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耳年増なオンナノコのお話

連載小説形式になっていますが、このお話は世界を描くことを目的としているため、基本一話完結の連作短編という形になる予定です。今後どうなるかは今の所未定ですが、主人公(語り手)が変わったり、語られる時系列が前後することがありますのであらかじめご了承下さい。


 目が覚めてすぐに、目覚まし時計のアラームを解除した。

「……よし。今日も目覚ましが鳴る前に起きれた」

 あたしは大きく伸びをして、ベッドから飛び降りた。

 これで、五日連続で早起きに成功だ。

 小さな達成感を感じながら制服に着替えようとパジャマのボタンに手をかけたところで、ふいに頭の片隅でぴろりん、と小さな鈴が転がるような音がした。

 もしかして……!

 あたしは慌てて机の上のスカウターを左耳に装着した。電源をONにすると、ぴぴぴ、と小さな電子音がしていくつかの数字がディスプレイに表示される。

「やった! 早起きスキル上がってる!」

 表示切替のボタンを何度か押すと、早起きスキルのアビリティとして”目覚まし時計ウェイク・アップ”が使用可能になっていた。

「うふふふ。これで深夜アニメ見放題だわ! このアビさえあれば、絶対に朝起きられるんだから」

 これで、寝坊して遅刻することなんてなくなる。

 あたしはうん、とひとつ胸を張って、にこやかな気分でパジャマを脱ぎ捨てた。




 全ての生きとし生けるものにレベルという概念があることが世に知られたのは、まだそれほど昔のことじゃない。

 アフリカの奥地のある部族に伝統的に伝わってきた儀式が、ある人類学者によって世に公表されたときには、その既存の概念を覆すあまりの内容にほとんど見向きもされなかった。

 その儀式というのは、特殊な薬草を使用すると額や手の甲にその人間の格が模様として浮かび上がり、その格が一定以上の者を成人として認めるというようなものだったらしい。

 近代に入ってその薬草の成分が科学的に効果があると証明されてから、コンピューターゲームのRPGにちなんで、いわゆるレベルという概念が一般的に広がった。もっともコンピューターゲームとは違って実際に生きている人間のレベルなんか目で見ることはできないので、現代ではスカウターと呼ばれる特殊な機械を使用して自分や他人のレベルを知ることができる。

 かつての儀式ではレベルしかわからなかったのに対し、現代の科学によるスカウターという機械は、その人間の持つ技能までもスキルやアビリティという形で表示できるまでになっていた。

 あたしの持っているスカウターは、亡くなったひいおばあちゃんから受け継いだ、だいぶ古い型のものなのだけれど、ひいおばあちゃんが得て来たいろいろなアビリティの記録が残っているので、次にどんなアビリティを習得しようかなと迷ったときにいろいろ参考になるので重宝している。

 最新型だと一応そういうライブラリなんかも充実してるらしいのだけれど、あくまで一般化されたものでしかないので、世に数千万あるといわれるスキルやアビリティ全てを網羅しているわけではないし、あるスキルを伸ばした結果必ずしもデータ通りにアビリティを得られるとも限らない。遺伝的に特定の家系にしか発現しないスキルというものもあるらしいし、遺伝的に親族のデータの方が信頼できるのだ。

 データを最新機種に移植できたらよかったのだろうけれど、さすがに戦時中に作られた機械には現代のものとはほとんど互換性が無かった。もっとも互換性があったとしても、今では顔に片メガネのように装着するタイプのスカウターはほとんどないので、このタイプが気に入っているあたしは新機種に乗り換えようとは思わなかっただろう。

 最近では携帯電話と一体化したカードタイプのものが主流で、古いごついタイプの装着型を使用しているあたしは結構めだっているのかもしれない。でも、やっぱりスカウターっていったらこの形だよね、って思うのです。




