不器用で現実主義者のオンナノコのお話(裏)
あーるぴぃじぃ3.5話目。レベルとスキルが目に見える世界で、魔法少女になれなかった不器用なオンナノコとお馬鹿なオトコノコのお話。
※性的な表現がありますのでご注意下さい。
いろいろ考えたのですが実際に書いてみたら思ったほどは危なくはならなかったので公開することにしました。ぎりぎりR-15で収まる範囲とは思いますが、問題があればこの3.5話を削除することにします。
みっちーさんこと神原美知子さんの一人称になります。
※2011/01/17 かなり加筆修正しました。
わたしは「馬鹿」が嫌いだ。夢物語を現実のように語り、できっこないことをいつまでも信じているような「お馬鹿」はもっと嫌いだ。具体的に言うと、わたしのクラスにいる「お馬鹿」である高橋貴志のことが大嫌いだ。
タカシでなくてバカシって心の中では呼んでいるくらいだ。
バカシのやつは、ふざけたことに「魔法使い」を目指している。それも、「三十までドーテーを守りぬいたら魔法使いになれる」だなんて、馬鹿なことを心から信じ込んでいる。あんなものはただの不名誉な称号に過ぎず、三十過ぎたからって何か魔法が使えるようになるようなものではないのに、ただそんな馬鹿なことを純粋に信じ込んでいる。
クラスの皆は、そんな「お馬鹿」な彼のことを生暖かい目で見守ることに決めたようで、その空気にはわたしも逆らえずに、彼に直接「そんな馬鹿なことを信じるのはやめなさい」とは言えなかった。かといって、バカシのやつをクラスの皆のように生暖かい目で見守ることも、どうしてもわたしには出来なかった。
それは降ったばかりの新雪に足跡をつけたくなるような、キャベツ畑やコウノトリを信じる女の子に保健体育の教科書を突きつけたくなるような、そういった下卑た感情では無いと思うのだけれど、わたしは、どうしても、バカシのやつに現実というものを思い知らせてやりたいと思うようになっていた。
だって、彼は、バカシのやつは、ただ「魔法使いになりたい!」と叫ぶだけで、魔法使いになるための努力をまったくしようとしないのだ。かれは三十歳になる日をただただ早く来ないかなーと待ちわびるだけで、現実的に何か魔法的な力を身につけるための努力をまったくしようとはしなかったのだ。
わたしがどれだけバカシのやつに腹立たしい思いを抱いていたのかを理解してもらうのは、少し難しいだろうと思う。あなたがかつて本気で魔法というものに憧れていたのなら、少しはわたしの気持ちを理解してもらえるのではないだろうか。いや、魔法でなくてもいい。例えばサッカーがうまくなりたいなーと言いつつまったく練習をしようとしない人物に対して、必死で練習をしている人が感じる感情。わたしが感じていたのは、そういう物なのだと思う。
……わたしはかつて、「魔法少女」を本気で目指していた。大きくなった今では、いかにレベルやスキルといったものが目に見える形で存在する世の中ではあっても、「魔法」だなんてそんなものが存在しないことは理解している。魔法少女にだなんてなれやしないことは、嫌になるほどわかっている。でも、だけれど、世の中にレベルやスキルというものが存在するということを初めて知ったとき、わたしがなりたいと思ったのはその当時テレビで放送されていたアニメのヒロインであり、魔法を使って悪を倒す魔法少女だったのだ。
そのアニメのタイトルは、「魔法侍少女ともえ☆ストライク」という。正直、ある程度熱が冷めた今となっては、幼少期に見るにはあまり相応しくない内容のアニメであったように思う。何しろ魔法と少女の間に侍の文字が入っている通り、主人公ともえが魔法のステッキと言う名の日本刀で悪いやつを文字通り真っ二つにするアニメだったのだから。
不思議な白い獣に導かれて魔法のステッキ(と言う名の日本刀)を手にしたヒロインは、次々と襲い掛かる様々な悪者達を次から次へと一刀両断にしていった。
戦いの途中で利き腕を失い、最後の戦いにおいては残った腕さえも失って、口にくわえた魔法のステッキで最後の敵の首を刎ねるシーンはアニメ史上に残る名シーンだと思うのだけれど、あまりに壮絶なシーンであったため懐かしのアニメ特集などではめったに放送されないのが残念ではある。
