」
誰にも見られたくない、ってこんなとこでなにする気なんだろう。
……ちょっとー! ちょっとまってーっ! な、なにされちゃうんだろうあたし。
ど、ど、どうしよう。お昼休みだし校庭にも何人かひといるし、たすけてーとかおっきな声でさけんじゃった方がいいのだろうか。
初めてが学校の屋上とかなんかマニアックなとかいやそーじゃなくてさいしょが三人でとかうわーうわーうわー。
どうしよう、どうしようってピンクな妄想を頭から追い払おうとしながらじりじり後ずさっていると、榊くんがタカシくんをじっと見つめて言った。
「高橋、さっきも言ったけれど、僕は君の悩みを解決したいと思っている」
「……」
「君が自分の夢を否定されて、落ち込んでしまっているのはわかっている。だから、僕は君にひとつの道を示そうと思う」
「……」
「僕は君に魔法を見せてあげられる。ただし、それは君が望んでいる魔法とはおそらく違うものだろうと思う」
「……」
「それでも君が望むのであれば、僕が君を魔法使いにしてあげよう」
え、えー? 魔法使いですと?
あれ、あたし、なんかハズカシイ勘違いしてる?
「ちょっと、榊くんそれどういうことっ?」
「ごめん、新ヶ瀬さんはちょっと待ってて」
「……」
むー。ナニがなんだか鮭ワカメ。
「何も説明せずにこんなとこに連れて来てごめんね、新ヶ瀬さん。でも他の人がいるところで詳しいことを話すわけにもいかなかったから」
「えーっと、あの、とっても不安なんですケド? まず、なんでこんなとこにあたし連れてきたのか教えてくれない、委員長くん?」
「その前にひとつ約束してくれないかな。これは新ヶ瀬さんだけじゃなくて高橋もなんだけど、これから僕が言うこと、やること、全部、誰にも秘密にしてほしい。いいかな?」
榊くんの言葉に、タカシくんがぴくりと反応した。
「……なぁ、委員長も俺に何か変なことするのか?」
「君の心配していることは、しないと約束するよ」
「それ以外のことはするのか?」
「する、かな。たぶん僕は、君の価値観を壊してしまうと思う」
「……それは、魔法使いになる夢をあきらめさせる、ということか?」
「いや、さっきも言ったけれど、僕は君が魔法使いになりたいのであれば、その夢を叶えてあげられる。それが、たぶん君が望むものじゃないだろうということさ」
「よくわからないけど、わかった、約束する。誰にも言わない。委員長の魔法、見せて欲しい。その上で委員長の言う魔法使いになるかどうか決める」
榊くんはタカシくんの言葉に満足そうにうなずいて、それからあたしをじっと見つめた。
「新ヶ瀬さんは?」
「えーっと、あたし、何がなんだかさっぱりよくわからないんだけど?」
あたしが首をかしげると、委員長くんはさわやかな笑みで言った。
「もう、ほとんど事後承諾に近くなっちゃっているけれど。これから僕が高橋に見せる魔法を誰にも秘密にしてほしいってことだよ。出来れば僕が魔法を使えるだなんて言っていること自体を秘密にして欲しい」
「それはかまわないけれど、なんであたし呼ばれたの? タカシくんに魔法見せるのにあたしが何の関係あるのかなって……」
タカシくんに見せたいのなら、なんでわざわざあたしを立会人というか呼び出したりしたんだろう?
「ごめん、新ヶ瀬さん。それを説明する前に、かまわない、という曖昧な了承でなくて、ちゃんと”約束する”と言って欲しい」
「……えーっと。はい、約束します。委員長くんが見せるという魔法のことを誰にも言いません。秘密にします。これでいい?」
何も説明せずに連れて来て、約束だけ無理強いされるのはなんだか嫌な感じだったけれど、たぶんあたしが言わないと何も話が進展しないような気がしたので了承する。
「ありがとう」
「で、説明してくれる? あたしまでこんなとこに連れて来た理由」
えっちなことをする目的だったりしたらどうしようどきどき。
……なんてちょっとイケナイ妄想に半分ほどとりつかれていたら。
「簡単なことだよ。まず君が高橋の事情の関係者だった、ってことと、それから……」
委員長くんはさわやかな笑みを浮かべてあたしをじっと見つめた。
「この学校で唯一、君だけが本当の魔法を使えるから、だよ」
……なんですと?
委員長君の事情編開始です。「笑顔がステキな頼りになるオトコノコのお話」の直接的な続きになります。いろいろお待たせして申し訳ありません。いい感じにまとまらないのでついにはサブタイトルに(1)とかつけるハメになってしまいました……。
1万文字程度にはなりそうなので、たぶん(3)くらいまでいきそう? (裏)みたいに一気に見せたかったのですが1ヶ月以上もかかっているので書きあがった分だけ小出しにすることにしました。(裏)は直し含めても三日くらいで書いてるのにままならないものです。……やっぱりエロいのはパワーが違うのか。
これまで書いた後書きが全部ウソになっちゃってるので先のことは予告しないようにしときます。