「ねぇみっちー、聞いて聞いて! あたし今朝あたらしいアビげっとしたの……よ?」

 いつもの待ち合わせ場所に先に来ていた美知子に気がついて、声をかけながらあたしは微妙に違和感を感じて首をかしげた。

 なんだろう。昨日までの美知子とは、どこか違うような気がする。

「おはよー、マイ。あんたのことだからどーせ、しょうもないアビなんだろうけど。見せてごらんなさい」

 美知子は、小さく笑ってカード型のスカウターの電源を入れた。

 美知子から赤外線通信でステータス閲覧の許可を求められたので、許可をしてからもう一度美知子の顔をみつめる。なんだろう、この感じ。何が違うのかははっきりとわからないけれど、昨日までの彼女とはどこか雰囲気が違う。

「目覚まし時計、ねぇ……。こんなの無くたって、朝くらい普通に起きれるんじゃない?」

 美知子は、小さく鼻で笑って肩をすくめた。その様子さえ、なんだか役者のように様になっている。

「……ねえ、みっちー。もしかしてあんた、レベルあがった?」

 美知子は魅力系のスキルやアビリティを伸ばしていたはず。全体的に底上げされるとしたら、レベルが上がったとしか考えられない。でも……。

「あら、スカウター見ないでもわかるものなのねぇ」

 美知子は人差し指を唇にあてて小さく笑った。

「え、みっちー、先週レベルあがったばっかりじゃない?! いったいどうしてもうレベルあがっちゃったの?」

 あたし達くらいの年齢だと、だいたいレベルと年齢は一致するものなのだ。逆に言うと1レベル上がるのにはだいたい一年くらいかかるのが普通で、先週レベル上がったばかりの美知子が、もう次のレベルになっちゃっただなんて信じられない。

 そんなすごい経験なんて、……あ。

「みっちーあんたまさか!」

「もー、ほんとマイは勘が良くてこまるわね?」

 うわー、うわー、うわー。え、まさか、ほんとにヤってしまわれたのですかみっちーさん?

「……相手だれなの?」

「タカシよ、タ・カ・シ。あいつ俺は三十までドーテーを守り抜いて魔法使いになるんだー! とか愉快なこと言ってたじゃない? 嫌がらせついでに、わたしの経験値になってもらったってわけ」

「あー、そうなんだ。へー、そうなんだ。ふーん……」

 タカシ君……か。

 可哀想に……。あんなのはただの不名誉な称号に過ぎないのに、本気で魔法使いになれるって信じてたみたいだったから、人生の目標を叩き折られた彼はすごいショックを受けたんじゃないだろうか……。

「ねぇ、みっちー。あんたタカシ君のこと好きだったの?」

「え、べつに? 嫌いじゃないけど、特に好きでもないわね。同年代のオトコならどれでもたいしてかわらないんじゃない?」

「うわー。あたしはそういう考え出来ないな。たくさん経験得られるからって、好きでもない人とそんなことって……」

「だって来年は受験じゃない? ちょっとでもレベル高い方が有利なんだしさー。マイもたぶん、そのうちそんな甘いこといってられなくなるわよ?」

 美知子がそっとあたしのそばに近づいて、耳元に顔を寄せてきた。

「……それとも、わたしとイケナイことしちゃう? 女の子同士でも意外にいい経験になりそうだし?」

「うにゃー!!」

 あたしはあわてて美知子から距離をとった。

「あたし、のーまるだから!」

「あら。ちょっと、残念」

 ペロリと舌で唇をなめまわす美知子が、とても怖かった。



 結局その日は一日中、美知子とタカシ君のアレな関係に想いを馳せてしまってまったく授業に身が入らなかった。

 タカシ君は、今日は一日中頭を抱えて机にうつ伏していた。ときおりすすり泣くような声が聞こえてきて、俺はもう魔法使いになれないかもしれない、と虚ろな瞳でぶつぶつとつぶやいていたのが印象的だった。

 ご愁傷様、というかむしろ早くにドーテー捨てられたのなら勝ち組なんじゃとも思ったけれど、彼にとってはとんでもない災厄だったらしい。

 彼のステータスを確認したわけではないのだが、本人が望まなかったにせよ、やはり男女間のアレコレというのはものすごい経験だったらしく、タカシ君のレベルも上がっているようだった。