このアニメにおいて魔法というのはいわゆる剣による必殺技のような形で揮われることが多く、そのほとんどが攻撃的なものだったが、わたしはその中でもヒロインのともえが使う炎の魔法が気に入っていた。右手でステッキを振るい、左手で魔法の火球を放つのが初期のともえのスタイルで、わたしはよく右手に棒切れを握って左手で魔法を撃つ練習をしたものだった。
作中でヒロインのともえが利き腕を失ってからは、左腕でステッキを振るうと同時に魔法を撃つスタイルになり、魔法というより必殺技に近いものになっていたが、幼心にはむしろそちらの方がわかりやすかった。わたしは棒切れをぶんぶんと振り回し、その風を切る音が何らかの魔法的な力を生むのではと何度も想像し、いつかそれが炎となることを夢見たものだった。
「どんなすきるをあげたら、ともえちゃんみたいになれるのかな?」
不思議な力で悪を倒し、人々を守るその力に憧れるのは、誰もが幼少期に一度は通る道だと思う。わたしは無邪気に母親にどうしたらアニメのヒロインのようになれるのかを尋ね、一緒に考えてくれた母親と共によく「魔法の修行」をしたものだった。
魔法のステッキを剣にして敵を倒すヒロインに憧れて、剣道の真似事をはじめたり、あるいは彼女に魔法の力を与えてくれた謎の超自然の存在を探しに出かけたり。母に魔法少女はニンジンもピーマンも残さないと言われれば頑張って食べたし、片づけをきちんとしない子には魔法は使えないと言われればすぐに部屋を片付けた。
それは存在しないものを追い求める行為で、結局のところ魔法を得るのに何の成果を結ぶことも無かったのだけれど、今にして思えば母のわたしに対する教育やしつけとしてそれはなされ、その意味ではそれなりに成果をあげたのだろうと思う。小さい頃は魔法の修行という言葉でごまかされていたけれど、今のわたしは自分の意思で幼い頃からの習い事を続けているし、そう仕向けてくれた母には感謝もしていた。
ごまかされていたことに気がついてからも、わたしは自分で「どうすれば魔法を使えるようになるのか」を考えていろいろ実践をしていた。しかし、いつまで経っても魔法を使えるようになる手段はわからなかったし、むしろ、そういう物が世の中には存在しないのだという証拠ばかりが目に付くようになっていって。
……魔法なんて、この世に存在しないんだということをはっきり意識したのは、たぶん小学校に上がって間もない頃のことだったろうと思う。
それをどのようにして意識したのはよく覚えていない。
ただ、なんとなく、ふと、何かから目が覚めるように、ああ、わたしは魔法少女にはなれなかったのだな、と思ったのを覚えている。
なれない、ではなく、なれなかった、なのがずっと不思議だったのだが、うちのクラスのバカシを見ていて、つい最近その理由に思い当たった。たぶん、「魔法使いになんてなれない」という、そんな当たり前で現実的なことに気がつかなかった「お馬鹿」な者だけが、魔法使いになる資格があるのだろう。
わたしはきっと、「魔法なんて存在しない」という現実を見てしまったから、魔法少女になる資格を失ってしまったのだ。
この世には、レベルとスキルという概念が見に見える形で存在する。
とはいえ、それはあくまでもこれまでその人が生きて来た人生の経験を目に見えるような形で表しただけのものであって、ゲームのように簡単にレベル上げをしたりスキルをつけたりはずしたりできるような物ではない。
スキルを上げることによりアビリティと呼ばれる特殊技能を得ることも出来るが、それはあくまでも「少し訓練すれば誰にでも習得可能な技能」であって、せいぜい「片手でタマゴを割ることができる」とか「目覚まし時計を使わなくても指定した時間に起きられる」といった程度のものであって、超能力や魔法といった特異な能力の存在は科学的に否定された。
レベルやスキルといったものはスカウターと呼ばれる機械によって調べることができる。また、スカウターにはどのくらいのレベルで、どのくらいスキルをあげればどういったアビリティを得られるかといった予測する機能のようなものもあるため、スカウターは幼少期に買い与えられるのが普通で、成長とともに個人的なデータの蓄積と傾向的なものにより補正が行われどんどん正確に予想できるようになってくる。
わたしの親友のマイこと新ヶ瀬舞子などは、たまたま曾祖母が亡くなって間もない頃に生まれたとかで、曾祖母のスカウターを受け継いだらしい。遺伝的な情報というものはスキルの取得やアビリティの取得にかなり密接に関わってくるらしく、かなり正確な予測ができるため亡くなった親族のものをそのまま使うのはよくあることだった。
……正直、少しマイのことがうらやましかった。
わたしが母から買い与えられたスカウターは、当時わたしが好きだったアニメのヒロインが持っている魔法のステッキの形をしていた。完全な新品ではあったが、一応ライブラリにスキルやアビリティの情報は入っていて、また形は子供のおもちゃであっても機能自体は大人が使用するものと変わらず、データの互換性もあった。とはいえまっさらの新品であって、次にどんなアビリティを習得しようかと悩んでも、候補は驚くほど少ししか表示されず、悔しかったのを覚えている。マイのリストには百を超える候補が表示されるのに対して、わたしのリストにはほんの二つか三つしか表示されなかったから。わたしは、魔法を使えるようになるために有効なアビリティを習得したかったのに、わたしのスカウターの予測リストには、ろくなものが表示されなかったから。
買い与えられた当時は、大人になって死ぬまでずっとこのステッキを使い続けるのだ、と思っていたものだが、今のわたしは携帯電話と一体化したカード型のスカウターを使っている。
幼い頃使っていたステッキ型のスカウターは黒歴史として、今では苦い夢と一緒にわたしの部屋の押入れにしまいこまれていた。……あの日までは。
バカシのやつを試してやろう、なんて少し思い上がったことを考えたのは、親友のマイに「あんたタカシのこと好きなんじゃないの?」という馬鹿なことを聞かれたのがきっかけだった。
それは自分があきらめてしまった夢を、いつまでも無邪気に信じ込んでいるバカシに対する妬みのせいなのかもしれなかったし、単純に、ほんの少しだけ、「もしかしたらあいつのことを好きなのかもしれない」と思ってしまったせいなのかもしれなかったが、それにしたってわたしの考えてしまったことはたぶん、同じ年頃のオンナノコとしては少し異常な考えであったろうと思うし、実際にその考えを実行に移すのにもためらいがあった。
……あいつのドーテーを奪おう、だなんて。
バカシのやつは、三十までドーテーを守り抜いたら魔法使いになれると思っている。
ならば、あいつのドーテーをわたしが奪ってしまったら。あいつは、どうするのだろう。
それでも、「お馬鹿」なあいつは魔法使いを目指そうと思うのだろうか。それともわたしのように現実に妥協してしまうのだろうか。
単純に、それを知りたい、と思った。思ってしまった。
実際にどこまでやるのかは別として、わたしはそのための計画を立て始め、すぐにそれをするために必要な資料と道具を用意した。綿密に計画を練り、何度も頭の中でシミュレーションを繰り返し、どんな状況にでも対応できるように心構えをした。
バカシのやつに身体を許すということに対する抵抗は、自分でも意外だったのだが思ったほどは感じなかった。それよりも無理やりに迫ることによって彼にどう思われるのかということと、いざコトに及んだ後にどう彼に接しようかということだけを悩んでいた。なにしろ、たとえわたしから見てどんなに馬鹿らしいものであったとしても、彼の夢を奪おうというのだから。それも、無理やりに。
アイツは、怒るだろうか。わたしのことを憎むだろうか。
それとも開き直って、わたしとの初体験に溺れてくれるのだろうか。そうなってくれればいいと思うと同時に、アイツは絶対そうならないだろうなという確信もあった。
……結局のところ、わたしは何がしたいのだろう。
だんだんとよくわからなくなって来る中、準備は着々と進み、結局のところその結論はでないまま決行の予定日になってしまった。