 みっちーとタカシ君が具体的にどんなことをしたのかは教えてもらっていないけれど、レベルが上がっちゃうくらいの経験というのは、やっぱりものすごいことをしちゃったんだろう。

 アレとか、あんなのとか、もしかしたらXXXなことまでやっちゃったんだろうか。

 タカシ君が自分からみっちーに何かしそうには思えないから、やっぱりみっちーからあーんなことやそーんなことをしちゃったんだろうか。

 みっちー、どんだけ無理やり迫ったんだろう……。

 あたしはそこまでしてレベルは上げたくないなって思ったけれど、まったく興味が無いことでもないので、どんな状況なら許せるかな、どこまでなら許せるかな、とついつい妄想に耽ってしまっていた。

 うわー、うわー、うわー。

 思わずピンク色の妄想で頭が埋め尽くされてしまって、顔が真っ赤になった。

 ぴろりん、と小さな音がして、妄想スキルが上がった。

 称号:耳年増をげっとしてしまった……。




 夜、寝る前に”目覚まし時計”のアビを使用して、お布団に入ってからもしばらくは悶々として眠れなかった。

 みっちー、大人の階段あがっちゃったのかー。

 どんなことしたんだろう……。あんなこととか、そんなこととか、しちゃったのかな。

 あたしだったら、アレはできないな。アッチならやってあげてもいいかな、なんて寝返りをうちながら妄想していたら、ふいに頭の片隅でちゃららーちゃーらーちゃっちゃらーとファンファーレが鳴り響いた。

「……え?」

 慌てて布団から飛び出て机の上のスカウターを装着する。

 電源をONにして確認すると、あたしのレベルが上がっていた。

「妄想でも……けっこー経験値はいるんだ……?」

 あたしはひとつ賢くなった。

 ……っていうかあたしの妄想はレベル上がっちゃうクラスなのか。うわーはずかしい……。

■作中における簡単な用語解説

 レベル:

  簡単に言うとその人の総合的な強さなどを数値で表したものです。

  作中においては全ての生きとし生けるものにこのレベルという概念があります。

  取得した総経験値が一定の値になることにより、レベルが上昇します。

  レベルが上昇することにより、スキルやアビリティに補正がかかる設定です。

  このため同じスキル値であってもレベルの高い方が効果が上がります。


 アビリティ:

  スキルを伸ばすことにより習得できる特殊技能です。

  とはいえ、作中におけるものは現実に即しているので

  実のところ大して特別でも特殊でもありません。

  端的に言うと、「タマゴを片手で割ることが出来る」とかそんな感じです。

  ものすごく地味です。基本的に人間が素で出来ることしかできません。

  びっくり人間コンテストに出られるようなアビリティは、

  よっぽど努力しない限り普通の人間には習得できません。

  超能力や魔法のような超常の特殊技能は基本的に存在しませんが、

  虫の知らせなど極一部、超常的に思える特殊技能は存在します。


 スキル:

  技能です。ある技能についてどの程度習熟しているかを数値で表したものを、

  作中ではスキル値といいます。

  端的に言うと、

  英検3級だとか剣道5段みたいなものが目に見えると思ってください。

  作中においては経験値はスキルに対して蓄積されます。

  蓄積された経験値が一定の値になるとスキル値が上昇し、

  アビリティを覚えたりなんらかの称号を得たりします。


 スカウター:

  その人のレベルやスキル、アビリティを調べるための機械です。

  基本的には自分の強さを調べるための機械ですが、

  他人の了承を得るとその人のレベルやスキルも調べることが出来ます。

  戦闘力たったの5か、ゴミめ……。なんてDBごっこも出来ます。


 経験値:

  生きていくうえでの全ての経験を数値で表したものです。

  ただ生きているだけでも、

  日々のなんでもないことで経験は積み重なっていきます。

  初めて行う行為には大量の経験を得られます。


 称号:

  作中においては特に何か効果があるものではありません。

  いくつかのスキル値が一定以上の値になった場合や、

  所定のアビリティを習得した場合に得られることがあります。

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