放課後、親友のマイには用事があるから先に帰るように言って、それから「見せたいものがあるんだけど、暇だったらうちに来ない?」とバカシにやつに声をかけた。普段それほど仲良く話をする間柄でもないのに、声をかけられたバカシのやつはにっこり笑って「いいよ」と答えた。この年頃の男子によくある、女子の誘いを嫌がるとかためらうということもなく、いきなり家に来いという誘いに乗るとはわたしとしても少々意外だった。断られた際に誘う手段もいくつか考えていたのだが無駄になってしまった。
「何見せてくれるんだ?」
くりくりとした両目を期待に輝かせて問いかけるバカシのやつに、わたしは小さく微笑を返した。
「それは見てのお楽しみ、かしらね」
バカシのやつは「なーなー、何見せてくれるのさー」と道中何度も聞いてきたけれど、その度にわたしは「ナイショ」と繰り返し、そのままわたし達は家についた。
「先に入って。誰もいないから、気を使う必要は無いわ」
そう言ってバカシのやつを先に上げて、わたしはドアの鍵をしめてチェーンロックをしっかりと掛けた。両親がいきなり帰ってくることは無いとは思うけれど、一応警戒はしておく必要がある。
「おー。神原の家って、けっこういいとこなんだな」
靴を脱いで玄関に上がったバカシは、しゃがみこんで脱いだばかりの靴をそろえた。
意外だった。靴なんて脱ぎ散らかしていきそうなイメージがあったが、意外にそういうところは育ちがいいようだ。
「わたしの部屋は二階。階段を上がってすぐ右手の部屋よ。見せたいものもそこにあるわ。何か用意してくるから、先に上がって待ってて。ただし、勝手にその辺の物には触らないでちょうだい」
わたしはバカシにそう告げて、キッチンの方に行った。
初めて部屋を訪れるオトコノコに対して、少し無防備すぎやしないかとも思ったけれど、バカシのやつがわたしの部屋の中を勝手に物色して下着を盗み見たりするようなところは想像できなかったし、だいたいわたしはこれからもっとすごいことを彼に対してする気なのだから今更気にしてもしょうがないことだろうと思った。
キッチンで少し気持ちを落ち着けて、グラスに麦茶を入れて部屋に上がると、バカシのやつはわたしの部屋の真ん中で、所在無げに正座していた。
「なんだか、落ち着かないなー。他人の部屋って」
「はじめて来たわたしの部屋で、好き放題にくつろいでたらそっちの方がイヤだわ」
わたしはバカシに麦茶を差し出して、彼の前に足を崩して座った。
「で、何見せてくれるのさ?」
バカシが麦茶をごくりとひと口飲んでいった。
「その前に、いくつか約束して欲しいことがあるわ」
「何?」
「今からわたしが見せるもの、話すこと、やること。全部、誰にも内緒に出来る?」
「んー」
バカシのやつは、珍しく迷ったようにしばらく頭をかいていた。
「よくわからないけど、わかった。ないしょにする」
「ありがとう。絶対に、誰にも内緒にするのよ?」
「うん」
「まず、」
言いかけてわたしは一度息を吐いて、それから深く吸い込んだ。
これまで秘密にしていたことは、やはり誰かに告げるのに勇気が必要だった。
「わたしはかつて、魔法少女を目指していたの」
「え」
バカシの目の色が変わった。
「そうなんだ! で、神原は魔法使えるようになったのか?」
首を左右に振って答えると、バカシは残念そうに「そっかー」とつぶやいた。
わたしは立ち上がって、部屋の隅、押入れの前にかかっているカーテンをそっと開けた。
「あなたに見せたいものは、これよ」
かつての、コレクション。それは、魔法少女のDVDだったり、魔法のステッキだったりフィギュアだったりした。いや、実は今でもこっそりそういう物を集めているのだが、そのことはは親友のマイにも秘密だったりした。
「すっげー!」
バカシの目が輝いた。
「ずっげーな! こんなに色々」
「ここにあるもの、どれでもひとつだけあなたにあげる。その代わり、わたしのお願いを聞いて欲しいんだけど。いいかしら?」
「ほんとか?」
バカシがわたしのコレクションの中から迷わず取り出したのは、かつてわたしが愛用していた魔法少女のステッキ型をしたスカウターだった。
一瞬、複雑な物を感じる。わたしはこのステッキで魔法少女になることは出来なかったのに。
「これ、これ欲しい!」
「選んだってことは、わたしのお願い聞いてくれるってことよね?」
跳ね回る心臓の音を抑えるように、小さく胸を押さえて深呼吸しながら尋ねる。
「じゃ、後ろ向いて、手を組んで?」
素直にこちらに背を向けて後ろ手を組んだバカシの腕を、用意しておいたタオルで縛り上げる。
「そのまま、こっちへ来て」
ベッドの脇にはあらかじめタオルを何枚か敷いてあった。その上にバカシを座らせて、ベッドの角にタオルで縛り付ける。
女の力では十分に縛り付けられたかどうかは不安だったが、ほどけ難い縛り方は研究していたし、まだ迷いのあるわたしとしては本当の所、今この場でタオルを振りほどいてバカシのやつが逃げ出したとしても問題ないのかもしれなかった。
「……なぁ、これが、神原のお願いなのか? なにすんの?」
大人しくベッドに縛られたバカシが、不思議そうに首を傾げる。ここまでされてもわたしを疑わないとは、やっぱり彼は「お馬鹿」なのだろう。
「わたしのお願いは簡単よ。タカシ君、そのステッキをあげるから、あなたのドーテーを頂戴」
言いながら、自身のスカートを少しづつ持ち上げる。
「え。や、やだよ。ドーテーあげたら魔法使いになれないじゃんか!」
「あら、あなたはそのステッキを選んだのでしょう?」
「うー」
「だいたい、あなた、ドーテーってなんだか知ってるの?」
「……清くて、穢れを知らないこと?」
「そう。じゃ、今からあなたを穢してあげる。そう言えば意味は伝わるかしら?」
完全にスカートがめくりあがって、下着を彼の前にさらしていた。
「あ、ともえちゃんだ!」
興味を持ったのか、バカシがわたしのぱんつを凝視する。魔法少女のプリントされた子供用の下着は初めての体験にはちょっとどうかと思ったのだけれど、バカシのやつが相手なのだったら喜んでもらえそうな気がしてわざわざ用意したものだった。
下着そのものより、プリントされた絵柄の方に気を取られるところがバカシらしいと思う。
「気に入ったのなら、これもあげるわ」
わたしは持ち上げたスカートをばさりと下ろして、それからぱんつを脱いで丸めた。
「口をあけて」
馬鹿正直にわたしの言葉に従って開けたバカシの口に、脱いだばかりの下着を押し込む。
「もが!」
さあ、これからが本番だ。
「なんだかこういうのって、少し興奮するわね」
彼のズボンのベルトをはずし、ずらす。
ついでに、えい、とばかりに彼の白いブリーフを引っ張ってずり下げた。
彼は多少は嫌がりはしたものの、基本的にはなすがままだった。
わたしが彼の服を脱がそうとすることに疑問は感じているものの、見られること自体には抵抗は無い、といった様子だった。
「もがー?」
はじめて見るオトコノコのソコは、ハムスターの赤ちゃんのように見えた。
おもったよりもかわいいかもしれない。
「……変ね。わたしの下着を見て少しくらいは大きくなっているのかと思ったけれど。それともこれでおっきくなっているのかしら」
同年代のオトコノコなんて下着チラ見せくらいで十分だろうと思っていたのに、バカシのそこはとても準備が出来ているようには見えなかった。こんなにふにゃふにゃでは、うまく入りそうにない。
用意した資料によると、そういう場合には手や口でどうにかするものらしかったが、わたしにはまだそこまでする覚悟がなかった。
こういう場合は、確か……。用意した資料の中にあったある手段を思い出す。
ベッドの上に置いておいた、薄いゴムの手袋を右手にだけ装着する。流石に素手でそんなところは触りたくなかった。
「えっと、確か、お尻の……」
そっと彼の股間に手を伸ばして、そこへ指を這わせる。
「ここをぎゅってすると、おっきくなるってほんとなのかしら」
「んもーーっ!!」
えい、と指を押し込んだとたん、バカシが悲鳴を上げた。
「あら、あら、あら……っ?!」
見る間に、ハムスターの赤ちゃんが大きくなってゆく。
……ど、どうしよう。こんなの、入らないかも。
思っていた以上に大きくなったソレは、考えていた以上に大きくて、まさか、あのハムスターの赤ちゃんがこんなにも大きくなるなんて思いもしなかった。
せいぜい親指くらいだと思っていたのに。指、三本分だなんて。
そのとき、頭の片隅でちゃらららっちゃーらっちゃーとファンファーレが鳴り響いた。
……レベルが、あがった?
とたんに頭の中がクリアになった。頭の中で思考がぐるぐると回りだす。
この状況で、目的を果たすには、実際にコトに及ぶ必要はないかもしれない。
わたしの目的は彼がドーテーを失ったとしても、それでも魔法使いを目指すのかどうかを知りたいだけであって、彼と実際に身体を重ねることではない。それは手段であって目的ではないのだ。ドーテーの正確な意味すら理解していないようなバカシのことだから、たぶん、これで、うまくいく!
「タカシ君。今、あなたのドーテーを奪ってあげたわ。正確に言うとお尻の処女だけれど、似たようなものよね」
「もがっ?」
「だから、あなたはもう、三十歳になっても魔法使いにはなれないと思うわ」
バカシの口から、さっき詰め込んだわたしのぱんつを引っ張り出してあげる。
「……ほんとか、それ? 俺、もう、魔法使いになれないのか?」
「ええ、本当よ」
「ひどいよ」
叫ぶバカシの唇に、人差し指を突きつけて黙らせる。
「言い訳は見苦しいわよ。経緯はどうあれ、あなたはドーテーを守れなかった。それで、どうするの? それでもまだあなたは、魔法使いになるだなんて言っていられるのかしら」
「……うう」
バカシはしばらく黙っていた。それから、何度か口を開きかけて、また黙った。
「そう、あなたにとって魔法使いになりたいっていう夢は、その程度のことだったのね?」
失望のため息と共に、言葉を吐き出した。
こんな情けない姿を見たかったわけじゃないのに、と思って。
ああ、わたしは本当は彼がこんな状況においてさえ「お馬鹿」を貫き通すことを期待していたのだなということに、この期に及んで初めて気がついた。
なんて無駄な行為をしてしまったのだろう。
わたしは、知りたかったのではなくて、確認したかったのだ。
わたしの中ではどうして欲しいかは決まっていて、ほんとうに彼がそうしてくれるのかただそれを確認したかっただけだったのだ。
「……でも、俺、まだ魔法使いになりたい。どうしたらいいんだろう……」
わたしは彼をベッドに縛り付けていたタオルをほどいて、それから彼の腕を縛っていたタオルもほどいた。バカシは黙ってパンツとズボンを穿き直した。
「ごめん……」
「なんであなたが謝るの。ひどいことをしたのはわたしの方でしょう?」
「でも、ごめん。だって、」
言いかけてバカシは一瞬口ごもった。
「だって、神原泣いてるじゃないか」
「……ばか」
言われてはじめて、自分が涙を流していることに気がついた。
「ステッキとぱんつ、ちゃんと持っていきなさい。それは契約の証なんだから」
なんでわたしは、こんな馬鹿なことを考えたんだろう。
それでも、バカシが魔法使いを目指してくれるなら。わたしのステッキで魔法を使ってくれるなら、なんて馬鹿な考え。そうしたら、自分も魔法少女になれたような、そんな錯覚を得られるんじゃないかと。
「それから、現実を見なさい。現実を見た上で、それでもあなたが魔法使いを目指すようなら、あなたに言いたいことがあるから」
ぱんつとステッキを紙袋にいれてバカシに突き出す。
「……おじゃましました」
バカシは紙袋を受け取って、ぺこりとあたまをさげるとそのまま黙って部屋から出て行った。
しばらくすると玄関のドアが開閉する音がして、彼が帰ったのだとわかった。
わたしはたぶん、いろいろ間違ったのだろうと思う。でも間違ったということを認めるわけにはいかなかった。きっとバカシのやつには嫌われただろうけれど。
でも、いざとなったら怖気づいてしまったせいとはいえ、本当の意味で彼のドーテーを奪わなくて良かったと思った。彼の夢を本当の意味では奪わなくて良かったと思った。
不器用なのだろうか、わたしは。
下半身がスースーするのに気がついて、そういえばぱんつ脱いだままだったな、と真新しい下着をタンスから出して穿いた。そのとき、ぴろりん、と小さな音がして何かのスキルが上がったのを感じた。スカウターの電源を入れて確認すると、見覚えの無いアビリティを新たに習得していた。どうやら、自動で発動するタイプのアビリティらしい。
「”屈折した愛情”、か……」
確かに、わたしにはお似合いだと思った。
各話の後書きでウソばっかりついてる気がします……。